2-23 お城でソーメン流し
「というわけで、第一回流しソーメン準備大会を行ないたいと思います」
「シャル。なんだ、その準備大会というのは」
そう言って不思議そうな顔をしているのは、この国の国王陛下だったりする。
あれから俺達は城に来て、本格的な流しソーメンの装置を組み立てていた。いや装置というか、単に竹で組んで作るアレだが。
「まあまあ。身内でやってみて、ちょっと駄目だったものですから」
今朝のご飯は、御飯とお味噌汁だ。パックの御飯を御湯で温めて、インスタント味噌汁にお湯を注いで沢庵を添えた朝御飯だったのだが。
冷凍食品の朝御飯用のシャケと、卵焼きは俺が焼いた。案外とリュウが気に入ってしまって、朝からもりもりと御代わりしていた。
異世界でドラゴンと和食の食卓を囲んでいるのも、なんだか妙な気分だ。このへんは総一郎のパーソナリティが色濃く出ているよな。
みんな、アイカ以外は四苦八苦して箸を使っていた。ジェンカなど、御飯は掻っ込み、沢庵は箸で突き刺し、シャケも解して皿ごと口の前に持っていった。あいつは単に食えればいいんだ。ジーンは苦労しながらも品がある感じで食べている。
「美味しい~。魚うま~」
リュウはもりもりとシャケを手掴みで食っていた。うちの娘はさらに豪快だった!
「美味いか、リュウ」
「和食朝御飯、美味しい~」
いつか、この子のために温泉旅館を作ってやりたい。問題はその時のリュウのサイズだけどな~。
そしてアイカが言った。
「御代わり」
俺は御飯をよそいながら聞いてみた。
「御飯美味しいか?」
「はい、とっても」
西洋人には、炊き立ての御飯の香りのよさがわからないといわれているが、全ての人がそうではないと思う。
日本贔屓で、日本飯が好きな外国人ならいけると思っている。このアイカに関しては、単に美味しい物ならなんでも来いなのだと思っているが。多分、食いしん坊の本能で気がついているのだろう。ご飯は、いろんなおかずに合うのだと。恐ろしい奴だ。
クラウスも大人しくジェンカとお揃いで搔き込む事にしたようだ。中国風の食べ方だな。
レミーはとりあえず、実利を求めてナイフとフォークを。楽しそうに食べているアイカを横目で見ながら、そのうちに箸の使い方は習得してやろうという腹積もりのようだ。
アイカは俺の真似をして、きっちり日本風の食べ方をしているし、ジーンもそれに近い感じだ。まだうまく掴めていないようだが、中国風の食べ方には抵抗があるようだ。
我が家の食卓は現在そんな雰囲気なのだが、国王ともなるとその辺はどうなのであろうか。
「まあ、よくあるお箸の訓練で豆を掴むというやり方があります。面が食べられるようになったら成功ですね」
そう言いながら俺が国王に手渡したのは『お箸の正しい使い方』について描かれた知識絵本だった。日本語で書かれているが、なんとなく意味はわかるはずだ。
「ほお。これは面白いものだな」
興味深げに捲っていたが、末っ子王子様が見たそうにぴょんぴょんやっている。
「お父様、僕にも見せて~」
「はは、殿下。これをどうぞ」
俺は集まっていた王族の人達に絵本を配った。そして読んでいる間に、仕度をしていく。豆を入れた皿と空の皿、そして『糸こんにゃく』を入れた容器だ。使う箸は割り箸だから難易度は低いはずだ。流しソーメンで実際に使うのも割り箸だしな。
全員読み終わった頃合を見計らって話しかける。
「皆さん、読み終わりました?」
「うむ。大体のところは理解できたがな。なかなか難しそうだ」
「まあ、やってみましょうよ。本式の箸に比べたら、割り箸は扱い易いですよ。特に麺類はね」
そういうわけでレッツチャレンジ。また俺が何か始めたというので、宰相も来て参加している。お手並み拝見!
「わあ、難しい。豆が、豆が逃げます!」
叫んでいるのはデライン公爵だ。この人って器用さには欠けるよなと、いつも思っていたがやっぱりか。
「シャル、おもしろーい」
5歳の第3王子様は楽しそうにやっていた。本来は、この年頃までにやるものだよね。
王女様方も楽しそうにやっている。王子様はさっさと豆を移し終わって、次の課題の糸こんにゃくに取り掛かって、自由自在に扱っていた。
「偉いですよ、リーファン殿下」
「やったあ。ねえ、シャル。実際に何か食べてみたい」
「それでは、殿下の大好きなカップ麺を作りましょうか。今日はどれになさいますか?」
「えーとね、じゃあこのカップ大将の醤油味!」
まだ11時前なのだが、育ち盛りの王子様は大盛りカップをお選びになった。楽しそうに具とスープを入れてから湯を注いで、キッチンタイマーをオンにする。
「あたし達も~。元祖カップラーメンのカレーで!」
「あたし、大金星食品のカップ焼きそばねー」
次々と注文が入った。お子様王族達は、もうカップ麺銘柄まで把握していらっしゃる。
それをチラチラッと横目に見た王妃様と公爵夫人の豆を運ぶピッチが上がる。国王は慌てず騒がず、じっくりと取り組んでいる。こういう物はお子様には敵わないのは知っているのだ。
一人慌てているのがデライン公爵だ。
「おっとっとー。待ってー、お豆さん」
豆はころころとあちこちに逃亡を図っている。この人が国王でなくて本当に良かったなと、国民の一人としてつくづく思った次第だ。何かにつけてこうだからな。
「シャル、今何か失礼な事を考えていませんでしたか?」
「別に~。それより公爵、頑張らないと貴方だけソーメンが食べられませんよ?」
公爵はハッとして見ると、王子様や王女様、自分の一人息子のミアイルまで、美味しそうにカップラーメンを食べていた。
ミアイル君は大人しそうな子で、同じ年のハンナ王女にいつも引きまわされており、今日も仲良く同じカップ焼きそばを食べている。
王妃様方も、すでに糸こんにゃくに突入していた。国王もそのうちには豆を運び終わりそうな按配だ。眼が段々真剣になってきている。
「まずい! 頑張らなくては~」
だが、そう慌てる事もない。国王よりもじっくり派がいたのだ。宰相は、ただの一つの豆も逃がすまいと全神経を集中させている。
その眼光の鋭さと、異様な集中力がこの人の性格を知らしめている。こええよ。絶対に敵に回してはならない人なのだと改めて思い知る。この人は役職の割には裏方の仕事が多いんじゃないか?




