影
靴を履き替え、薄暗い駅までの帰り道を歩く
疲れた
本当に疲れた
安倍晴明だとか、力とか魂とか呪いとか…意味が分からない
それにこのお札も…
『阿部くんにとっては、護符になると思う』
護符ってなんだよ
俺を守るってなんなんだ
どう考えても、人を呪う系のヤバイやつじゃ…
『それ…部長が“呼び水”として描いたものなんだ
清明を呼ぶための』
『うん
清明が降霊したと言う事は
あなた、”力を持つ人”なんだよ』
なんでこんな事に…
少し先の街灯が、チカチカと点滅している
なんか…嫌な感じだな
と思ったその瞬間、何故か、誰かに監視されているかのような視線を感じて
体中がゾクゾクとして立ち止まった
なんだ…この感覚…
素早く辺りを見回すと、不規則に明滅する街灯の下、黒い影が蠢いている
え…
マジで…
嘘だろ…
目を擦るも、その黒い影は以前そこに存在している
マジ…か…
影は形を持ってない
でも、確かに“こちらを見ている”気配があった
「勘弁してくれよ…」
その影のようなものは、ぬるり、ぬるりと近づいてる
やめろ…来るな…
足がすくむ
逃げようとしても、体が動かない
逃げたいのに、なんで…
視線が、外せない…!
冷たい空気が、肌を刺す
その時
影が視界いっぱいに広がり、まるで、俺を飲み込むように迫ってきた
「っひ、ひえぇっ…!」
どうしょうもなく間抜けな声を出して、反射的に手で避けようとした、その瞬間
手の内に光子の塊が出現し、手が勝手に動く
「っな…!?」
自分の意思じゃない
でも、確かに“俺の手”が動いている
その指先が、空中に“何か”を描いた
円を描き、線を交差させ、見たこともない図形のような模様が浮かび上がる
なんだよこれ…!
描き終えた瞬間、目の前に、透明な壁のようなものが出現した
バチッ──!
光が弾け、空気が震え
黒い影が、それにぶつかって弾かれる
黒い影は揺らめき、やがて霧のように消えていった
俺は思わずその場にへたり込み、震える手を見つめた
「なんだよ…今の…」
俺…本当に見えるようになったのか…?
いや、それだけじゃない…
何かを…”使った”…?
頭が混乱して、呼吸がうまくできない
「どう…なってるんだ…」
静寂が戻った辺り
おもむろに夜の空を見上げる
こんなのはあり得ない
普通じゃ…ない
普通じゃないけど…
もう、普通には戻れない
それだけは、なんとなく…感じる
そして俺は…
それに抗う力を持ってしまった事も…




