2-22 夏はソーメン流し
「これ、なあに?」
ジーンのもっともな疑問に俺は答えた。
「ソーメンだ」
「ソーメン……」
よく理解できないようだ。まあ見ていればわかるさ。
「夏に人気の商品さ。簡単に茹だるから人気がある。それに、このソーメン流しもできるからね」
「ソーメン流し……」
ますます理解できないようだ。
「みんな、ちょっと手伝ってくれ」
「何をするんだ?」
「このソーメンの束の片方の端を縛って欲しいんだ」
俺は手本を見せてやった。それからソーメンを束ねていたシールを剥がしてみせる。
「なるべく端っこを縛ってね」
冒険者チームみんなで、ちまちまとソーメンの端を縛っていく。リュウも楽しそうにやっていた。器用だな、ドラゴン。
俺はガスに火を入れて、大鍋に入れたたっぷりのお湯を沸騰させる。先に火の魔法剣でお湯を一気に沸騰させた。
「シャルさん、お料理に役立つなんて、魔法剣って便利なスキルですね!」
「そう言われると微妙だな」
「とか言いつつ、しっかり使っているよね」
ジェンカもソーメン縛りながら笑っている。
俺は自動巻きの時計を見ながら、茹でつつ氷の魔法剣で水を冷やす。そして器用に氷の粒も生成していく。さし水は絶対に忘れない。ソーメンを氷水につけていく。
「万能料理魔法剣!」
「アイカ。妙なスキル名をつけないでくれよ」
俺はかなりの量のソーメンを茹でながら文句をつけた。それから指示を出して、胡瓜を刻んでもらい、薬味も買って皿に盛り付けさせた。
「とりあえず、これだけあれば食えるだろ。御代わりが欲しかったら、また茹でるから。ソーメンは1分半から2分ですぐ茹だるからいいんだ」
「で、この仕掛けみたいなものはどうするんだ」
容器に言われたとおりに麺つゆを入れているクラウスが聞いてきた。
「まあ、見ててくれよ」
みんなフォークで、ちゃんとソーメンが掬えるかねえ。俺だけは、しっかりと端を用意してある。割り箸だ。こういう物はネットスーパーに置いてある。
俺はソーメンを取り、端を切って流しソーメン器に投入していく。水もしっかり冷やしてある。そしてスイッチオン。
「わあ、綺麗~」
LEDが放つ美しい照明にリュウから歓声が上がった。
「で、こいつをどうしろと?」
クラウスは困惑し、フォークを握り締めた。
「こうするのさ」
俺は端で鮮やかにソーメンを掬ってみせた。
「リュウもやる~」
「そうか、そうか。じゃ、これお箸。握り方はな」
愛娘は、俺の唯一指導を受けて、なんとなく得心したような表情だ。
「それー」
さらっと、見事にソーメンは掬われていた。さすが食欲龍だな。
「わ、私も!」
このまま行くと、リュウにソーメンを全て食われてしまうのかと思ったらしいアイカが名乗り出た。
テーブルに置かれた割り箸を手に取り、見事に割って見せて食べだした。ちゃんと箸が使えている。一体どうなっているんだろうな、こいつの場合は。
みんなも呆れていたが、実際に使ってみると箸が使えない。
「うわ、難しい」
「なんだ、これは。お前ら、何でこれが使えるんだよ」
「これはまた、面妖な食器ですね。というか、ただの木で出来た棒じゃないですか」
甘いなレミー、これだって色々あるんだぜ。割り箸の形だって、よく見てみろよな。
仕方が無いので、他の連中はフォークで掬おうとしたが、逃げていく。
「うひゃあ、逃げるわ。このソーメンって奴」
「待て、ちょこざいなあ」
「あーん、待ってよお」
その間にも、リュウがパクパク食べている。俺はジーンに食べさせながら、ソーメンの器を出してやり、ジーンの分も入れて4人分のソーメンを出してやった。
「まあ気分だけ味わえただろう。それで食っててくれ。俺は御代わりを茹でないといけなくなったようだ」
黙ってソーメンの入っていた容器を突き出しているアイカとリュウがいる。早く茹だるからソーメンっていいんだよな。これが冷や麦だと、夏の食い物だから茹でている人が暑いんだ。みんなはフォークで、苦労して食べていた。
「アイカ、あんたって子は本当に」
「ドラゴンが、こんなに器用だなんて知らなかった」
「本当になあ」
ジーンは黙って箸の練習をしている。
それを見ながら俺はソーメンをゆでながら笑って言った。
「お前ら、箸の使い方は覚えておけよ。これから、また箸で食わないと食いづらい美味い物とか作るからよ」
アイカとリュウがペチンと手を打ち鳴らした。
「正義は勝ちましたよ~」
「勝ったの~」
「そうなの?」
レミーも微妙な顔付きで見ていたが、現実主義者らしく素直に箸の使い方の練習を始めた。彼女だって美味い物は食いたいのだ。
「俺達も頑張るか」
「そうね」
残りの二人も諦めて箸の練習を始めた。
俺はそれを横目で見ながら、万能料理魔法剣を駆使しつつソーメンを茹で上げるのであった。




