2-2 商売の時間
「シャルさん、いますか~?」
ドアの外から、そう俺を呼ぶのは同じギルド所有のハウスに住むギルド職員のベリーヌだ。
俺とジーンがヤバイ事をしているんじゃないかと思って気兼ねしているらしい。俺としてははしたいとこなんだけどなあ。
「いるぜー、何か用だったのか? 入ってこいよ」
俺とジーンはハンモックに揺られてのんびりしていた。床にスタンドを立てて使うタイプの奴だ。
ちょっと買ってみたのだが、なんとなく癖になって2人共降りられなくなっているだけだ。まあそれは知っていて買ったんだけどね。残念ながらハンモックは一人用だ。
「お二人とも、真昼間から何をやってらっしゃるんですか」
ベリーヌは呆れたように、だらしのない俺達を見ている。
「うるさいな。年寄りどもに無理矢理芸をさせられて俺は精神的ダメージを負っているんだよ。何か用か? 今日は休養日にしたんだけど」
とりあえずの生活の心配は無いしなあ。俺は怠惰にハンモックの揺れに全てを任せていた。ジーンも同じ状況なので、誰も降ろしてくれるやつはいない。飲食物は収納袋に腐るほどあるしな。
「ギルマスがお呼びですよ~。正確には、国王様がギルド経由でお呼びです」
「おうっと。ジーン、商売の時間だけど、どうする?」
「そりゃ、もちろん行かないわけにはいかないでしょう。丁度いいわ。もうお昼になるのに、このハンモックの魔力に取り付かれて降りられなくて困っているところだったし」
ああ、そういう意味じゃ最強の魔道具の一つかもしれんなあ。
「決まりだな。ベリーヌ、ご苦労さん」
「じゃ頑張ってくださいね」
俺とジーンはいそいそと着替えると、ジェンカ達に声をかけてから家を出る事にする。あいつらこそヤバイ事してそうだから、ちょっとドキドキしつつノックをした。家はまだ俺達3組とベリーヌ以外は入居者がいない。新人ラッシュが終わったところだからな。
「おい、ちょっと城まで行ってくるぜ。王様から商売のお誘いだ」
「そうか、じゃあ頑張れよー」
クラウスの、のんびりした声がかかる。あいつらも今日は堕落する事に決めたらしい。
俺達もゆったり歩いて城へ向かう。この前はピリピリしたムードが漂っていたが、今は穏やかなもんだ。昼飯はまだだったんだが、馴染みの屋台は素通りしていく。美味しいお昼ご飯が食べれそうな予感がするのだ。
小さな子供が走ってきてジーンにぶつかって転んでしまう。
泣き出す子供をジーンは起き上がらせてやり、回復魔法をかけてやる。ジーンは本当にスキルの力が上がって、こんな掠り傷など一瞬で治してしまう。杖なんて必要ない。
城へ着いたら、まず衛兵さんに用件を言って伝令に確認してもらう。その間は待合のようなところで待たされるのだ。これが普通なのであって、この前みたいな展開は異常だ。
しばらくして文官さんのような女性が迎えにきてくれた。
「あなたが聖女様ですのね。もう、城でもすっかり名が知れておりましてよ。お会いできて、光栄です」
「え!? いえ、そんな」
ジーンが慌てているが、ここでも俺は褒めてもらえないんだな。
この扱いの差には、もう慣れたけれど。ジーンがこっちをチラっとみる。内心気にしているのは彼女にはバレバレだな。
ほどなく後宮というのか、王族の住まうゾーンにと案内された。王宮ではなくて王城なのでなんと呼ばれているのかよくわからない。この人はどうやら、ここに勤めている人らしい。
「おお、来たか。聖女様に魔剣よ」
やっぱり、この王様って少年のデリケートな気持ちがわかる人だと思うな。俺の顔はしっかりと緩んでいた。ジーンはそれを見て笑っていたけど。いいの!
