2-6 森の脅威
「ああ、美味しかった~」
満足そうなアイカを見て、やっぱり今度はカレーでも作るかと思った。時間は早く着く感じだから、帰りにはキャンプしながら帰ってもいいかなあ。
「ねえ、シャル。帰りもあの店に寄っていこうよ」
ジェンカも、そんな事を言い出した。
「ああ、悪くないな。今度は別のメニューにしようぜー」
俺は快調に車を飛ばしていた。商隊を5つパスした頃に森が見えてきた。
「シャル、ここはスピードを落としてくれ」
急に、クラウスがそんな事を言い出した。
「ん? 魔物でも出るのかい?」
「いや、このあたりの森は盗賊が出るという噂があってな。その手の連中はしょっちゅう居場所を変えるし、当てにはならないんだが。一応は用心してくれ」
盗賊は護衛の冒険者が多数ついていると襲ってこないと聞いたが、この車を見てどう思うのかな。いい獲物だと思うのか、それとも危険と感じて襲撃はしないのか。
だが、少なくとも碌に護衛をつけていない馬車は襲ってしまうようだった。前方に見える馬車が盗賊の襲撃を受けていた。
「おい、どうする?」
クラウスがさっそく確認してくる。
「救援する。それはギルドの規定で決まっているんだ。ああいう人達はギルドのお得意さんだから、救援してあげると次回からご利用していただけるかもだとさ。それに、冒険者がキャラバンを見捨てて逃げたとなると評判にかかわるので、盗賊はよほどの相手でない限りは倒せといわれている。気をつけろよ。冒険者崩れで強力なスキルを持っている可能性は高い。それもあって冒険者ギルドからは見つけ次第掃討するようにお触れが回っているんだ。身内の恥だからな」
これが弱小パーティなら逃げても怒られないが、俺は確実にギルマスから締められる筈だ。だからやるしかない。
「アイカ、お前とクラウスは来てもらう。レミーは車から援護。ジェンカは車の護衛だ。ジーンは臨機応変に支援を頼む」
「了解」
「と、盗賊狩りですかあ。ひええ」
初めての対人戦闘でアイカが思いっきりビビっている。まあ当然だ。でもやるしかない。
「アイカ、お前は主に索敵だ。お前は俺のスキルで守るから、魔法弓と剣で自分を守れ。クラウスは好きに切り込んでくれ。アイカもクラウスがヤバかったら援護してくれ」
せっかくだ、新装備のテストといくか。
「じゃ、行くぞ」
俺達は連中から30m後ろまで車でつけて、飛び出した。俺とアイカが組だ。速射性が高いショートボウを持っている。
俺は右手に新購入のサブマシンガンを持っている。左手のナイフでアイカと自分を守り、篭手の力で連中のスキルを無効化している。無論、クラウスはその対象からはずれている。なかなか凝った性能を持った魔道具だ。
走りこみながらアイカが報告する。
「敵、盗賊12。全員、元冒険者です。スキルは確実に殺してください。半径100ギル内に伏兵なし。馬車の中に6名。全員、女性や子供ばかりです」
「聞いたかあ、クラウス」
「あいよ」
「行くぜ。チーム・シャルの盗賊狩り初陣だ」
つまり対人戦の初陣だ。相手は冒険者崩れで、へたな魔物より手ごわい。だが。
後ろから飛び掛ってきた奴がいる。
そいつも隠密スキルは全く発揮できていない。奴の剣が、俺の左手のナイフが展開している盾魔法に当たって跳ね返る。がら空きの胴体を目指して俺のサブマシンガンが唸った。
無様に転がる盗賊。はあ、初人殺しか。銃でやると、そういう感覚が鈍るな。今までの剣を使った戦いに較べれば、殺した感がとても薄い。
だが、こいつらは人をもっと殺しているのだ。殺すより酷い事もいくらでもやっている。クラウスも、あっさりと童貞を捨てたようだ。袈裟懸けにバッサリといった。
片手に持った盾を巧みに使って、全く危なげが無い。これは殺し合いなのだ、迷っている暇なんかない。本来なら、あっちが格上なのだ。並の新人なら迷わずに逃げるケースなのだから。
クラウスが2人目をやった時に後ろから切りかかる奴がいて、俺より先にレミーの氷槍が飛んできて串刺しだ。クラウスが盾を持った手でサムズアップ。
これで残り8人。あ、3人逃げやがった奴がいる。しかし、深追いは禁物だな。ここで逃げの判断が出来る奴は手ごわい奴だ。罠を張っている可能性もある。
