2-26 王城屋台村
「これは珍しい奴が来たものだ」
俺とギルマスは、国王の前で雁首並べていた。
普通なら、こんな人相の奴が城の国王に面会に来たら騎士団が大騒ぎしておおとりものになりそうなのだが、ここでも随分名が知れ渡っているようだった。
そういやデライン公爵とも仲がよかったようだな。
色々やるつもりなので、クラウス達も全員呼んできた。
「ご無沙汰しております。また、こいつが妙な事を言い出しましたもので」
「王様。夏ですよ、祭の季節がやってきました」
というか、もう真っ盛りなんだがな。国王もやっぱり妙な顔をしている。
「祭?」
「そう、夏祭です!」
俺は夏の部分を、しっかりと強調しておいた。
「そうか。お前が言うのならそれは楽しいものらしいな」
「それは、もちろん!」
ジーンと浴衣を着て歩くのさ~。でもジーンは細身だからどうだろう。出るところは出ているし。外人さんに浴衣は似合わないのだ。というか着付けが大変らしい。俺がまた煩悩に支配されているので、国王が面白そうな顔をして見ている。
「ちょっといつもの庭園に出ませんか?」
「よかろう」
そう言ってから国王は、侍女に宰相や他の王族を呼ぶように申し付けた。
「それでは~」
俺はまず屋台を組んでみた。とりあえず各種の台に調理器具をつけて、暖簾や販売台を取り付けていく。
「さあ、お前らもこれを着て!」
そう言って仲間達に法被を渡す。
「これはまた妙なもんだよな」
「まあ、いいじゃないの。楽しそうだし」
ジェンカはお気楽で、そのまま袖を通す。ああ、ジーンは何を着ても可愛らしいぜ。
「また美味しそうなのを食べるんですね」
「リュウもいっぱい食べるの~」
ブレない奴らが張り切っていたが、釘をさしておく。
「おい、今日は食うのが目的じゃなくて、王様に見てもらうのがメインだからな。あと、お城の人にもモニターになってもらうんだから、お前も働け。あ、リュウは食ってていいよ」
「そんな殺生なあ」
もうこの世の終わりのような顔をしたアイカがいる。
「食わせないとは言ってないだろ。今日は数が多いんだからな」
俺はそういうと、あれこれ並べだした。今日は電源が要る物が多いので、メタノール水溶液を燃料とする燃料電池発電機を持ち出した。
「さあ、並べていくぞ」
そして生ビールの生樽とサーバーだ。中身入りプロパンガスのような危険物ではないので、普通に売っていて助かる。
こいつはアルミ缶に入っていて、原料的に少し困ったもんだ。地殻には大量に含まれているアルミも、王都のど真ん中ではな。
暇を見てある程度の数は揃えておいたのだ。後はリサイクルしていけばいい。中身の方は麦をメインで使えば、魔力の消耗は少ない。
俺はまず『カラアゲ』から入っていった。こいつは絶対にはずせない。御祭り用の手持ちにするカップやプラスチックの楊枝を持ち出して、仕上げていく。
まあ素人仕事だがなんとか格好はつく。会社のイベントでやっていただけだけどね。生ビールも注いで国王に差し出した。
「ほう、熱々だな。この酒もなんとも爽やかな喉越しだな」
「こいつは夏祭りには欠かせませんよ」
それから牛串を焼きながらクラウスにタッチした。一応ガスの取り扱いは覚えさせてある。
「こっちのトウモロコシも焼いてくれ」
包装用の藁半紙やビニールなんかも用意した。
「ジーン、カラアゲに挑戦してみてくれる? レミーも手伝ってやってくれ」
作り方は教えてあるのだ。
「うーん、こんな機械でどうかしらね」
「後でまた見に来るよ」
「レミー、味見役は要りませんか?」
俺はアイカの頭をはたき、引っ立てた。
「お前にも出来ることがあるから安心しろ」
「リュウは? リュウは~?」
「そうだな。お前はアイカのお手伝いで」
「わあい」
小躍りする子供ドラゴンは凄く可愛いな。アイカ、子守は任せたぞ。
宰相は念入りに一台一台を細かくチェックしている。いきなり懐から白い手袋を取り出して、すーっと指先で撫でて、埃が付いているのを見せ付けるような、あの雰囲気。まあ気の済むまでやらしておくか。
「アイカ、お前にはこいつだ!」
そして俺はポップコーン機を取り出した。
まあ、こいつは機械がやってくれるので基本的に技術はいらんしね。まず見本を見せる。一番派手な機械なので、子供達がやってくる。侍女さんも子供達のお世話をしながら物珍しそうに見学していた。
「じゃあ、行くぜ~」
電源オン。御祭り仕様で激しく明滅するLEDランプ。
「おお~」
アイカやリュウを始め、子供達がどよめく。宰相もこちらへやってきた。
いや、片手に生ビールを、反対側に串焼きを手にした国王とデライン公爵も駆けつけてくる。この2人が実の兄弟だというのがよくわかる構図だな。
そして機械は唸り、ポンポンとはじけるポップコーンに大歓声が沸いた。
「これはよいな。実に楽しいではないか。いや異世界万歳だ」
「いやはや素晴らしいですね~。異世界に乾杯」
この兄弟、リアクションも似たようなものだ。この世界、王族は兄弟で殺しあうほど仲の悪い事も少なくないそうだが、ここは違うようだ。
それもあって、無事治まっている部分もあるようで。だが、きっとそうあるように宰相が腕を振るってきたのだ。
今、彼らが俺の差し出す物に夢中なのも宰相がそのように仕向けているのかもしれない。俺にとっては、大変ありがたい事なのだけど。絶対に、あの爺さんには逆らってはならない。
「美味しいの~。ポップコーン、美味しいの~」
うちの娘はポップコーンにもう夢中だ。
すっかり客寄せのためのサクラになりきっている。アイカもつまみ食いしつつ、夢中になってポップコーンを作りまくっている。
「おい、アイカ。ポップコーンも作りたてが美味しいんだ。冷めると味が落ちる。いっぺんに作りすぎるなよ」
だが、アイカは黙って俺の後ろを指差した。なんだ?
だが振り向いた俺も驚愕した。
「こ、これは!」




