2-5 初遠征
「というわけで装備は整った。ギルマス、指名依頼の説明をしてくれ」
「ああ、今回は王国からの依頼だ。さっきも言ったように、現場はここから馬車で5日ほどかかる、バレンシアの町だ。200ゴルほどの距離だな。美しい湖があって貴族なども別荘を持つ保養地としても有名だ」
1ギルというのが約2mで、ゴルというのは概ね2kmだ。つまり200ゴルというのは約400km先になる。街道を走れば車でも2日かかりそうだな。
アスファルト舗装された日本の道路であれば1日で着くだろうが、ここではそうはいかない。馬でも4日くらいかけていくのだ。伝令や急用などの特殊な場合は馬を乗り換えまくって、それくらいの距離は1日で走りきる場合もある。
「湖のほとりでドラゴンを見たという報告がある。それの討伐だ。現地の冒険者の手には負えなかったらしい。どうだ、やれるか。その篭手を付けているならやれると思うが」
ギルマスも、こいつの事を知っているのか。退魔の剣か。魔法剣使いの俺には相応しい武器だな。
「わかった、行ってみたい。未達成の罰則は?」
「罰則はないが、詳細なレポートの提出が義務付けられる。次のパーティに渡せるようにだ」
なるほど。だが失敗すると、また周りから色々と言われちまう。行くのなら仕事はきっちりと片付けたいものだ。
「詳しい話は現地の冒険者ギルドで聞いてくれ。王国からの依頼には、ガイドを出してくれるはずだ」
「了解。じゃあ、みんな明日の朝に出発しよう。俺の車で行く。2日で到着の予定だ」
これからは主に食事の買出しだ。現地で、みんなでとりかえっこして食べるのが楽しみだ。余裕があったら晩とかは野外料理と洒落込んでもいい。色々道具とかは買ってあるのだ。
ダンジョンで警備していた一ヶ月間で大量の買い物を果たしたのだ。料理の素材も持っていく。カレーとか作りたいよな。
俺達は、銘銘がお好みで買出しに向かった。
翌朝、俺達は意気揚々と出発した。車に乗るので軽装だ。まあ、最初の頃みたいな格好だな。もちろん運転手は俺だ。こんなところで他の奴に運転させられないからな。
一応は道路を馬車が走るように作ってあるから、まだ整然としていて車でも走らせ易い。4WDのオフロード車とはいえ、高級車なので比較的平坦な道では乗り心地はいい。俺達は城と反対方面に車を走らせていった。
周りの人間がじろじろ見ていたが、この街で物言いがついても、王家からの依頼書を見せれば収まる。それでも収まらなくて因縁付けてきたら、やってしまってもいいとギルマスからは言われている。
「本当に、この車っていうやつは便利ね~」
「そうなんだけど、色々問題もあるのさ」
事故に、排気ガス、リサイクルとね。
快適なエアコン付きの空間で囲まれた俺達は、ほどなくして街を出た。街中では、平均時速20kmといったあたりだが、1時間ちょいで街道へと旅立った。街の通用門で車について少し揉めたが国王のサインの入った依頼書を見せたらすぐに収まった。
今日の目的地は、道程の半ばにある宿場町ソプテルだ。大きな宿場町だから快適だ。俺は街道を軽やかに走らせた。
だが、予定と大きく違ってしまった。案外快適に走れてしまったのだ。街道は案外と空いていて、なんと60kmアベレージで走れてしまえた区間もあった。
商隊のキャラバンが前に詰まっていたりすると、豪快に道からはみ出してパスも出来た。街道が荒野を通っていたりするとオフロード車の本領発揮だ。
別に岩場を走るわけじゃない。森が両側にあるような場所ではそんな芸当は出来ないが。そして、お昼になる前にはソプテルについてしまった。
道中は休憩をしてのんびりしたりもしたが、それでも正味5時間半で目的地に着いてしまった。明け方の5時半に出発して休憩を2回取ったのだが、それでも時計は正午の前だった。若いので、俺も無理が利く。何しろ日本じゃまだ免許も取れない年齢だ。
「半端な時間に着いたな。どうする?」
「飯食って休憩したら、行けるところまで行こうぜ。ここは見るような物もないしな」
結構、こういう街に詳しいクラウスが教えてくれる。あちこちで情報収集してくるらしい。
「じゃ、そうするか」
