2-3 王国指名依頼
「指名依頼……ですか?」
俺は首を捻った。王家からの指名以来なんて、俺みたいな新人が受けるようなものではない。
「そうだ。まあ、なんというか、ご祝儀みたいな物だ。先の討伐は御苦労であった。多くの冒険者も救われたしな。Bランクが8体もいたそうではないか。あれでは高ランクの冒険者達も苦労したであろう。それに彼らが戻ってくるまで禄に食料も持っておらぬ低ランクの冒険者達も持たなかったであろう。バラクテスの件と言い、冒険者のダメージは惨憺たる有様だ。ダンジョンからの上がりにも影響しかねないような一連の事件だった」
国王も、紅茶を手にしながら一息に語った。この王様、そんな事も気にかけてくれるんだな。確かに、ダンジョンは馬鹿にできない経済効果を生み出しているのではあるが。
魔物はダンジョンだけで沸くのではないが、安定して供給があるのは強い。しかも、この大国の王都のど真ん中でだ。そのまま流通の中枢に乗せられる。
「ええ。でもあれも、もしかすると俺達由来の事件だったかもしれませんし。バラクテスを倒しすぎたが故に」
「馬鹿者、それこそ元を正せば王家由来の出来事ではないか。とにかくお前のような者には、もっと上を目指してもらいたいという願いもある。Aランクの魔物を狩ってくればよいのだろう? 丁度手頃な物がある。詳しくはギルドへ行って聞くがよい。それとお前にはこれを与えよう」
そう言って国王は手を叩き合図をした。侍従が台に載せて運び込んでくれたものは何かの魔道具のようだった。
「これはイレイズの盾。300年ほどの昔、王国の天才魔道具製作者、ビルハインドが作った傑作だ。だが一つ問題がある。癖のある魔道具でな。これの持つスキルを発動させることのできる者がこの300年おらなかったのだ。以来、王国の宝物庫で眠ったままという代物よ。これを使ってみせよ。そうすれば、これはお前の物だ」
これは、もしかして。俺は色めき立った。これは絶対に欲しい。
「ちょっと見せてくださいね」
俺はそれを手にしてみる。何か、ガントレットに近い形状をしている。オリハルコン? いや違うな。色合いも質感も異なる。なんとなくわかる。これは、もっと上の物。となると。
「国王陛下。あなたも人が悪いなあ。どうせ御褒美ならばもう一つの方もくださいな」
「ほお」
国王陛下もやや驚いた表情を浮べる。
「何故わかった」
「これは盾だ。ならば、おそらくは剣となる物と対。それを左右に嵌めるようにする物じゃないのですか? さしずめ、なんとかの剣ってアイテムでしょうかね」
いや単にカマかけてみただけ。いや、だってさ。マンガとかだと、そんな展開じゃない?
「ははは、見事だ」
そう言って王様ったら、その布で隠された台の中からもう一つの篭手を取り出した。
「わからなかったら、やらないつもりでおったのだがな。これがもう一つの対となる魔道具の退魔の剣だ」
ひでえなあ。だが、こいつにはまだ秘密があるはず。それはもうわかっている。
「では、遠慮なく」
俺はそれを左右に装着すると、篭手はピタっと俺の腕に吸い付くような形となった。
「へえ。不思議な金属だな。魔法金属ですね、もしかしてオリハルコンの上の物ですか」
「そうだ。それはベスマギル。ビルハインドが作った魔法素材よ。製法は秘密とされ、とうとう再現はされなかった」
「え、そんな貴重品をいいのですか?」
「ベスマギルの魔道具はまだ他にもたくさんあるのだ。これは過去にも多くの勇士に与えようとしたが、使いこなせる者がおらんくてな。発動にもかなり魔力を必要とするらしくて」
俺はちょっと笑ってみせた。国王はそれを見咎めたが眉を顰めたに留めた。
「それは違いますよ、陛下。これはね、製作者のほんのいたずら心。それは見せ掛けだけです」
俺は、軽く、ほんの軽く魔力を流し、その魔道具を起動させた。俺の目の前には、見事な魔法盾が展開されていた。