「嫌ですわ、国王陛下。そんな呼び方はやめてください」
「そうなのか? お前の恋人は満更でもなさそうだが」
うんうん。そうそう。
「ところで、えーと、国王陛下。今日はまた何かご用命ですか?」
この人に国王陛下なんて改まった呼び方をするのは、なんだかなと思うのであるが、少年の心がわかって色々と気配りしてくれるので、ちょっと尊敬はしている。という事で言葉遣いは改めることにしたのだ。
「うむ。それもあるのだが、本命は別の件だ」
「へえ?」
「まあ、昼飯でも食いながら話そうか」
待ってました! この人って、本当に俺の気持ちを見透かしている。まあ、それで色々歓待してくれるので悪い気は全然しないのであるが。
俺のにこにこ顔を見て、満足そうな顔の国王は先に立ち、俺とジーンをダイニングへと誘った。食堂にはデライン公爵夫妻や王家の子供達も一緒にいた。
「シャル、こんにちは」
「ジーン、いらっしゃい」
みんな、にこにこと挨拶してくれる。
「皆さん、こんにちは」
「皆様、お久し振りです」
デライン公爵も俺達を労ってくれる。
「また大変だったそうだね。あれからバラクテスも沸いてきていないし」
「そうですね。でも絶対に出てこないと限ったものではないですから、気をつけてくださいよ」
「ふむ、どんな場合に沸いてくるのだろうか」
「一番可能性が高いのは、俺がやられた時。だから、今迷宮に行くとAランク魔物とかが束になって沸いてきそうです。邪魔な俺を倒すために」
「それはまた」
公爵は絶句していたが、国王はあっさりと笑い飛ばした。
「よいではないか。Aランク魔物を持ち帰らないといかんのだろう?」
「無茶言わないでください。今はCランクを狩りまくってBランクを安全に攻略できる対策を構築すべき時なので。今日は、買い物をしていただけるとありがたいですね」
「しかし、お前ら商売をするために冒険者として金を稼ぐといいながら、商売で稼いだ金を殆ど装備に注ぎ込んでおるではないか」
国王の指摘に俺も思わず詰まった。あれ? 本当だ。何か変な気もするが。
「それは仕方が無いですよ、おかしな連中も絡んでくるし。バラクテスなんかも襲ってきてたし。それに今は妙に期待されていますから、Aランクを目指さないなんて言えませんって」
「ははは、それもそうだな。さあ、飯だ、飯。若いんだから、たんと食え」
国王が手を叩いて、料理が運ばれてきた。
前菜は、この国ではよく知られている高級鳥の蒸し肉のサラダと3種のテリーヌだ。レバーと、チーズと何かの高級肉、そしてもう一つは魚かな?
レバーも生臭くなくて、濃厚だがあっさりとしていて上手い。これを実現するのは惜しみなく金を使い厳選された最高級の素材と、高級優遇で集められた素晴らしい料理人は必須だ。エッセンスは王室料理人としての誇りか。うーん、素晴らしいぜ。
俺達が酒を飲まないので、極上な果実水が出してもらえる。よく冷えているし。
次に出されたのは、スープ。よくわからないが、あっさりした中にもコクがあって、非常に上質だ。この一杯だけで満ち足りた気分になってしまいそうだ。
ジーンも蕩けそうな顔をしている。それから、パスタか? サラダパスタのような物が出てきて、これも美味しい。上等なパンはなんというか、舌の上でふわっと蕩ける感じがする。
メインは希少なカイン鹿の薄切りステーキだ。こいつはさっぱりとしていて、それでいて肉の旨みが濃いので厚いステーキになどしない。絶妙に火の入ったステーキは極上の味わいだ。皿もよく暖めてあるので、薄くてもすぐに冷めたりはしない。
頼んでいないのに、俺のところには御代わりが来た。ナイス気配り! だが、俺はもう一皿更に御代わりをした。ジーンも遠慮なく御代わりする。
王家の人も、そんな俺達の様子を見て朗らかに笑っている。変な遠慮をするより、その方がよっぽどいいのだ。
デザートの極上タルトを平らげて、紅茶を飲みながら国王が話を切り出した。
「Aランク試験として、Aランクの魔物を狩るのだな。その件でお前達に指名依頼をしたいと思うのだ」




