1-10 お買い物
「ところでギルマス、収納袋って入荷していないかい?」
「無い事もないが、性能のいい物の在庫があったかな。下で聞いてやろう。どうせいい物が欲しいのだろう」
俺は頷いておいた。何でもお見通しなんだな。
「あと貯金もしておきたい」
「ああ、いいだろう。ここで登録した冒険者はそのまま金を預けられる」
「クラウス」
俺は白金貨を半分、クラウスに差し出した。
「おい、あれを倒したのはお前だろう」
「何を言っている。俺達はパーティだぞ。ビジネスに資金が必要なら均等に徴収して始めるよ。まあ、なるべく徴収は無しにしたいと思ってるんだが。資金はその都度ひねり出せばいいんだしな。今度俺達で家を買わないか。それはまだ先でいいけどな」
「わかった。貰っておくよ。家か、それも悪くないな。でも今いるところは結構気にいってるんだが」
「俺達もそうだよ」
俺はギルマスに向き直って頼んだ。
「今日は色々仕度を整えたい」
「わかった。ついてこい」
俺達はギルマスの後に続いてぞろぞろと歩いていった。そして収納袋をおいてある、特別な販売品のコーナーで担当の人に聞いてくれる。こういう物はギルマスを通さないと無理だ。
「まず、さっき言っていた収納袋だが、今ある在庫で最高級の物はない。ちなみに白金貨10枚はするがな。その代わり無限収納だ。滅多に入荷しないが、要るなら抑えておいてやろう。こいつの代金はそのまま全額預金の中から預かり金を貰うぞ」
クラウスが軽く口笛を吹いた。
「マジか、要る。クラウス、さっそくで悪いがこいつの分は全員で均等に負担してくれ、これは商売用だ」
クラウスは片手を上げて肯定を示す。この肯定にはジェンカの分も入っている。俺とジーンがワンセットだ。
「わかった。入ったら抑えておこう。では金はお前らの預金から均等に差し引くぞ。在庫があるのはその次のクラスだ。これは白金貨2枚だが2個あるがどうする?」
クラウスは考え込んでいたが、俺は言っておいた。
「持っておけ。何があるかわからん。ダンジョンで離されたりする事もあるかもしれんし」
「そうだな、じゃあ俺達も。じゃあそいつはジェンカ、お前が持っててくれ」
これでお互い白金貨18枚か。入ってきた方も多かったが出費も激しいな。
「そいつはかなりのサイズがあるぞ。このギルドくらいの大きさはある。使う事の可能な人間も限定できる。後からギルドでなら変更は可能だがな」
クラウスがまた口笛を吹いた。
「少々でかい獲物でも持ち帰るのに、困らないな」
「ああ、こっちは商品なんかを入れる予定だから獲物はそっちで頼む。あと素材や商品を預かってもらうかもしれないし」
「お前、商品をどれだけ用意するつもりなんだよ」
ここの王都アリアのギルドはでかい。理由はダンジョンがあるからだ。
俺が知る範囲では、ダンジョンなんて物があるのはここ聖アリオン王国だけだ。何か曰くがあるらしい。むしろ、『そのために』王国があるらしい。だから、国名の前に『聖』がついているのだ。田舎村の俺達が冒険者になろうと思ったのも、ここにダンジョンがあったからなんだ。
ダンジョンからは、莫大な上がりがある。買い取りをしたり、冒険者用の装備を用意したりと色んな部署もある。倉庫も大きな物を用意してある。高ランク冒険者が丸ごと持ち帰った獲物の解体場もある。
あと、何かあったら対応しないといけないのもあって、ここのギルドはかなりの大きさを占める。高層ではないが、でかいデパート1軒分くらいの面積はあるのではないか。
莫大な収納量である。普通なら獲物袋を兼ねても有り余る容量だけど、俺は大量の商品を蓄える予定なので無限収納が欲しい。最高級品が手に入ったら、今の物はジーンに渡そう。
「後は金貨50枚のタイプだな。これなら大型馬車1台分は入る」
「じゃあ、これをジーンとジェンカに」
これで残り白金貨17枚半か。