クラウスが3人目を倒すのが見えた。俺はクラウスに当たらないように注意して、もう2人ほど片付けた。近接でのサブマシンガンは使い勝手がいい。いざとなれば魔法剣や篭手の力が唸るだろう。残り2人は降伏した。
「ま、待て。降伏する。畜生、なんでスキルが発揮されないんだ。まるでアリアのギルマスみてえじゃねえか。この化け物め」
武器を捨て跪き、手を頭の上に回して降伏の意思を表した。
「アイカ、こいつら武器を隠し持っているか?」
「いいえ、隠し武器はないです。でも逃げた3人と連携を取るかもしれません」
ちっ、こういうのはヤダな。戦いながら殺すんならいいが、降伏した相手を殺すのは嫌な気持ちだ。やるんなら俺がやる。俺は右手の銃をすっと持ち上げた。
銃を知らないこいつにも、これが人を殺す魔道具なんだと理解できるようだ。生憎と魔道具じゃないけどな。買い付けた分だけ誰でも持てるという点ではもっと恐ろしい。
「待て、待ってくれ。逃げたりはしない。逃げた連中は新参者で、当てにならない連中だ。俺達のために戻ってきたりなどしない。本当だ」
「アイカ、本当か?」
「はい、嘘は言っていません」
こんな事もできる。アイカは本当に有能なのだ。全知のアイカとはよくぞ言ったものだ。
「逃げた奴らは近くにはいません。スキルを無効にされたので敵わないと知って遠くに逃げたのでしょう」
「クラウス、拘束してくれ」
「あいよ」
クラウスは俺が渡した現代製品の特殊ロープで後ろ手を縛り、その上で体に腕を縛り上げた。
その上から膝を曲げさせてそれの上から体に縛るという念の入用だ。こうすると、足が痺れているから解いても、すぐには逃げられない。縄抜けするやつもいるからな。更に指の動きを封じるように、手を握らせてから更に瞬間接着剤でくっつけておいた。
「な、なんだこれは」
「気にするな。引渡しの時には剥離材を使ってやる」
「小便とかどうするんだ」
「漏らせ」
俺は無慈悲な宣告をすると、ある物を取り出した。今乗っている車のアクセサリーで蓋付きの鋼鉄製大型トレーラーだ。
俺はそれに剣を数箇所突き刺してしっかりと空気穴を開けると、車に繋いだ。オリハルコン剣は凄いな。まるで缶切りか何かみたいにあっさりと穴が開く。
「クラウス。これに、そいつらをぶちこんでくれ」
「お前も容赦がねえな」
「この2人は生きてるだけマシだ」
「違いねえ」
クラウスは1人ずつ持ち上げると、そのままトレーラーに放り込んだ。俺は蓋をしっかりとロックすると、馬車に向かった。外から脅さないようになるべく静かに話しかける。
「大丈夫ですか? もう盗賊は倒しましたので安心してください。我々は冒険者です。冒険者ギルドの規定により、救援させていただきました」
中から少し怯えた様子の女の子が顔を出した。俺達とそう変わらない歳だな。金髪で明るいグレーの瞳の女の子だ。
「あの、本当に大丈夫なのです?」
「3人ほど取り逃がしてしまいましたが、奴らは敵わないと知って逃げたのです。今夜ここで野営でもするのでなければ大丈夫ですよ」
「そ、そうですか。でも御者の人が殺されてしまって、護衛の人も殺されてしまったので馬車は動かせないんです。私が一番年上なので、後は本当に子供ばかりです」
中を覗くと抱き合って震えている。殆どが女の子だ。男の子は小さな子が一人だけ。年かさの女の子にギュッとしがみついている。
「もう大丈夫ですよ。街まで連れていってあげますから。どこまで行く予定でした?」
男達の死体はジェンカが収納したようだ。気丈な奴だぜ。
「森の向こうのガイラの町までです。あの男達は強かったです。強いスキルを持っていたみたいで、御者のおじさんと、一緒に乗っていた商会の冒険者さんもあっという間に。もう1人いた冒険者さんも外に出た途端にやられてしまって」
「アイカ、冒険者の死体が一つ足りないが」
「あー、あそこの草むらの中に捨ててあります。ああいう死に方は嫌ですね。ダンジョンの中で人知れず死ぬのも嫌ですけど」
俺達が出会った日の事を思い出したのだろうか。少し震えて、体を抱きしめるようにしていた。俺はアイカの肩をポンっと叩いて言った。
「よくやってくれた。お前がいてくれるだけで、こういう救援活動も大幅に安全が増す」
冒険者と御者さんの方はクラウスが回収してくれた。こういう場合、運べるなら遺族の元に届けるのが礼儀だ。




