1-6 準備万端
お昼頃には、もう魔力が満タンになってきた。心なしか、魔力の回復速度も上がってきたようだ。今回は更にパワーアップした感じだ。俺はまた狙っていた物をネット販売から手に入れることに成功した。ジーンの収納袋に入れておいてもらう。
「それは一体なあに? なんだか見た事がない物ね。重そうだわ」
「危ないから絶対に触らないでくれよ。一応、保険で持っているだけなんだ」
だが思いっきり魔力を消耗して、ほぼ0になってしまった。幸いな事に魔力を完全に消耗しても倒れる事はない。精神により魔力を生み出しているのではなく、バッテリーのように蓄えている感じが近い。
「シャル、お昼食べに行こうよ」
「そうだね、朝はあれだけだったからな」
試食とはいえ、育ち盛りが非常食だけで済ますのはキツイ。
「ダンジョン行きに備えて、栄養つけておくか」
「うん。治ったとはいえ、病み上がりなんだから気をつけてね」
そういえば、怪我の治りが早い事の説明がつかないな。まあ困りはしないけれども。
俺達の部屋のある建物は、今は持ち主がいない。強いていえば街で管理している。
立地がいいので別の建物にするために壊す事も検討されたようだが、冒険者ギルドがかけあって若い冒険者に格安で提供してくれる話になったのだ。
たまたま俺達はそれの抽選に参加できて俺とジーンは当選できたが、クラウス達ははずれてしまった。だが2人はギルドが紹介してくれた家に下宿しているのだ。
懐っこいジェンカは、世話してくれるおばさんがいて楽しいらしいが、俺達はプライベート感が溢れるこっちの方がいい。
この部屋に天井は無いけどな。他の部屋にあるのは幸いだ。その代わり、この部屋には素晴らしい眺望がある。
ここは全部で7部屋ある。だが一つはすでに空き部屋になったかもしれない。2人組の主は、ずっと帰ってこないらしい。家賃の切れる月末には空き部屋になるだろう。俺達もせいぜい気をつけるとしよう。特に俺はやらかしたばっかりだ。
夕方までに俺はまた工作を始めた。ある物が欲しいのだ。その材料として、ギルドで鉄屑をもらってきた。他にあちこちでもらってきた煤や炭。こいつは竈からの頂き物だ。愛しのスイートルームに並べられたそれらの物品を見て、ジーンは呆れてしまって首を傾げている。
「そんな物を一体どうするの?」
「これで刀を作るんだ」
「カタナ?」
「異世界の剣だ。よく切れる。こっちの人間には扱えないかもな」
うん、俺も巻藁しか斬った事はないんですがね。しかもレジャーで斬らせてくれる奴で。
もう販売サイトは見つけてある。色んなタイプがあるが、とりあえず俺が使えそうな太刀と脇差にした。俺の体格だと、あまり大きな刀は扱えない。
物によってもバランスが非常に異なる。同じ刀でも持つ人によって微妙にバランスが異なるのだ。昔みたいに斬りあうならそのあたりが影響するだろう。俺も剣道は嗜んでいたので、刀の方が性に合う。
大昔の、凄くよく切れる剣。軽く1000万円以上する凄い奴だ。はたして作れるか。
だが、見事な日本刀が10振りほど、俺の目の前、ベッドの上にあった。セクシーだぜ。
「凄いな。やっぱり原料があると、かなり生産力が上がるんだ」
まとめて10個作ったらどうなるか試してみたのだが、全部作れてしまえたのだ。高級品の他にも色んなタイプで相性を試してみたかった。
「へえ、これがカタナかあ。変わった感じね」
「ああ、鉈の重さと剃刀の切れ味。魔法剣にはおおざっぱに言って2種類がある。一つは切れ味を上げる物、そして炎のような強烈な魔法効果を与える物。この刀は風の魔法を纏わせたら、切れないものは無いかもな」
その他にも特殊な魔法剣があるらしいが、新米冒険者の俺にはまだ縁の無い話だ。
俺は鞘から刀を抜き放った。
「うわあ、綺麗ねー」
「ああ、これは国宝に匹敵するような物だからな。よく売っていたものだ」
日本刀は手入れが難しい。使い捨てにして、原料に回してリサイクルするしかないかもな。
余った魔力で昼に手に入れた物をもう一つ作り、それに使う消耗品を作成する。そして、鉄が無くなったので、水場に行ってペットボトルの水を作ってみた。
