2-16 手作りの味
「わかった」
俺はそう言ってある物を取り出した。そのうち見せようと思っていたので。それは手作りアイスクリームキットだった。生クリームに牛乳や卵、砂糖に香料などを混ぜたアイスクリーム液はもう作成済みだ。
「なあに、これ」
ジーンも聞いてくるが、俺は黙ってにこにこして準備する。
まず、茶筒にアイスクリーム液を入れて、しっかり目張りしておく。それよりも大きな缶に氷と塩を入れてやる。寒剤という奴だ。そして、その中へさっきの茶筒を入れてしっかり封をしてやる。外側の缶は理由があって丸い筒の物を用意した。
「リュウ。ちょっとこれ20分ほど転がしておいで。こいつが鳴るまでな。そうしたらデザートだ」
俺はネットで買い込んだタイマーを20分にセットして、綺麗な首賭け紐に取り付けて首に下げてやった。
リュウは王子様王女様や公爵家の子供を引き連れて、カーペットの上で空き缶サッカーを始めた。本当は空き缶じゃないけどな。
「あ、あれでアイスクリームが出来るというのですか?」
呆然としたような様子でアイカが立ち尽くす。そして、その澄み切った瞳に固い決意を込めて言った。
「私も参加してきてもいいですか?」
「やめとけ! レシピと材料と道具はくれてやるから。氷はレミーに作ってもらえ」
「わかりました。約束ですからね!」
それから、ふと気がついてレミーに聞いてみた。
「なあ、お前の氷って食えるの?」
「なんて事を聞くんですか。この偉大な魔法使いをなんだと思っているのです! そんなの、試した事は無いですよ」
「それは残念だな。氷を使って作るシャーベットなんかもあるし、これを使えば必殺のかき氷も食えるんだぜ」
俺は手回し式のかき氷製造機と、シロップを出してみせた。
「レミー!」
半分泣きそうな顔のアイカがレミーに縋りついた。
「わかった。わかったわよ。そんな顔しないでちょうだい。アイカ、あんたって子は本当にもう」
今度俺も魔法剣で氷作りに挑戦してみるか。これこそ戦闘以外で使う意義があるのか疑問の塊なんだけど。冷蔵庫は色々面倒なんだよなあ。電気の無い世界は辛い。
「シャルよ」
「うわあー!」
いきなり俺の肩越しに宰相が顔を現して、しわがれた声をかけてきた。心臓に悪いなあ。
「やたらなものを勝手に流すでないぞ。わかっておるな?」
「は、はい。そりゃあもう。アイカ、レミー。そのあたりは身内だけでな!」
「はーい」
アイカは元気いっぱいだ。レミーは頭を振っている。宰相はまた新しい食い物を作っていると聞いて視察に来たらしい。子供達がサッカーをほぼ終えたらしい。みんな汗だくだ。
「ねー、まだー。アイスまだあ」
俺はリュウのタイマーを見たらまだ2分ほどある。
「せっかくだ。アイカ、お前にもやらせてやろう。あと2分だ。リュウは時計係な」
俺が自分で回すのは嫌だ。
「よおし。気合入れていきますよ~」
彼女が缶を蹴り始めると、また子供達が騒ぎ出した。ほどなくタイマーが鋭い電子音でタイムアップの笛を長くかき鳴らしたので、リュウがちょっとビビっていた。
「何、何、何~?」
バタバタしている様子がなんとも可愛らしいな。他の子もちょっと驚いたようだ。
「シャル、今の音はなんだ?」
国王にも問い詰められる。聞きなれない大きな音がしたので、城の兵士も様子を見に来てしまった。いっけねえ。
「ああ、すいません。タイマーと言って時間が経ったのを知らせる機械ですよ。これちょっと音が大きいタイプなんですよね」
「どれ」
宰相が検分し始めたので使い方を教えてやる。その間にアイカが開封を始めた。とにかく食う事にかけては本当に積極的だな。
リュウも子供達も車座になって見つめている。アイカの声がはずんだ。
「出来てます。アイスクリーム出来てますよ~」
なんて嬉しそうな声を出すんだ。この子を落としたいんだったら、鰯を釣るより簡単だな。まあ、アイス製造は先に実験済みだけどね。20分本当に面倒くさかったなあ。それで今日はサッカーにしたんだ。
「一応、それはお楽しみで作った奴だから人数均等割りでな。御代わりはメーカー製のこいつで頼むよ。食べ比べてみてくれ」
「「「はーい」」」
みんな、お皿に盛られたアイスをきらきらした目で見て、スプーンを突き刺して齧りついていった。運動した後には、さぞかし美味しかろう。
「王妃様」
「あら、なあに?」
急に話しかけられて意外に思ったようだった。
「実はこのアイスクリーム、第3王女様や第3王子様の御歳だと、御代わりさせるとお腹を壊す可能性が強いので、今日の御代わりは無しという事で。これを渡しておきますのでまた明日にでもどうぞ」
「ほほほほ。そうなのねー」
「ええ、小さい子は胃腸が弱いので、冷たい物を食べさせるとそうなります」
「じゃあ、うちの子の分ももらえますかしら」
公爵夫人もおっしゃったので渡しておいた。当の王子様方は少し不満そうだったが、母親から窘められて諦めたようだった。
「多めに出しましたので、今日おいでにならない王子様王女様にも是非どうぞ。食べ慣れれば小さなお子様が御代わりしても大丈夫かもしれませんね」
次代の国を担う人にも、胡麻すりはけして忘れないシャルだった。総一郎としての日本での経験が地味に生きている。
それからも、色々と取り出して遊んだ。部屋の中なのでボードゲームやカードゲームなんどがメインだ。そして、ただ今積み木崩し中だ。今はこの回の終盤で、かなりヤバイシーンだ。活路を探すリュウの眼が真剣そのものだ。
「せーの」
かなり大胆な抜き方をしていたが、積み木は持ちこたえた。人間技ではない。人間じゃないけれど。
崩壊寸前のバベルの塔は今にも崩れそうな微妙なバランスを保っている。俺の前にはジェンカがいる。俺はニヤリと笑った。お前の負けだぜ、ジェンカ。
「ふっ。甘いわよ、シャル」
後ろも向かずに嘯く奴。そして、意外なところを引き抜いた。だが崩れない。何だと~。
「はっ。貴様もしや」
こいつは優秀なシーフなんだった! 崩れない場所を能力で掴んだのだ。
アイカが精密な電子機器のようなタイプだとすると、こいつは直感を大きく判断に入れるタイプだ。ただの直感ならいざ知らず、能力に裏打ちされた直感は馬鹿にならない。俺は冷や汗が止まらなかった。
「くそ、ここでどうだ」
俺が指をかけた瞬間にジェンカの顔に嘲りの笑が浮かんだのを感じた。なんだと!?
「あ、しまったあ~」
積み木のスティックを半分も抜き終わらないうちに、世界はそのバランスを崩し崩壊した。
ああ、『魔剣のシャル』が『感知のジェンカ』に敗れ去った瞬間だ。どう見てもスキル的に俺が不利だろうが。
でも、遊びにスキルを持ち込むのってどうよ。まあ常に鍛錬するのは悪い事ではないのだが。冒険者はよくそうやって楽しむのだ。
仕方が無いから、あれを叫んでおくか。
「バ○ス!」
「何それ」
ジェンカが不思議そうに聞いてきたが、こう言っておいた。
「こういう時に唱える呪文だよ!」
本当はちょっと違うんだが、これに突っ込みを入れられる人材はこの世界にいるまい。




