2-21 お洒落な生活
あと食器棚と素敵な食器セットを出して、女の子がみんなそれに夢中になっている間に、俺はお風呂に取り掛かった。
「クラウス君。ちょっと想像してみよう」
「藪から棒になんだ?」
「いやさ、ここに作ったお風呂に女の子と二人っきりで入って楽しむ図をさ」
「それは悪くないよな」
そっと想像しているらしいクラウス。お互い、子供の頃からの付き合いだから何考えているかはよくわかる。
「王宮の広いお風呂もいいが、このプライベート感がたまらない。とはいえ、ゆったりサイズにもしておかないとな。どうせリュウも一緒に入りたがるだろうし」
「ドラゴンが御風呂にか?」
クラウスも微妙な顔をする。この世界では人間様でも、そうそうお風呂には入らないからな。地球でも入らない連中は入らないけど。日本は恵まれているのだ。
「問題は湯沸しだが、ガス給湯器を付けたいなあ」
「またガスか」
「クラウス先生が薪で沸かしてくれるなら、薪にする」
これにはクラウスも苦笑いした。村のお祭りで、屋外の窯で煮炊きをする事もあるが、あれがまた大変なのだ。
「まあ、ガスかなあ」
「根性ないな。薪で燃やすと、御湯が柔らかくて最高らしいのだが」
「俺は釜炊き係は辞退するよ。やるんなら誰か雇おうぜ」
「じゃあ、ちょっと懸案事項かな」
「シャル」
ジーンが呼びにきた。
「あと竈はどうするの」
「ああ、奥の壁に煙突と一緒に用意しようと思って。それとパン焼き窯を」
「え? パン屋さんでもやるの?」
「美味いパンが食いたくてさ」
パンというかインドでナンとか焼く窯みたいなのだ。ピザなんかもああいうものじゃなかったっけかな。あるいはパン屋が使うような物でもいいのだけど。
「そういうとこは拘るのねえ」
「はい! 賛成です。美味しいパンを焼きましょう~」
「よし! じゃあそのパン焼き窯は、アイカ。お前の管轄だな。美味しいパンを頼むぜ」
「え! あ、あの。パンはレミーが得意なのです。ほ、ほら。氷魔法の使い手だし、熱い窯を扱うのは向いていると思います」
「食う専門かよ!」
「りょ、料理には自信が無いんです」
ちょっとしょげ加減に項垂れた。本当は自分で美味しい物を作って食べたいのかもしれない。こいつには、真の食通を名乗る資格は無いようだ。
「まあいいや。あと、床や壁の木は張り替えたいな。立派に見えるぜ」
俺はそう言って買っておいた檜板のサンプルを見せた。
「わあ、これは立派な木材ですねー」
「素敵ね」
前に、リゾートマンションを総檜張りでリフォームした物件を見た事があるが、あれは中々の物だった。今、廃材を集めて原料にし、こつこつと檜の板を集めているところなのだ。そうしたら素敵な家具を色々と仕入れよう。
「あと、屋根裏部屋はロフトにして使おうぜ」
「ロフト?」
ジーンも首を軽く捻る。
「まあ、お洒落な屋根裏部屋くらいに思ってくれ」
納戸とかサービスルームとか呼ばれる物や、ロフトという物は基準になる事があって条件が決まっているんだよな。
ロフトといいながら、ほぼ屋根裏小屋になっていたり、あるいは二階のホールみたいになっていたりする物もあるし。
この町では家の屋根は少し尖った感じになっているから、ロフトっていうよりも屋根裏部屋に近い雰囲気だ。
ここでは日本と違い、高さや何かで制限が入ったりはしないから、おしゃれにロフトと呼んでおこう。物置小屋かリュウの遊び部屋になりそうな気もするけど。
「あと、照明もつけたいなあ。バッテリーを使用するのも手だが」
電池式LEDスタンドライト、ワークライトやランタン。そういった物があるが小さいな。
鉛蓄電池と太陽光発電パネルの組み合わせもいいが、大掛かりすぎて微妙だ。一軒屋なら頑張ってみるのだが。そのレベルになると、他の奴らがまるでついてこれないし、俺も専門家じゃない。
一応、色々照明器具は出してみた。みんなもいじくっていたが、よくわからないみたいな顔をしている。
「これ、面白いー」
リュウがライトを振り回して遊んでいる。まあ、いいか。
「とにかく電気を使う物が多いんで、どうしてもこういう簡易な電池式の物になっちゃうんだよな」
王宮は広いし、あの国王にとやかく言う人はいないからいいんだが。
何しろ発電機は排気ガスがなあ。燃料電池の発電機は売っているが、家庭用の非常用発電機は出力30W程度のちゃちな代物だ。
こいつは水を注ぐだけで動くので便利だが、頼りない。あとの大きな本式の物は燃料がメタノール系だから若干取り扱いが面倒だ。
出てくるのは水蒸気だからその点は安心だ。だが、酸素を消費するのは変わらない。室内で発電機を動かすのは難しい。
このあたりは家が密集していて、外に設置するのは難しい。最初から『発電室』のような物を作っておかないとなあ。やってやれない事はないが。
やれれば快適な家電生活が待っている。ベッドルームにエアコンを導入する事さえ可能なのだ。『快適な夫婦生活』のために俺は真剣に考えを巡らせた。
「シャル、何をそんな真剣な顔をしているの?」
俺の不穏な考えを見抜いたのか、ジーンが顔を除きこんでくる。
「あはは、なんでもない。なんでもないよ~」
「それよりお昼にしましょう。せっかく、素敵な台所が用意できたんだもの」
「賛成です! 何か異世界の御飯にいたしましょう~」
アイアkからリクエストが来てしまった。そうか。じゃあ、あれにするかな。
「じゃ、ちょっと待っててな」
俺はそういいながら、あれこれ買いだした。小麦粉を原料にソーメン。そして、ソーメンのつゆ。副菜として、胡瓜や金糸卵なども買う。
そして、ソーメン用の涼しげな容器と、電池式の卓上ソーメン流し器だ。楕円形をしたドーナツ型のプールみたいになっていて、ソーメンがぐるぐる回る奴だ。ちゃんとLEDで光る奴だ。
これ、凄い人気商品なのだ。子供に馬鹿受けなんだよね。うちにも一人いるし。お城にも国王という名のいい歳した子供が一人いるから、また持っていかないとね。




