2-4 夢遠き街角
今回も陛下はいっぱい買い物してくれた。自分の趣味の物が大半だったが家族の分もある。デライン公爵も買ってくれたので、相当な額になった。
税金の事を失念していたが、王家との取引では税金は取られないらしい。そういやギルドで買い物した時もギルマスから一言も言われなかったな。この前のBランク魔物なんかも、ギルドでは計算して税金は引かれているらしいので問題はない。
王国の物として、まず布製品はサンプルを一通り渡した。化学繊維まで出してやったので、それを見た宰相が唸っていた。
「これは市場に出せるかどうかはわからないが、けして他の国に売ったりするでないぞ」
「いやあ、わかってまさあ。へっへっへ」
俺は揉み手でにこにこと愛想笑いを浮かべた。商人の基本だぜ。この爺さんは敵に回したらきっとやっかいな事この上ないだろうが、味方にしておいたらこんなに心強い人もいない。
おそらくは、そう理不尽な事は言ってこないはずだ。俺が王国の不利益にならずに利益を齎すのであれば。多少の小言で済むはずだ。
小言を食らう量は、きっと俺よりも国王の方が多いのに決まっている!
王妃様方は素晴らしい意匠の化学繊維の下着類に眼が吸い付いていた。手触りが最高らしい。大量にお買い上げになった。
宰相も一緒になってそれらを手にしている。ちょっと絵面的にキツイな。宰相の眼は王妃様方と違う意味でマジになっていたんだけれど。
その他にも、たくさんの種類のサンプル品や、宰相がGOを出した物については大量に出した。
今回は合計で白金貨を500枚もらった。宰相は、これでも元は取れる自信があるらしい。まあそれならありがたい事なんだが。次回も買ってもらえるからな。
「ジーン、こいつはジェンカの武器を買ったら商会発足用に取っておこう」
「そうね。お金がどれだけかかるかわからないし」
ジーンも将来の、特に子供達の事を考えてくれている。俺達は、冒険者と商人を合わせたようなクランを作りたいのだ。
この世界で商売をするためには、何があるかわからないので腕に覚えのある者を集めたい。腕だけでは駄目だが。
必要なら色々育ててもいい。俺が生きている間に工房部門を育てて、この世界に技術移転などもできたらとかも考えているのだ。子供達のためにね。
トップの俺がAランクをもらえれば、優秀な人材も集まり易い。だが無理はするつもりはないのだ。
遅くなってしまったが、クラウスのところに顔を出して明日の予定を言っておく。
「城でまた金が手に入った。他にも報告があるが、話は明日だ。明日はジェンカの装備を手に入れよう。それと別件でギルマスに用がある」
「わかった。仕事はいつからだ?」
「明後日からの予定。どうなるのかはギルマス次第だよ。王家からの指名依頼なんだ」
「ほおー」
「あたし用の武器か。魔法弓がいいかな?」
「わからんな。在庫次第だろう。剣のいいのもあるかもしれないし。色々なパターンに合わせられるように、武器のバリエーションは増やしておこうぜ」
「わかった~。じゃ明日は楽しみにしておくから」
「おう、お休みー」
俺達も買い込んできた御馳走を並べて、ささやかながらお祝いをした。
「今日はいい装備が入ったし、指名依頼ももらえた」
「お金もいっぱいもらって、順調だしね」
俺達はお酒を飲まない。若い頃に飲むとよくないからだ。大体、大人だって酒も飲みすぎるとよくないのだ。他の連中にもそういう知識は与えてある。
翌朝、俺は家の外で小鳥に餌をやって懐かせようとしていた。
「このシャル・フリードには夢がある!」
どこで聞いたような台詞を吐きながら、小鳥を寄せようと必死になっている俺をジーンが不思議そうに見ている。
「シャルったら一体何をやっているの?」
「いやさ、ティムってわかる? 魔物使いさ。魔物を調教して一緒に戦うんだ!」
「えーと、それは魔物じゃないわよ?」
「いや、小鳥ひとつ寄せられなくて、何が魔物使いか!」
だがそこには鳥を手や肩に止まらせて、不思議そうな顔をして俺を見ているジーンがいた。ありゃあ?
他のメンバーも中から出てきて集合した。
「朝っぱらから何をやっているんだ?」
「え、鳥寄せなの? チッチッチ。ほら寄って来たわよ」
「そーら、来い。あ、来た来た」
クラウスとジェンカも、あっさりと鳥寄せしている。あ、あれ?