俺達は街の近くで車を降りていく。ここは王都と異なり、街を囲むような塀はない。
大きな宿場町らしく、大きな商隊の馬車が立ち並んでいたり、そういった商隊相手の商店などが立ち並んでいたりで雑多な雰囲気があり、活気に満ちていた。
その中でも何かこう閑古鳥が鳴いている感じの店などもいくらかあった。俺は不思議に思い一軒の店先で聞いてみた。
「やあ、あまり芳しくないようですね。俺達もそのうち商売をやろうと思っているんだけど、参考までに聞いておきたいのですが、どうしてなんですか。街は流行っているようなのに、普通ならこんな事はないはずなのですが」
店主は座って頬杖をついていたが、嘆きながら話し始めた。
「そりゃ、あんた。どうもこうもないよ。この先のバレンシアの町ではドラゴンが出て以来、あちら向けに行く人間が減ってしまってな。活気があるのは、残り三方の取引をやっている連中さね。うちは向こうへ行く貴族なんかの相手をする高級店だからね。商売は上がったりだ。王都の冒険者はダンジョンに行きっぱりだろうし、現地の奴らの手には負えない」
ははあ、なるほどな。それで、指名依頼か。冒険者もこの前からの騒ぎで少し数を減らしてしまったしな。
「俺達、一応国王陛下からの依頼でドラゴンの討伐に行くんですよ。何か知っている話はありませんか?」
「何、それは本当かね!」
店の人は色めき立った。俺は依頼書を見せてやった。
「おお。しかし、お前さんは若いね」
「こう見えて、Bランクにはなりましたよ。まあ、ドラゴンクラスとやるのは初めてなんですが」
「ああ、だが噂は錯綜しているんだよ。それはもう雲をつくような大きなドラゴンだったとか、あるいはまだ子竜だとか。複数見たという奴もいる。噂は尾鰭がつくし、中には法螺吹きな奴もいる」
ネットの適当情報とか、嘘情報みたいなもんだな。現地に行かないと本当の事はわからないというわけだ。
「ありがとう。とにかく行ってみます」
「やれやれ、とにかく飯を食いに行こうぜ」
「あ、それならあっちに珍しい料理屋さんがあったんです。なんでも隣の国からやってきた人が開いた店で、街の人には評判なんですって」
珍しく、普段は大人しいアイカが激しく自己主張をしている。食いしん坊キャラだったのか? 俺とは違う観点から情報収集に励んでいたようだった。まあ、その話は悪くないな。
「みんな、どうする~?」
「行くに決まっているわよ~」
ジェンカの胃袋はもう決まっているようだ。反対するものはいない。
「こんにちは~」
張り切ったアイカが先頭で店の入り口を潜る。ここは引き戸なんだなあ。
「やあ、いらっしゃい。今日のお勧めは辛口鍋だよ。マイア料理は初めてかね」
「はい!」
「そうか、じゃあ少しから差は控えめにしておこうかね」
辛口鍋と聞いて韓国をイメージしたが、漂ってくる匂いからタイのような東南アジア系の香りがする。
インドのような感じともまた違うようだ。東南アジア系だと当たり外れがあるかもしれないな。そう思ったが多分大丈夫だろう。初めての人に勧める料理だから無難なメニューなものに決まっている。
「楽しみだなあ」
アイカがもう、わくわく顔が止まらない御様子だ。しばらくして出された物は、茶色のスープに色んな具がたっぷりと入ったものだ。
それにパンとサラダがついている。唐辛子たっぷりの真っ赤なスープだったらどうしようかと思ったが大丈夫そうだ。匂いもきつくない。
「辛っ」
勇んでスプーンを取り、口の中に流し込んだアイカが叫ぶ。どれ。俺もさっそく一口味わうようにゆっくり流し込む。
うん、確かに辛いが舌を差すような味ではなく、まろやかな辛さだ。うまい。冬なら体が温まってたまらないだろう。俺は上着を脱いだ。
「おい、上着は脱いだほうがいいぜ。たっぷり汗をかきそうだ」
「そうだね。美味しいけど」
ジーンもそう言って上着を脱ぎ、他の連中も俺に習った。
「いや、辛いけど美味いな、これ」
クラウスも気に入ったようだ。
「本当にねー、王都にも出してくれるお店ないかしら」
そしてこの夏の真っ盛りに、俺達ははふはふと香辛料がたっぷりな鍋にむしゃぶりつくのであった。




