2-15 城の饗宴
またいらん騒ぎになると困るので、城までは車で行った。近いので乗用車でいく。この車は幅が1.9メートルもあるので中は広い。当然のようにリュウは窓側ベッタリだ。チャイルドロックは当然オンになっている。
「すごーい、建物がいっぱい」
ここへ来る時もそうだが、城に近づくほど、建物は立派になっていくのだ。森と湖の別荘の町とは趣が異なる。この町の住人にしてみれば、あっちの方の暮らしが羨望の的なのだが、ドラゴンにはこっちの方が目新しい。お子様なんだし。
「おお、聖女様お帰りなさい」
門番も顔パスで通してくれた。うちは御用商人みたいなものだしな。馬車が入れる一番奥まで行って車を降りる。
この世界に収納袋が無かったら面倒なところだ。ここには車を預かってくれるパーキング係はいない。車のキーを渡されても困るだけだ。
城の建物の警備をしている兵士がリュウを見て驚いた。
「そ、そのドラゴンの子供は一体?」
「ああ、この子は聖女ジーンの付き人だから!」
「はあっ!? はあ……」
もう説明が面倒くさいので、それで押し通した。
「リュウだよ~」
挨拶されて更に目を白黒しているみたいだった。
まあ慣れてくださいな。中でも同じような騒ぎになり、他の待っている人からも凄い注目だった。そして、しばらく後に……ドタドタと待合室に入ってきた、その方は。
「おお、シャル帰ったか。可愛いドラゴンの子供を連れ帰ったんだって?」
やっぱり来たね、馬鹿国王。他の人がビックリしているじゃないか。リュウは面白そうに見ている。
「おじさん、だあれ?」
「おお、ちゃんと言葉を喋るじゃないか?」
「あたし、リュウだよ」
「おお、リュウちゃんか」
そう言ってリュウを軽々と抱き上げる国王。待て、今なんと言った。あたし?
「リュウ、お前って女の子かい?」
「うん、そうだよ?」
男の子の名前を付けちまった。これは迂闊。見た目で区別つかないし。いや可愛いだろ!
「なんだ、リュウという名前じゃいかんのか? 可愛いじゃないか」
国王も不思議そうに聞いた。
「い、いやそれ男の子用の名前なんですけど」
「リュウはリュウだよ?」
本人も不思議そうに言う。さらにこんな事を。
「契約もその名前でしちゃったし」
なんてこった。
「契約?」
またしても国王が不思議そうな顔をする。
「はあ。なんでも高位ドラゴンの加護だそうです。よくわかりませんが、特に困りませんので」
すると国王はリュウをよいしょっと抱き直すと呆れたような顔で言った。
「お前、それは伝説の中の出来事だぞ? 大精霊と契約するも等しいのだからな」
「シャルは凄く優しい世界から来たんだよ。だからシャルも優しいの。シャルのそういうところが好きなの」
「なるほどな。そういう事か」
国王は納得したようだった。そうか。高位ドラゴンは邪な者は嫌いだからな。俺の日本人的な気質を気に入ってくれたのか。あと、面白そうというのもあったのかもしれない。子供だからな。
「そうか、リュウは俺を気に入ってくれたのか。嬉しいよ」
「うん」
俺はリュウの頭を撫でてやった。だが、ドラゴンの子供を抱いてにこにこして城内を歩く国王に、城の人間は驚愕していて城はざわついていた。
「兄上、そ、それは一体!?」
デライン公爵が出会い頭に驚いていたが、すぐにこう言った。
「すごく可愛いじゃないですか。私にも抱かせてくださいよ」
「何を言うか。この子は結構重たいのだぞ。お前なんかに抱えられるものか。ほれ」
あ、国王。無謀な事をするなよ~。
「おっとっとっととー」
リュウを手渡されて、その重みに耐えかねて思わずよろける公爵。そのまま膝をついてしまい、落ちないようにリュウが背中によじ登ったのでお馬さんスタイルになってしまった。
「あ、これ楽しい~。ねえねえ、走ってー」
ちょっと、お前。それ、一応は公爵だから~。
「こ、こうですか?」
走るのではなく、這っているだけだ。だが、いいのか? 公爵様がお城で。お城の皆さんが見ていますけど。せめてプライベートゾーンでやってほしい。だがリュウは言った。
「もっと、もっと~」
「はいはい」
子煩悩だな、公爵。まあ本人がいいならいいか。
それから、王子様や王女様も呼ばれて楽しく時を過ごした。王妃様と公爵夫人は当然のようにリュウの頭を撫でている。
アイカとレミーはその豪華なプライベート空間に溜め息をつきながら、優雅な時を満喫している。『聖女様ご一行様』という事で、城の人もパーティごと歓待してくれているのだ。
もはや、これは『ジーンのパーティ』といってもいい。バラクテスやBランク魔物軍団を粉砕した勇者である俺の威光など、とっくに消えうせていた。
さらには可愛いリュウがいるので更に影が薄い。おかげでクラウスとジェンカも伸び伸びやっている。いや、こいつらはいつものとおりだな。そして昼食の時間になった。今日は靴を脱いで上がりこむカーペットの上で遊んでいるので、ここで食べるスタイルになった。
「リュウちゃん、あーん」
第2王女のサラ様(御歳12歳)が、大きなハムを指で畳んで食べさせていた。リュウは美味しそうに食べている。
こいつ割と草食系なのにハムは大好きなんだよな。第3王女のハンナ様(御歳8歳)が一緒に騒いでいる。第3王子のリーファン王子(御歳5歳)もべったりだ。
上は第1王子が20歳で第2王子が16歳だそうだが、忙しいのか来ない。きっと遊んでいる国王の代わりに忙しく働いているのに違いない。ただ今後継ぎとして修行中なのか?
「ねえ、国王陛下」
「ん? なんだ?」
「この国で『塩分取り過ぎ』って問題になった事ないです?」
「うむ、聞いた事がないがな」
「そうですか。特に年寄りとかによくないんで、減塩した食べ物をよく使うんですよね。あとペットなんかも体が小さいのもあるし、塩分取り過ぎは致命的なんですけど。ハムって塩分多いし。ドラゴンってどうなんでしょう?」
国王もちょっと考える風でいたが、首を振った。
「よくわからぬ。特にドラゴンについては、数が少ないし滅多に現れるようなものではないのでなあ」
そうか。そりゃあそうだよな。まあ気をつけるだけ、気をつけておこうか。
「シャル、これ美味しいわよ」
ジーンが、そう言って皿に盛ったカナッペのような物を差し出してくれる。クラッカーではなく、何か少し硬めに焼いた小さな平たいパンのようなものに、高級料理のような具を並べて載せてくれてあるのだ。
リュウもあれこれ選んでは次々と平らげている。本当によく食うのね、こいつ。よその家で遠慮のえの字もないしな。
うちのメンバーも遠慮なくご馳走になっているが、特にアイカ。傍から見ていると、心配になるくらい食べている。
一通り食べ終わった後に、アイカが言い出した。
「アレを出してください」
Bランクとやり合った時よりも、盗賊退治をした時よりも真剣な目つきで!