気がつくと、頭や肩にいっぱい鳥を連ねているアイカと、二刀流の杖で上手に鳥をじゃらしているレミーがいた。
俺はパンを手にしているのだが、つつきに来る奴もいない。ちょっと地面にパンを置いてみたら、そこへ一斉にたかっていく。俺はその様子を呆然として眺めていた。
「夢は遠いね、シャル。でも、あなたには私がいるから」
「お、おう」
まだ半ば茫然自失としながえら、俺はみんなに促されて石畳の道路をそろそろと歩き出した。一体どうなっているものやら。ちょっと泣きたい気分だった。
「おう、来たか。待っていたぞ。指名依頼の件だな」
「ああ、それとジェンカの武器を見繕っておきたい。あとポーションも欲しい。どこかに遠征に行くんでしょう? 初遠征になるからね。仕度はしっかり整えたい」
「まあ、そうなる。ここから馬車で5日の距離だ。どうせ、あの車とかいうので行くんだろう」
さすがに馬車で長旅は辛いな。
王都まで出てくるのは大変だった。俺達も馬は乗れるが、車でさっと行けるならそれにこした事はない。クラウドあたりにも、そのうち運転を覚えさせよう。
「まあね。でも街道には人や馬、馬車なんかもいるから、そう早くはいけないさ」
「あれは目立つからな。まあ、王家からの指名依頼にケチをつけるヤツもそうはいないだろう」
そう言いながら、ギルマスは例の特別品のコーナーへ連れて行ってくれ、装備を見繕ってくれた。
「これなんかどうだ。最新の魔法弓のクロスボウだ。しかも連発式だ。ただ短い矢を使うので射程はないぞ。その代わり機械式だから威力は高い」
「いいな。ジェンカはアイカみたいな凄い速射はできないからピッタリだ。センスはいいから使いようでは有効な武器になりそうだ。ジェンカ、どうだい?」
ジェンカはクロスボウを受け取ると色々検分した。少々重い武器だが、ジェンカは他の女子メンバーと較べると筋肉と力があるので、これも扱えるだろう。この前、腕相撲でうっかり負けちまったぜ。
「うん、いいね。扱いの難しさからメインにはしづらいけれど、場面によっては有効よ。ジーンと組んでも面白いし」
「じゃあ、ギルマス、一つ目はこいつで決まり」
「白金貨1枚だな。矢は鋼鉄製20連発が一まとめで金貨1枚だ。どうする?」
「それが必要な時は出し惜しみするシーンじゃないな。白金貨1枚分あるかな?」
「それくらいは、あったはずだ。他にも使っている奴が何人もいるからな。矢はすぐに補充させよう」
ギルマスは矢の手配を係りの人に申しつけて、次の物を出した。
「オリハルコンのショートソードだ。2振りある。合計で白金貨30枚だ」
「もらうよ。アイカとジェンカが持ってくれ」
2人はオリハルコンを受け取ると、振って感触を確かめる。
「やはりミスリルの方が軽いですね」
「アイカはサブウエポンだから、軽い方がいいなら剣はミスリルのショートソードをメインで使ってくれ。オリハルコンはいざとなったら使えばいい。素振りは毎日やっておいてくれよ」
贅沢な素振り剣だ。それ一本で国宝クラスの日本刀が何本買えるかな~。
ジェンカはぶんぶん振り回して、にっこりと笑った。気に入ったようだ。
「あとは、この間の魔法弓がひとあたりある。それでどうだ」
「もらっておこう。それと防具系はあるかな」
「オリハルコンの盾が白金貨50枚であるな。こいつは掘り出し物だじぞ」
「そいつはいいな。じゃクラウス用でそいつを。まあ、このくらいだな。あとポーションを白金貨2枚分くれ。残りは商会用にパーティ名義の口座を作って、そこに入れておきたい」
その前に全員に支度金名目で白金貨1枚ずつ配っておいた。各自で金貨が欲しかったら一旦ギルドの口座に入れてから、要る分だけ引き出してくれればいい。
しめて装備が91枚半に小遣いが6枚で、残りが402枚半だ。いい装備を買えば、あっという間に金が消えていく。Aランクをやるのだから、当然の準備だ。俺の新装備もどれだけの性能なのかまだ把握しきれていないし。