水と空気からプラスチックは作ってある。正確にはネットでプラスチック製品を買うのだ。原料っぽい奴を。
それで水や酸素を一旦プラスチック原料に変える。そこからまたそれを原料にして買い物をするのだ。蓋の原料のPPもOKだ。
ペットボトルの水はドカンっと出来てしまった。まとめて1000本。慌ててジーンの収納袋に仕舞ってもらった。それで収納袋の容量約1/4が塞がってしまったけど。俺達には水魔法使いはいない。あっても悪くはないものだ。
俺は寝るまでに、色々作っておいた。とにかく要りそうな物。水と空気、そして炭などから作る事のできる炭化水素系の物品は強かった。プラスチック素材の製品は作りまくって部屋に置いた。後で原料にするつもりだ。洗濯バサミなんかは売ってもいいかもなあ。
「あー、俺も収納袋が欲しいなあ」
「これ、あげようか?」
「そうじゃなくって、もっといっぱい入る奴さ。とりあえずは、もう一つそれと同じ奴の中古の袋が欲しいなあ」
とにかく倉庫代わりにできる物がほしい。ジーンに預けてある物も本当は自分で持ちたいんだ。
「じゃあ頑張って稼がないとね」
ジーンは可愛い手で口元を押さえて、くすくすと笑った。
「頑張るさ、とりあえず続きは明日ね」
俺達はまた暗い部屋の中で着替えてから、ベッドに入る。
「おやすみ、シャル」
キスしてくれてジーンは目を瞑り床についた。俺もそのまま布団の中にもぐりこむ。
朝がやってきた。ラジオ体操でもしたいくらいのすがすがしさだ。
なんだか、今日の俺は一味違う気がするぜ。なんというのか魔力が半端ない。昨日1日中、頑張っていたからだろうか。
試しに色々原料無しで召喚スキルを用いて作成してみた。おお、ガンガンできるぜ。だが悲しい事に俺には収納袋はない。ジーンに頼んで持って行きたい物だけを収納してもらう。
「やっほー。ぐっもーにん」
「よお、体調はどうだ」
ジェンカとクラウスがやってきた。この前は俺がミソをつけてしまったからな。ダンジョン不完全燃焼だったんで、この2人も今日は張り切っているんだろう。
「ああ、俺はもう大丈夫。今日の目的はあくまで調査なんだ。魔石は手に入れるのも、そのうちだけど。お前らも、あまり熱くなるなよ」
2人とも一瞬こっちを見たまま黙ってしまったが、次の瞬間には2人とも大爆笑だ。ジーンも笑いを堪えきれないようだ。
「ねえ、今の聞いた?」
「ああ、前回あれだけ熱くなっていた奴がなあ」
「ちょっと、お前ら。さっきのマジ、マジですから~」
まったくよう、失礼しちまうぜ。まあ無理もないんだがな。青かったね、シャル君。
「さあ、出かけるぜ」
俺はリュックを背負うと、他の3人を促した。
二階から降りて、外へ出ると眩しい朝の光の中、雑踏には多くの人が犇いていた。俺達と同じ冒険者、この街在住の商人らしき人達。朝からまだ眠そうな子供達を急かしながら歩く母親。ここには確かに幾多の生が息づいていた。
「おはよう、ハンナおばさん」
道沿いに開かれる露天市の一角に、知り合いの人を見つけて声をかけるジーン。
「おや、ジーン。朝からダンジョンかい? このグランスの果実はなかなか出回らないんだよ。買っていかないかい?」
「そうですねえ。どうしようかなあ」
ジーンは迷っている。欲しいのだけれど、まだお金が稼げていないので節約しているのだ。
「おばさん、美味しそうだね。それ貰うよ」
「おや、シャル。今日もいい男っぷりだね。じゃあ、1個おまけだ」
高価な果物だったが、3個ずつの値段に1個おまけしてくれた。
「ありがとう、おばさん。これなら4人で1個ずつだ」
俺はおばさんに手を振りながら先に進んだ。
「よかったの? シャル」
「なあに、無理すれば、今スキルで買える物品でもお金にはできるんだ。俺が慎重なだけさ。トラブルは御免だけど、美味しい物を無理に我慢するほどじゃないよ」
ジーンも素晴らしい笑顔を見せてくれた。それだけで俺には何物にも代えがたい価値がある。
さあ、お素敵なおやつも手に入った事だし、準備万端だな。




