1-9 ギルマスの尋問
「おい、そこにあるのはバラクテスだな。倒したのは誰だ」
そのいかつい筋肉の固まりのような、見事なハゲ頭の親父はそんな事を言い出した。全員の視線が俺に集中した。ギルマスは俺の事を舐め回すような視線でねめつけてから言った。
「よくもまあ、Fランクの小僧が。確かにお前のスキルはなかなかの物だとは思ったが、いきなりバラクテスを倒せるほどの物か? 一体何をやった」
そう言われましてもねえ。異世界からの召喚コピー作業を繰り返して魔力を上げて、異世界から取り寄せた凄まじく切れる剣に全魔力を乗せて叩き切ったまでですが。おまけに近代兵器を持ち出して、止めとしてありったけ弾丸をぶち込みましたがね。
言えねえわ。絶対に本当の事は言えねえわ。言ったら幽閉されても、おかしくはない。前門のギルマス、後門の公爵。あれ、おかしいな。俺ってさっきよりもピンチになってねえか?
俺が脂汗をだらだら流しているのを見ておかしそうな顔をしたギルマスは、俺を素通りすると公爵に挨拶した。
「ご無事で何よりでした。実に災難でしたな」
「ええ、でもお陰様でそいつを土産に持って帰れそうなので、かえって幸いであるかもしれません。兄上と来た日には本当に容赦がありませんからな。お前もなまっちろい事を言っておらずに、たまにはダンジョンにでも行ってこいと」
「うわっはっは。あの方らしいですな」
やだ。それのどこが聖王なんだよ。絶対にかかわりあいたくねえ!
俺の頭の中に、上半身をはだけて大槍を頭の上で振り回す辮髪の大男の想像図がババンっと浮かび上がった。
「せっかくのバラクテス、ギルドでも欲しかったが。まあ、仕方がありませんな。いくら吹っ掛けられました?」
「白金貨50枚で、ど」
「おい、それはまた公爵相手に吹っ掛けたもんだな。はっはっは」
公爵に最後まで言わせずにギルマスが被せた。それって公爵様に失礼なんじゃねえ?
どうやら俺は公爵相手に思いっきり吹っ掛けたガメツイぼったくり冒険者の汚名を着せられる事になりそうだ。やれやれ。
「おい、それはギルドに運んでおけ。デライン公爵、バラクテスは後で城まで運んでおきましょう。小僧、お前らはギルドに来るんだ」
矢継ぎ早に指示などを出したギルマス。こうして俺達は、見事にギルドに連行される羽目になった。
まあ、ギルドといってもダンジョンの目と鼻の先だし、ここはもうダンジョンの入り口に近い所だった。ちなみに王都でギルマスになるには現役でSランクになっていないといけないという、とんでもない条件がある。
つまり、このハゲ親父はそういうお方なのであった。見た目だけで、低ランクのモンスターが泣いて逃げ帰りそうだわ。逃げられない、というか俺の上司みたいな人なのだから逃げるのは絶対に無理だ。諦めてついていくしかない。
結局、何も試すこともできないうちに撤収と相成った。まあ、あそこで半分くらいに減らしておいた魔力が、バラクテスとやりあった時には満タンになったのは確認出来ていたが。
そうでなかったら、俺達全員あそこで死んでいたな。国王の弟様も含めて。そうなっていたら、えらい騒ぎになっただろうなあ。
驚く事に、魔力はもうすでに満タンになっていた。ダンジョンは優秀な魔力充電器だ。その事がわかったのが本日の収穫だな。次回は深く潜って試してみなくてはならない。
ギルドに着くなり、ギルマスはどんどん奥へと進んでいき、階段を登って2階にあるギルマス執務室へと進んでいった。
「まあ座れ」
ギルマス執務室の長椅子に、ぎこちなく4人で座る俺達にまず彼は労ってくれた。
「お前達、よくやった。タイミングは最悪だったな。かなりの死傷者が出たようだ。生憎と、居合わせたのがCランク冒険者以下しかいなかったから被害は甚大なものに上った。あれで、公爵閣下まで奴の牙にかかっていたら、目も当てられんところだった。あの怪物はいかれていてな。何故かダンジョンの外に出たがるのだ。突発的に発生するのでな、困ったものよ」
うわあ、なんて奴だ。よかったぜ、あそこで止められて。
