2-8 聖女御一行様、参る
「聖女様ご一行様、万歳」
「是非ドラゴンを退治してくだされ」
「バンザーイ、バンザーイ」
そんな大群衆の見送りを後に、俺達は先を進むことになったのだった。
「ふうー、つ、つ、疲れた~」
助手席のシートでズルリと身を任せるジーン。
「お疲れさん」
「もう、シャルったら悪乗りしすぎよ~」
「あはは、でも良かったじゃない。崇拝されまくってるわよ」
「もうジェンカも。やめてちょうだい」
「でも一番ノリノリだったのはシャルだけどな」
「そうよ~」
若干ジーンが膨れっ面だ。でも可愛いぜ。運転中でなかったらキスしたいところだ。
「でも、ジーンさんが崇拝されているといいですよね。どこへ行っても歓迎されますよ~」
暢気にアイカが言った。
「いいけどアイカ、その分ジーンが大変なんだからね?」
現実主義のレミーが嗜める。
「でも正直言って、あたしは神官じゃなくて魔法使いで幸せだったわ~」
「レミーったら何気に酷い~」
「だって、あの騒ぎが毎回かと思うとちょっとねえ」
それは言えてるかもしれないな。でも俺のジーンが崇拝されているのを見るのは最高の気分さ。そして、聖女呼ばわりされている時のジーンのあの悶えっぷり。もう堪りませんわ。
「もうシャルったら、何にやにやしているの~」
「いーや、なんでも。愛しているよ、俺の聖女様」
「もうシャルったら」
ちょっと頬を染めて幸せそうだ。この子は昔からチョロイのだ。
俺達は残りの道程をぶっとばし、バレンシアまでの120kmを2時間で走りきった。
俺はわざと車を降りずに街に乗りつけた。
湖のほとり。美しい建物の数々。その美しい佇まいに他国の貴族までが保養地を求め、あの国王は、ほいほいっと許可を出し彼らと親睦を計った。
そして、その政治的に重要な土地をなんとかしてこいと、俺達を送り込んだのだ。他の高ランク冒険者達はダンジョン深層で狩りに勤しんでいたり、まだ警戒してダンジョンを巡回していたりするのだ。一番暇そうな俺達に装備を与えて放り込んだというのが事の真相だった。
まあ、俺達は装備をもらえればありがたいのだし、Aランクにもしてもらえる。という事でへこへこと、こんなところまでやってきた訳なのであった。
「やっと着いたな。さて、冒険者ギルドに行けばいいんだったな」
「待て待て、お前ら。それは一体なんだ」
門の前に乗り付けた俺達を、街の衛兵が誰何した。俺はパワーウインドーを開けてそいつに言い放つ。
「俺達は、王都アリアからドラゴン退治にやってきた。これは、王都に名高い馬なしで走る神の奇跡、『聖女ジーンの御車』にあるぞ。控えろ!」
「ええっ。本当に、これがあの聖女ジーン様!?」
「これが、って……」
ジーンが呆れたように呟いた。
「それが証拠に、ここに国王ヴィルヘルム13世直筆の『聖女証明書』があるわ!」
「お、おお! これは紛れもなく国王陛下のサイン。聖女様! 失礼いたしました~」
「シャ、シャル。いつの間にそんな物を」
「いや、この篭手と一緒に勝手にもらえたんだけど」
「あの王様ったら、一体何をやっているのかしらね」
「まあまあ、いいじゃない。気ままにこの快適な車で乗りつけられるんだからさ」
楽天家のジェンカが、のんびりと嘯く。
「それはそうなんだけれど。もうジェンカったら相変わらずねえ」
「ジーンさん、さすがです、最高です。ぱねえっす。今日から聖女様と呼ばせてください。付き人だってしますよ」
アイカがもう大絶賛だ。
「頑張ってね、ジーン」
レミーは、聖女の威光を目の当たりにして実利に傾いたようだった。
「もうレミーったら。本当に現実主義者ねえ」
ジーンはやれやれといった風情だった。
