1-7 御貴族様
俺達は王都の町並みを進んで、ほどなく『ダンジョン』へと辿り着いた。それは、その場所にあまりにも不釣り合いな物のように見える。
ここは王都アリア、このあたりでは盟主といってもいいような大国、聖アリオン王国の首都なのだ。にもかかわらず、そのど真ん中にこんなダンジョンなんてものがある。万が一に備えて設けられた、高い壁に二重に囲まれて。
何か事情があるらしいのだが、そんな事は俺達の知ったこっちゃないのだ~。
入り口には、出入りをチェックする係が何人かいて、そのあたりを確認している。このダンジョンは王国から冒険者ギルドに管理が委託されていて、冒険者以外は入る事はできない。
シーフのジェンカを先頭にして、すぐにスイッチできるようにタンクでもある戦士のクラウスが続く。その後にジーンと俺が続く。
戦闘になればクラウスと俺が前衛、そしてジェンカとジーンが後衛だ。敵が後ろにいる撤収時には俺が先頭に立ち、ジェンカが探索のための補佐。
ジーンが続いて、クラウスが殿を務める。ヤバイようならジーンとジェンカが入れ替わる。俺達のパーティの場合は神官が王だ。これを守る隊形が基本陣形となる。
「これからどうする?」
ジェンカが訪ねてきたので、即答する。
「もう少し行って落ち着ける場所へ行こう」
「了解」
もう少し行くと、かつてモンスターハウスだった場所に出る。そこで落ち着こうと思っている。何しろ入ってそう歩かないところにあるため、よっぽどでないと用途がないので人はいないはずだ。
極たまに、貴族の子弟なんかが家のしきたりでどうしてもダンジョンに入らなくてはならない場合とかで、ここで過ごしている事がある。そういう時は見ない振りをしてあげるのが暗黙の了解だ。
なぜなら、そんな時は必ず冒険者が雇ってもらえるのだ。それは必ずしも高ランクの冒険者である必要はない。
そういう時はそのへんの魔物でも狩って帰れば貴族は格好がつくのだ。しかも対価は大きい。貴族のお守りは家臣の人がしてくれるのが普通だ。新人冒険者にとっては、実に美味しい仕事なのだ。
そして、なんと今日はそんな貴族がいた。なんかいかにも頼りない感じのお坊ちゃんだった。綺麗に整えられた金髪で歳の頃は30歳近いかもしれない。
御付きの爺やさんのような人と、侍女さんみたいな人、それにいい体をしていて武装している人がいた。多分、下男の人だろう。
ここは冒険者もいっぱいの入り口付近だ。ここにいる限りは何かあったとしても、まず冒険者がなんとかしてくれるのだ。何しろお得意様だからねえ。
俺達はルール通りに暗黙の了解を守っていた。御付きの人はチラっと見たが、いかにも新人といった風体と、きちんとルールを守っていたのでよしとしてくれたらしい。
だが、空気を読まない人というのはいるものだ。当の御坊ちゃんが話しかけてきたのだ。
「あの、冒険者の人ですよね」
俺とクラウスはチラっと目線を合わせたが、様子を見ようという考えにまとまった。
「ええ! ここには基本的に冒険者しか入れないですから。俺達は新人なので、ここで気を落ち着けてから行く予定なんです」
この前のような事にならないためにもな。
「そうですか。あなた方も多分ご承知だとは思いますが、私は家からダンジョンで魔物を狩ってくるよう言われていまして。冒険者の方に狩りをお願いしているのですが、その人達がもうかれこれ丸一昼夜帰ってまいりません。これは何かあったと思うべきなのでしょうね」
俺達は全員顔を見合わせた。
「それは確かなのですか? こんな事を言っては失礼ですが、あなた様のご依頼のような件は多分私たちにでもこなせるレベルの任務です。帰ってこないのは、どんなランクの冒険者なのですか」
貴族のお坊ちゃんは少し言い澱みながらも、こう言った。
「Cランクの冒険者です」
「えっ、それは本当ですか?」
俺達は驚いてしまった。Cランク。それは、高ランクとは呼ばれない一般の冒険者の中では最高のランクだ。それ以上となると、一気に数を減らす。
いわば大概の冒険者の中では、最高峰にあたる冒険者のランクで、ギルドでは指導的な役割を果たす存在だ。
この前俺を助けてくれたサムソンさんは、若いながら高ランクのBランクの冒険者で、まだ上へ上がるだろうと言われている有望株だ。
あの時に出た怪物はCランク。あの時には俺達は初ダンジョンなのにもかかわらず調子に乗って、6階層から始まる強敵が出現する平原地帯の8階層まで行ってしまった。
それでも通常、Cランク魔物は10階層からしか出ないので、イレギュラーであったといえよう。能力との相性もあるので一概には言えないのだが、Cランクの冒険者は1対1でCランクの魔物を倒せるのが通常だ。
「あの、その人達は何人のパーティだったのでしょうか?」
「5人でした。全員Cランクと伺っています」
お坊ちゃんは不安そうに答えてくれる。
そ、それは~。何かイレギュラーが起きているのだ。こんな仕事でオーバーナイトするCランクパーティがいるわけがない。
「恐れながら申し上げます。それは必ず何かのトラブルに出会ったのだと思います。この仕事は日帰りでやる仕事です。1人でも無事であるならば、戻って依頼主やギルドに報告する義務がありますので。全滅したか、何らかのトラブルで戻れなくなったかのどちらかでしょう」
お坊ちゃんは頭を抱えて、こちらを見て言った。
「報酬ははずみます。あなた達に見てきていただくわけにはいきませんでしょうか」
「無理です。Cランク5人のパーティが帰らないという事は、イレギュラーでBランク以上の強力な魔物が現れた可能性もありますので。あなた方も一旦は退避して冒険者ギルドに報告なさったほうがいいでしょう」
美味しい仕事だが、俺達にはヤバ過ぎる。
お坊ちゃん御一行様は、今の話を聞いて大慌てで帰り仕度を始めた。
「おい、どうする」
クラウスも困惑しているようだった。
「いや、どうするって言われてもなあ。戻ろう、またこの前みたいになってもな」
「そうね、出直しましょう」
ジーンも賛成したので腰をあげたが、シーフのジェンカから制止がかかった。
「ちょっと待って、みんな。何か来る」
ジェンカは少し気配を探っていたが、直に青ざめた。
「ば、馬鹿な。そんな馬鹿な事って。これは、これは~。武装! 全員戦闘準備! いいえ。みんな、各々逃げて。なんとしても逃げのびて~。は、早いわ、もう来るっ」
俺達は一斉に対応に入ったが、御貴族様御一行はその意味が理解できなかったらしい。ただボケっとしている。そして、そいつはこの袋のネズミとなっている俺達がいる部屋の入り口に姿を現した。
それは、異形の者だった。いや、魔物なんて皆異形に決まっているのであるが、そいつはその有りようが異形いや異様なのであった。
そいつを一目見るなり、俺にもジェンカの恐慌の意味が理解できた。それはCランクプラス。ある意味、Bランクよりさえも、やっかいな魔物なのだ。




