2-24 第一回聖アリオン王国流しソーメン大会
「それではお時間と相成りましたので、第一回聖アリオン王国流しソーメン大会を開催したいと思います」
ここは、王城のテラス庭園だ。この見晴らしのいい場所でやる流しソーメンも乙なものさ。
王子様方から盛大な拍手が沸いた。
デライン公爵は、今ようやく糸こんにゃくに手がついたところだ。まあ、のんびり頑張ってもらおう。他の人はすでにつゆの入った他家で出来た容器と箸を持っている。
国王は上座だ。どうせ、この人も取りそこないが多いに決まっている。隣には、じっくり食べる事が予想されている宰相がスタンバイしている。
その次に王子様達と王妃様方がいらっしゃって、リュウはここに混ぜておいた。アイカはすでに下座にびっちりと構えている。
流れてくる物は全て逃がさない構えだ。彼女の感知能力は、今過去最大級に展開されているのが俺にさえわかる。こいつは働くつもりは毛一筋もないようだ。きっと最後まで食っているのは、こいつに違いない。
俺達は法被を着込んで、ソーメンを流す係だ。アイカがやりたそうにしていたが、食うポジションから動くつもりはまるで無さそうだ。
リュウや子供達はやりたがるだろう。俺とジーンが組んでソーメンの補充を。レミーは氷係だ。こいつは氷の大きな単結晶を作れるので、実に美味い氷を作る。
ミネラル分まで調整できるのだ。すでに宰相が王家に納める分の氷を発注している。俺が酒を飲むのに最適だと吹き込んで、地球の美味い酒を飲ませてやったのだ。俺は総一郎として一通り避けは味わってきたので、そのへんのセールスはばっちりだ。
クラウスとジェンカは別の役割を与えてある。多分必要になるだろう。
「おお、これは楽しいものじゃないか」
楽しい事に眼が無い国王は、実に愉快そうだ。
「ふむ。これは王国の行事にしてもよいな」
宰相は本気だ。新しく経済を回すネタの獲得には余念が無いようだ。
「楽しい~」
「美味しいね、ソーメン」
「もっといっぱい食べるの~」
うちの草食龍も、子供達に混じって箸を実に上手に使っていた。
「シャルさん、もう少しソーメン流すスピードをアップしてください。ちっとも流れてきませんよ~」
「やかましい! 他の人間は働いているんだぞ。待ってろって。もうソーメンが切れそうだ。クラウス、ちょっと代わってくれ。追加のソーメン茹でるから。レミーも氷を頼む」
クラウスが苦笑いしながら変わってくれる。
「盛況だな。国家レベルの大会とかやったら面白いな。儲かるぞ」
「まあ、他にも色々あるから。うちはソーメン売るだけにした方がいいんじゃないかな」
ちょっと業務用で狙っているのだ。自分でやると手間がかかりすぎる。各店でやってもらえばいいし、つゆやその他の原料、器なども販売可能だ。フランチャイズ・チェーン方式だって悪くはないぜ。
「シャル、まったく掴めないのですが!」
全身で絶望を露にしたデライン公爵から悲痛な叫びが上がった。
「ジェンカ、あれを出してやってくれ」
「はいな」
そして、彼女が準備できていたそれを持ち出した。
それは『業務用流しソーメン器』である。流しソーメンで有名な場所で開発されたものなのだ。俺達が使っていたのは、それを模した玩具だ。だが、ネットで凄い人気なのだ。だが、こいつは業務用の物だ。お店に行くと、これで美味しいソーメンを楽しく食べさせてくれる。
「じゃあ、公爵様。行きますよ~」
ここが彼女の凄いところだ。直感的な感知能力で、あの不器用の権化デライン公爵が上手に箸で掴めるタイミングでソーメンを投入している。
一回そのタイミングに嵌まると、不思議なくらいスイスイとソーメンを掴んでいく。ジェンカは何か歌うような感じのリズム感に乗ってソーメンを流していき、不思議な光景が展開されている。