衛兵からギルドの場所を聞き出し、直立不動の衛兵に見送られて俺達はギルドに向かった。
「なあ、シャル。ちょっと人気が少ないな」
「そうだな。まあ無理もないが。アイカ、ドラゴンらしき反応はあるか?」
アイカはちょっと首を捻ると答えた。
「いやあ? それらしき者は特に。ドラゴンほどの気配があれば、この近辺にいればわかると思うのですが。隠密系のスキルが発達していればわかりませんが、王者の風格のドラゴンなんかは、あまりそういう能力は発達しないと思うのですがね」
「そうなんだよなあ」
王者がこそこそする必要なんかないのだ。俺もちょっと首を捻る。
「ガセネタかしら?」
レミーも首を傾げるが、そのへんは難しい。王国が依頼をしてきて、しかもこれだけ人が避難しているような雰囲気なのだ。
何も無いというのは考えられない。そうこうするうちに冒険者ギルドが見えてきた。王都とは違って、こぢんまりとはしているが、別にみすぼらしいわけではない。そして、なんとなく小奇麗なのだ。まあ場所柄ね。
とりあえず話は聞いてみるか。俺達は車から降りて、中へとお邪魔した。しかし、そこには待っていてくれた人がいた。
「ヤハーイ、君たちー。愛される冒険者ギルドにようっこそ~」
何故か、アロハシャツみたいな派手な服装をして若向けなヘアスタイルをしたおじいさんが踊っていた。
「あのう」
「若者よ、皆まで言うなあ~。君はドラゴン退治に夢と希望を持ってやってきた若き冒険者なんだねっ!」
「違います」
一言で否定してやったぜ。
「え!」
「ドラゴン退治なんてつまんねえ事で色々不都合なんで、王都のギルマスと国王ヴィルヘルム13世から、この仕事を丸投げにされて間抜けにやってきたペーペーのBランク冒険者ですよ。ちなみにこちらは王都で噂の『聖女ジーン』様だ!」
そして爺さんはすっ飛んでくると、いきなりジーンに抱きついて言った。
「おお、聖女様~! なんと御美しい。どうか私の愛のベーゼを~。ムチュウ!」
「きゃああ~!」
爺にチュウされて悲鳴を上げる聖女ジーン。ほっぺでなかったら爺を今すぐ屠殺していたところだ。
「こらあ、貴様~! 人の女にいきなり何をしてやがるんだああ」
俺は思わずオリハルコンを抜き放った。
「ほお、イレイズの盾と退魔の剣か。やるな、若者」
「何っ!」
俺は左手でナイフを抜き放ち、警戒モードにと移行した。こいつはギルドの人間じゃなかったのか!?
睨む俺、にやにやする爺。緊迫する空気が流れたが、次の瞬間に静寂は破れた。
「とりゃああーー!」
裂帛の気合と共にバインダーっぽい何かの、当たったらとても痛そうな角が爺の頭頂を直撃している。
「イリア君、角、角! 頭に刺さってるから! 角はやめてって、いつも言っているでしょうに~」
呆然とする俺達を尻目に、その人は言った。
「ギルマス~、御戯れは、ほ・ど・ほ・ど・にね?」
「はいはい。ちょっとふざけただけじゃないの~。もうイリアちゃんのイケズ」
俺達の目の前に、涙目で頭を抑えているギルマスらしき人物がいた。やれやれ。
「失礼したな、君たち。私が、このバレンシアの冒険者ギルドのサブマスでイリア。ご覧のとおりのエルフだ。そこの変態爺はここのギルマスで、ヴェラノシア伯爵だ」
「何ー! 伯爵だ~?」
「何、気にするな。これを貴族だなんて思わなくてよろしい。ただの変質者だ」
それはそれで、もっと困ると思うのだけれど。
「ほう。君は面白い人間だな。転生者か。それに面白いスキルを持っているな。ヴィルヘルムの小僧が入れ込むわけだ」
あらあ、年の甲のお姉さんっぽいぜ。お、お手柔らかにお願いいたしますね。




