1-29 救出行
「それでは出発する。皆配置につけ」
ギルマスの号令の元、さきほど打ち合わせした通りの隊列を組む。当然の事だがペーペーの俺達はケツだ。
この人数でいけば魔物なんて来ないというか、来ても足を止める事すらなく蹴散らされてしまう。そもそも、ここいらなんてCランクの狩り場ではありえないのだから。
「楽でいいなあ」
そう呟くのはジェンカだ。
「駄目ですよジェンカさん、シーフが2人いるからって、後ろの警戒は私達に任されているんですから」
アイカはなかなか生真面目だな。それに較べてジェンカの奴ときたら。だが、あれが間違っているというものでもないのだ。
「アイカ、今からそんなに気を張っていちゃ持たないわよ。前の連中を見てごらんよ。百戦錬磨の冒険者達がいかにも平常心って感じでしょ? 今はあの先輩達から学ぶ時間だよ。そのための最後尾なんだから」
ジェンカの台詞が聞こえたのか、俺達のすぐ前にいたCランクの冒険者が、こちらを横目で見てニヤリと笑った。
みんな慌てずに落ち着いているな。俺達以外に6名ほど女性もいたが、皆落ち着いている。50名と数は少ないが精鋭部隊だ。へたな連中の頭数では討ち死にさせるだけだからだろう。ひよっこのうちのメンバーとは年季が違う。
隊列はあっという間に突き進み、30分も歩かぬうちに現場に到着した。俺達だけで行くのと違って早い事、早い事。
うちはアイカが先導してやっとこのスピードだ。彼らは余力を持っている。パーティ単位にバラければ、さらに速度は上がるだろう。
何しろ、一糸乱れずといった感じで、澱みなく歩を進めるのだ。大勢でいて足並みが揃わないどころか、隊列が隊列を引っ張る感じで進むのだ。
深層に向かうパーティというのは個人レベルでこうでないといけないんだな。女性の数が少ないのがわかる気がした。
結婚のため引退が早いのもあるが、男性の行軍についていけなくて、先に進むに連れ脱落する人が多いのだろう。逆に、残っている女性はへたな男性よりも精鋭なのだ。
「アイカ、前に来てくれ。ジェンカは後方を警戒だ」
ギルマスに呼ばれてアイカが前に行く。念のため、俺も付きそう。
「ここから気配を探ってみろ。どうも妙な胸騒ぎがする」
ギルマスはやや焦燥を顔に貼り付けている。まるで強敵と相対しているかのような緊張感が感じられる。その張り詰めた空気はメンバーにも隈なく伝わった。
「はい。何もいま……いえ、い、います。凄い。Bランクの魔物があんなに気配を消せるなんて。スロープの入り口に頭を突っ込んで、あ、あ、あれはブレスの体勢? もう私達が来たのはすでに察知されていて、待ち伏せしています。その外に少なくとも6体以上のBランクの魔物が。スロープを抜けてきた者を絶対に逃がさない体勢でいます。退却を要請します。そっとお願い。今退却がバレたら即座にブレスを撃ち込んでくるでしょう」
冒険者達がアイカの能力に舌を巻いた。ここまで詳しく状況を見てとれるとは。他のシーフには存在すら感知できなかっただろう。そして。
「レイドパーティに警告。後方からCランク魔物多数。その数50以上。まだ距離はあります。速やかにこれを討ち果たしての撤退を推奨します」
ジェンカの無慈悲な宣告が静かに伝えられた。
「洞窟内でCランク魔物の大群が沸いたか!」
「撤収。静かにな」
ギルマスの命に従い、全員移動を開始する。
皆気配を殺し、それでいて速やかに。俺達も雰囲気に飲まれ、実力以上の撤退力を見せた。周りがお手本だらけだからな。
今度は俺達が集団の中だ。子羊は群れの真ん中に入れて守るのだ。俺達もメーメー鳴いたりはせずに、上手に気配を殺して撤収する。
ほどなく先頭の武闘派冒険者が、俺達をBランク魔物の所へ追い立てる勢子役として現れた魔物達の群れと接敵した。だが、おそるべき事に彼らは殆ど無音で次々と仕留めていくのだ。なんという実力だ。
「気をつけてください。スロープ入り口にいるBランク魔物がこちらの撤退の気配に気付いたようです。索敵されています。駄目、撤退がバレました。撃ってきます、ブレスです。可能であれば対ブレス防御を。全員、走って。魔物を倒しながら抜けてください。来ました、ブレス。あれはサラマンダードラゴンです」
「なんだと!? ジェファーソン、お前の防御盾で防げるか」
「難しい。サラマンダードラゴンはBランクでは随一のブレスを放つ。ある程度は防げるが、すべては無理だ」
全員、走りながら対応策を練っている。凄い人達だ。
その時、レミーが叫んだ。
「皆さん、なるべく前方へ進んでください。ジェファーソン、防御盾お願い。残りは氷魔法で散らします。ジーン、魔力支援を!」
「俺もやる。氷の魔法剣で対応する。頼みますよ、ジェファーソン」
「まかせろ。頼むぞ、ひよっこども」
迫り来る凶悪ブレス。だが盾の男は踏ん張った。ブレスは8割方食い止めた。早めに逃げ出していなければアウトのぎりぎりコースだった。すげえな。こんな人がパーティに欲しいぜ!
「アイスフラワー」
化学の実験で塩の花が咲くように、展開された魔法盾の後ろから発して洞窟の端までを凍てついた花が咲き誇った。
盾を中心に展開されているので、盾の人のダメージを相当和らげている。だが、その氷の芸術を突き破り、炎の蛇が鎌首を持ち上げた。
すかさず俺はオリハルコンの大剣をふるった。氷の魔法剣はそれを叩き落とし消滅させる。そして、もう1本落としたら両側から紅蓮の竜巻が沸いた。
「シャル、これを」
とっさにクラウスが投げてよこしたオリハルコンの大剣を必死で掴み取り、俄か二刀流で大蛇のような火の鎌首を叩き落とした。まだ来るのか? ちょっとキツイぜ!
だがアイカが可愛らしい声で宣言してくれる。
「シャル、大丈夫よ。今回のブレスは凌ぎ切ったわ。でも速やかなる撤退を進言します。今のところブレスの体勢はとっていません。そして距離は離れましたから安全度は増しましたが、それとて絶対ではありません。その、申し訳ありません。距離が離れましたのでこちらの探知精度も落ちています。でもいます。入り口からどく気配は微塵もありません」
「よくやったぞ、このひよこども。しかし、おやっさん。これからどうしますか。入り口にあんな化け物がいたんじゃ手も足も出ないし、ブレスはおやっさんの能力でも無効化できない。あいつの弱点は氷系魔法だが、かなりのものがいる。そっちの嬢ちゃんでも足りないだろう。どうだ、嬢ちゃん。やれるか?」
ベテラン冒険者に聞かれたレミーも困ったようだ。
「これだけ離れた場所で、あいつのブレスを魔法盾が8割方防いでくれてあるのに、通してしまいました。シャルが頑張ってくれていなかったら危なかったです。私とシャル以外で他に氷の魔法を使える方は?」
誰も手が上がらなかった。
「とにかくあのブレスをなんとかしないと入り口から様子を見る事もできませんわ」
みんな手を出しあぐねているようだった。