「外には店もたくさんあるからな。死人の山ができただろう。あいつは素早いので、門を閉鎖する前に突破されてしまうのだ。今回も避けたものには目もくれず、立ちふさがるものは跳ね飛ばして一直線に向かってきたらしい」
俺は少し首を捻った。ジーンも同じ考えだったようで、ギルマスに尋ねた。
「それなら、どうしてあそこで部屋に入ってきたのかしら。まっすぐ外に向かっていたんでしょう?」
「うむ、それなのだがな。お前達、これは口外するなよ。あのバラクテスという魔物はな、国王の一族に執着する習性がある特別な魔物なのだ。何故だかは知らん。昔から沸くと一直線に出口を目指し、城を目指すのだ」
「なるほど、それで一瞬入り口で動きを止めやがったのかよ。公爵を狙っていたのか。最初の勢いで来られてたら、俺はやられてた。相手が、あの短距離のダッシュだったから斬れたんだ」
クラウスが驚いたように言った。
「え、勢いがあったほうがいいんじゃないのか?」
「馬鹿、刀がへし折れていたさ。魔法金属でできているわけじゃない。いくら魔法を纏わせていたとしても、鉄の剣じゃな。硬かったぜー。お前も聞いただろう、あの激突した時の音を」
くっくっく、とギルマスが笑を漏らしていた。
「そうか、鉄の剣であれを切ったか。わしが昔斬った時にはオリハルコンで切ったものだが」
そして、面白そうな顔から一転して厳しい顔付きとなり言った。
「その剣を見せてみろ」
俺は観念して、黙って刀を差し出した。
「ほお、変わった剣だな。反りがあるのか」
そして、スラリっと引き抜いて一言。
「美しい。なんという美しい剣だ。それに、あれを斬って刃毀れ一つせなんだか」
「まあ、美しい物ですよ。世界一美しい刀剣と言われ、今は美術品扱いですね。それは特別な物で、買えば白金貨2枚近くはしますかね。何しろ昔の日本刀の製法は失われてしまっていますから。世界中にコレクターがいますよ」
他の3人が息を飲んだ。値段は言ってなかったからな。
「買う? どこでだ」
「ネット通販で」
もうヤケクソで言い切ってやった。
「ネット通販? なんだ、それは」
「それでわからない奴には説明のしようがありませんね。日本なら小学生でも知っていますよ」
「日本?」
俺はその場で、空気と水を原料にしたセルロース相当の原料でダウンロード召喚して作成した、地球の地図を見せてやった。そして日本を指差した。
「この小さな島国が日本。ちなみに小学生というのは、6歳から12歳の子が行く学校ですね。インターネットなんて授業で普通に使っていますよ」
ギルマスは、ただただ唸っていた。
「俺にはわかる。お前は嘘を言っているようには見えない。だが何を言っているのかが、さっぱりわからん」
「それはそうでしょうね。逆に理解できたら、こっちがたまげますよ。それではこれで」
俺は立ちあがった。ここいらが潮時だろう。話していても埒が明かない。
「待て、まだ話は終わっていないぞ。何か物凄い音を立てていたそうだな。見ていた者の話によると、真っ二つになってからもアレは生きていて、お前は何かであれを倒した。あれは何だ」
そんなに見ていた奴がいたのかよ。薬莢を拾わせておいてよかったぜ。
「これの事ですか?」
そう言って俺は収納袋から堂々とアサルトライフルを取り出した。
「これを扱える冒険者なんていませんよ、この俺以外にはね」
「なんだそれは。そんな物は見た事がないが。魔道具か?」
「いいえ」
俺はそれを綺麗に分解してみせた。そして、鮮やかにあっという間に組み立てた。こういうの好きなんだよ。
「な、なんという精密な。これは機械なのか」
「へえ、ここにも機械なんて物があるのか」
俺の少々侮蔑が入った言葉に引っ掛かったのか訊き返された。
「お前は何者だ」
「俺はシャル。オンサ村出身のFランク冒険者だ」
しばらく俺をじっと見ていたが、諦めたように目を背けた。
「まあ、今日のところはそういう事にしておいてやろう」
やれやれ、もっと食い下がってくるかなと思ったんだけどな。まあその方が助かるが。