「おお、こ、これは。お前は何をした? さして魔力を使ったとは思えぬが」
「これはですね、無理に力押しにしても動かぬのですよ。この魔道具作った人は凄い捻くれ者ですね。陛下のお話を聞いた加減では、そう思えたのでもしかしたらと思ったら、案の定」
国王は唸り、そして考え込んでギブアップした。
「まさに魔工匠ビルハインドといえば、偏屈の極みであったというが。どういう事であるのか教えてくれ」
「えー、なんというか扱いが難儀ですが、上手にこなすと効率よく動くんですよ。一言で言えば、凄い癖があって『素人が俺の魔道具に触るんじゃねえ』という気概に満ちた仕様というか。そう、このギルマス・エバーソンの剣のような癖物。俺は、これを使い慣れているせいでしょう。あっさりと起動できましたよ」
「そして、この対になる魔道具は二刀流の魔法剣なんです。そして」
俺は言葉を切ると、両手に2本の剣を持った。
「こうすると四刀流としても使えます。実は俺のスキルにはラーニングの機能があります。それが俺のスキル『魔法剣(全属性)』という物の本当の意味です。ジャファーソンの魔法盾は覚えましたので、左の剣で発生させられます。そしてイレイズの盾には本来の『スキル打消し』の機能を発揮させます。退魔の剣はそれ自体も強力な魔法の剣として扱えますが、右手に持った剣の攻撃力を強化する力が本来の使い方です。ですから正しい使い方は、このように右手に長剣など片手で扱える武器を持ちその力を強化、左手には軽量なナイフ、あるいは本物の盾でもいいですがそれを使って盾魔法を張り、イレイズの盾は敵のスキル打消しに使う。これはラーニング機能を持つ魔法剣使いの専用武器なのです。マニアック過ぎて、使い手が殆どいないでしょう」
国王も俺の説明に驚いたようだったが、納得はしてくれたみたいだ。そう、これはあのギルマスと同じくいかなるスキルの発動も打ち消す力があるのだ。
ジェファーソンの盾魔法は覚えられたが、ギルマスのスキルは強烈だからか特殊だからなのかわからないが、ラーニングできなかったのだ。思わぬところでいい物が手に入った。
「なるほどな。なかなか使い手がおらぬわけよ。そういえば300年前の使い手も魔法剣のスキル持ちだったと聞く」
納得顔の国王に向かって、俺は更に付け加えた。
「これは一旦誰かに起動されると、その他の人間の装着を拒むようです。ただし、その人間が死んでしまえばリセットされるようなのですが」
「まあよい。どの道、それはお前にやる予定だったのだから。秘密がわかってスッキリした」
俺は軽く篭手を振って、あれこれと試してみた。うん、悪くない。
「ありがとうございます。これで、これ以上の装備をというと、ベスマギルの剣しかないはずですが」
「生憎とビルハインドは魔道具専門で剣は扱っていなかったから、そんな物はあるまいて」
俺は頷いた。まあ、これでも充分だ。
「よかったね、シャル。いい物が手に入ってさ」
「ああ、これでBランク魔物とかはなんとかなりそうだ。問題はAランクの魔物だな。まだ出会った事が無いから、まったく想像もつかない」
「でもスキルを消せるんだから、戦いようもあるわよ」
ジーンも嬉しそうに篭手を撫でてくれる。
こんな物を買えばいくらするんだろうな。それ以前に王国の宝物庫でお蔵入りになっていたような物なのだから買えるはずもないのだが。
「それでは、あと商売の話もしたい。実は宰相からクレームが付いていてな。王国の利益になるような物も買うのでなければ、お前からの買い物はまかりならんと言われてしまっていて」
「構いませんよ。というか、本来ならそれが筋なのではないでしょうか?」
「むう、そんな正論はつまらんではないか」
ここういう会話をしていると、この人の価値の基準っていうのが、なんとなくわかるような気がするな。
「えーと、それではですね……」
俺は、じっくりと店を広げていった。