「おお、あの公爵が! 凄い腕前だな、あのシーフ」
国王には完全に読まれているな。宰相と公爵夫人も目を見張っている。あの公爵はどれだけ不器用なんだよ。
「これはやめられぬ、止められぬ。ぬおお~」
「お父様だけズルイ! ハンナ、僕達も行こう!」
よっぽど興奮したのか珍しく積極的なミアイル君が、ハンナ王女の手を引いて突進していった。竹で流す方の食い手が手薄になったのをチャンスとばかりに、アイカが攻める箸が止まらない。
リュウはどっちに行こうかと迷っていたようだが、今日は竹の方が面白いと思ったようだ。代わりに宰相がまたチェックに入った。流しソーメン器の二代目がオ-プンした。
「はは、これは楽しいな。我が家にも一台欲しいものだ」
「今日使ったセットは全部お譲りいたしますよ。機械の方は壊れたら言ってください」
「しかし、竹の方が風情はあるな。機械の方も楽しそうだが」
「ええ、ですからビジネスとして色々成り立つわけです」
「なるほどな」
「この世界でも、つゆとか色々好みに合わせて変化していくのでしょうね」
あと、ラーメンの普及が楽しみなんだよな。
みんな結構お腹が膨れたようだったが、アイカから苦情が出た。
「私は出遅れていたじゃないですか。もっと流してくださいよ」
「まあまあ。お前はこれを」
そう言って出したのは、ガラスの器に入った『普通のソーメン』だった。
「何ですか、これは?」
アイカが首を捻っている。他の人も同様だ。
「いや、これが本当のソーメンの姿だぞ。流しソーメンは夏の風物詩、イベントでやるものだからな。自分達でやったり、やってくれているお店で食べたりとか。面倒だから、なかなか出してくれる店はない。観光地に行かないとやっていないのが普通だ」
「なんですって!」
アイカは酷いショックを受けたようだ。あーあー。
「じゃあ、この国では流しソーメンが本式で普通のソーメンは邪道という事にしましょう」
その邪道のソーメンをつるつると啜りながら、そんな事を言っている奴がいる。
「お前なあ」
「シャル、そのソーメンの中に浮いている赤い物はなんだ?」
「あれ、この世界にチェリーって無いですか?」
「ふむ。わしも見た事がないな」
え、国王様でも見た事がないのか。
「お店で出すソーメンには普通に入ってますよ。さっぱりしていて、水につけても味抜けないし、見た目涼しいからじゃないですかね。理由はよく知りませんが、どこへ行ってもまず入っていますので。入っていないのは大概ケチっているだけです」
「シャル、試食させろ」
「どうぞ」
「ふむ」
缶詰のチェリーを神妙そうな顔でしゃぶっている宰相。
「む、種があるのか」
「ええ、ソーメンに入れる種無しチェリーってあまり聞かないような」
確か、葡萄やスイカと違って、サクランボの種無しは作れないはずだ。
「そういうのも含めてのソーメンの風情という事になっておりますです、ハイ」
子供達が残りのチェリーを摘まんでしゃぶっている。
「元はこれ、結構酸っぱい果物なんですがね。花は綺麗ですよ」
「そうか、栽培はできないものかの」
「さあー、そこまではわかりませんね」
ネットスーパーで仕入れたサクランボの種は果たして芽を出すものなのだろうか。
こちらで原子プリントしたような代物なのだ。命は宿るのだろうか。3Dプリンターで命をプリントする事もできるのだ。よくわからないな。まあ、今ならサクランボの1個くらい、世界を渡らせるのは出来るとは思うのだが。
「じゃあ、この種を植えてみるかのう」
「え、缶詰のサクランボの種をですか?」
缶詰のサクランボってどういう処理がされているんだろう。もう死んでない? 果物だから生きてても不思議ではないけれど。宰相はみんなから種を集めて回っていた。マメだなあ。