「次は俺達の装備だな」
俺の武器はいらない、そう言おうと思った矢先、ギルマスがニヤリと笑いやがった。
「オリハルコンがあるが、どうする?」
う、欲しい。だが高そうだ。
「何、中古だ。この先何があるかわからん。魔法剣持ちなら1本持っておいて困る事はない。今回みたいなことがあって、風ではなく他の属性が必要だったらどうするつもりだ?」
うお、見抜かれていたのか、さすがは元Sランクだ。
「い、いくら?」
「破格の白金貨6枚だ。ふつうなら、この5倍は軽くする代物だぞ」
「なんで、そんなに安くなってるんだよ」
「ちょっと買い手がいない剣でな。お前なら見ればわかる」
な、なんだ? やけに勿体つけるな。
「これだ。抜いてみろ」
俺は言われた通りにしてみたが、なるほど。こいつは使い手を選ぶわ。
すげえ癖がある。金を持ってる奴なら絶対に買わないわ。なんていうのかな。かつての持ち主の癖が、がっつりと染み込んでいるっていうのか。
癖の付き過ぎたエンジンや銃みたいな感じだろうか。魔法剣の使い手が手にしたら、その場で顔を顰めるような物だ。
「ちょっと魔力を込めていいかい?」
「ああ」
俺はそいつに軽く魔力を込めて操った。ほお、以外といけるね。実際にこいつを振るってみないと、こいつの良さみたいなのはわからないだろうな。
馴染むと凄いパワーを出してくれそうだ。荒っぽくて、そのまま流れていってしまいそうな所もむしろそこを生かしてやれば更に強い力を生む。
かと思えば繊細な扱いを要求される面もある。なんというか、F1マシンのエンジンみたいな。パワーバンドをキープしてポテンシャルを完全に引き出してやれば、最高の剣となりうる。
さぞかし達人が使っていたんだろう。この剣が魔法剣の師匠になってくれる可能性すらある。扱いづらいが使いこなせば一級品、そして使い手を選ぶ代物だ。
「おいギルマス。この曰くつきを引き取ってやるから、もうちょっと負けろよ」
彼は軽く笑うと、ハゲ頭をてからせながら、にいっと歯をむき出していった。
「お前はいい商人になれそうだな。いいだろう。白金貨4枚に負けてやる」
これで俺とジーンの持ち金は13枚半になった。
必要な物ばかり買っているはずなんだが、金は驚くほどの減りを見せた。だが、まだだ。防具とジーンのスタッフがある。
「次に大物の、スタッフを見せてほしい」
「よかろう。また掘り出し物があるぞ」
さっきの剣の話があったので、俺はちょっと警戒した。
「おい、ジーンにはあんまり変な物は」
「心配するな、今度は本当に掘り出し物だ」
そう言って担当の人間に出させた物は、なかなかの物だった。よく使い込んだもので古かったが、デザインは悪くもなく飾られた魔石は非常に美しい。値段を聞くのが怖くなってくるような代物だ。
「どうだ、逸品だぞ。確か作った時には白金貨100枚したはずだ」
ギルマスは楽しそうだ。それって、ほぼロト7の最高賞金に等しいんじゃないのか?
「で、おいくらかな?」
俺はジト目で奴を見たが、ヒーラーである賢者の得物をケチるパーティの平均寿命はきっと短い。覚悟を決めた。
「何、ほんの白金貨2枚さ。こいつの持ち主は、対価なくこれを預けていかれてな。お前の眼鏡に叶う特別な者にしか与えてはいけないと、おっしゃられておった」
おっしゃられて、ですか。前の持ち主の名は聞かないことにしておこう。安いなら助かる。
「わかった。もらうよ。ジーン、それ使えるよな」
「え、ええ。でもいいのかしら。こんな凄い杖を私なんかが使ってしまって」
手にとって確認していたが、そんな風に思える品であるらしい。これで残りの白金貨は11枚半。だが、パーティの生存確率は相当に上がった。
何しろ、あの怪物がCランクプラスだ。Bランクは、あの上なんだからな。ここまでの装備があれば、今ならあいつも楽に倒せるだろう。




