1-30 ご提案
「あのう」
俺は手を挙げてみた。
「なんだ小僧、言ってみろ」
そう言ってくれたのは、この遠征チームのリーダー格であるロビンソンさんだ。
さっきも気配なくCランク5体を殲滅し、先頭きって脱出の血路を開いた近接戦闘のプロだ。こわもての眉太な顔がおっかないぜ。
ある意味、ノブレス・オブリージュが顔に張り付いていると言えない事も無い。
「では3つほど。あいつの弱点は氷の他にありますか? 例えば爆発とか。あと、あいつの口の中に凄い爆発を起こしてやったら引っ込みますかね。それとブレスが吐けなくなりますか」
ロビンソンさんは少し考えたが、ゆっくりと口を開いた。
「ふむ。Bランクといえど不死身ではない。激しい火魔法を食らわせたらダメージはある。魔物の倒し方として口の中を狙う手段もある。やってみる価値はあるだろう」
「アイカ。ここから、奴が引っ込んだかどうかの判定はできる?」
「できます」
「ジーン、俺達が馬車に乗ったとして、その馬車をファストで速度を挙げられる?」
「できない事はないけど、馬車が持たないと思う。せいぜい2倍が限度ね」
俺と一緒に命をかけてくれるかい? その言葉は飲み込んだ。答は決まっているからだ。
「ジェファーソンさん。これから使うものは、ここまで届く炎を出しませんが、とても強い爆発を起こし、凄い爆風を起こすはずです。この殆ど密閉された洞窟ではマズイかもしれません。この洞窟を完全に遮断して防げますか?」
「やってやれん事はないが、保障はできんな」
保障はできん、か。どうするかな。
「炎は無理だが、風なら強力な土壁でかなり防げるが。さっきは間に合わなかったが、あらかじめわかっているなら出せる」
ベテランそうなおじさん冒険者が答えてくれる。
「それはすぐにはずせますか?」
「はずせるが」
「アイカ、風が収まったのを探知できる?」
「できるけど。シャル何をするつもり?」
「あの魔物に爆発するプレゼントをくれてやって、そのあとジーンの支援をもらいながら、そこへ走りこんでヤツの脳天にお見舞いしてやるのさ。こいつをな」
俺が取り出したのは『20ミリ対物ライフル』だった。ずっしりと重い最強火器だ。
「ギルマス。こいつは、あのバラクテスの上半身を綺麗に吹き飛ばしてやった武器の強力版だ。欠点としては重すぎて手で持って撃てないから、地面に置いて狙わないといけない事だ」
そして、俺は大型のドローンを取り出した。人間を乗せられる大型の物だ。
「これに、グラムをぶっとばしてあんな姿にしてやった物の3倍量の爆発物が仕込んである」
そして、衝撃で発火する雷管薬をビッシリと埋め込んである。魔物に噛まれると撃発する、突起のある金属板に挟まれた奴だ。
いわば、弾薬についている雷管を100連装したくらいの物をビッシリ爆薬に嵌めこんであるので、どこに食いついても誘爆するはずだ。
俺はそいつを軽く浮かせてやる。それを見て、あたりはどよめいた。
「ねえ、ロビンソンさん。こいつを鼻先に飛ばしてやったら、やっこさん食いつきますかね?」
「ふむ。驚愕の代物だがおそらくな。奴らは喧嘩っぱやくて、すぐに食いついてくる。面白い事を考えるヤツだな。そんな物を一体どこから持ってきた」
俺は笑って首を竦めた。そして出した。本格4WDの普通自動車を。ついに作ってしまえたのだ。ハイオク満タンにしてある。俺はエンジンをかけて、助手席にジーンを乗せた。
「これもシートベルトするんだよね?」
「いい子だ、ハニー」
「シャル、私も行く」
アイカが乗り込んできた。手に持っているのはオリハルコン製魔法弓ダイダロスとオリハルコンの矢だ。
右側のドアを開けて、いつでも飛び込めるようにした。20ミリライフルは、2脚を立てて薬室に砲弾を詰めてある。
化け物のように巨大な弾丸だ。命中すれば、どんな大柄の人間をも確実に真っ二つにして吹き飛ばす圧倒的な威力がある。
こいつを魔法で初速の50倍までに加速するのだ。その直進性はとんでもないものだ。近距離ならまずはずさないだろう。
「行け!」
俺が放ったドローンはあっという間に最高速度の時速65kmに達し、障害物センサーにより微妙な角度で変化する洞窟の地形に沿ってヤツのところに進んでいった。カメラ映像で確認しながら行く。
「シャル、さっきの物がもうすぐ魔物に接触する」
アイカから報告が上がる。
「ハイデルさん、用意はいいですか?」
ハイデルさんは、さっき話に加わった土魔法使いだ。
「おお、もういいか?」
「やってください。少しだけ隙間を開けておいて」
もりもりと湧き上がる土くれがみるみるうちに厚い壁を作っていく。そして、硬くなっていく。隙間は電波をよく通すためだ。
「接触したわ」
何も起きない。カメラ越しにヤツはこっちを睨んでいる。ドローンをコンントローラーで、ちょっと右に左に揺さぶってみた。ライトをパッシングして挑発してみるも反応は無い。
「くそ、駄目か」
だが、ヤツはいきなり食いついてきてビックリした。
「うわ! ジェファーソンさん!」
「よし!」
すさまじい爆発の振動が土壁に叩きつけられた。地面からも振動が伝わってくる。
ハイデルさんは更に土壁を強化した。ギュッと壁が引き締まる様子が感じられる。命懸けの戦いの中で感覚が鋭敏化しているのがわかる。
穴ももちろん塞がれた。一瞬壁が破られるかと思ったが、ジェファーソンさんがぐっと盾魔法を押し付けて支えてくれたので助かった。
俺は運転席で待った。アイカにもベルトの付け方とはずし方は教えてある。窓を少し開けて外とはコミュニケーションをとれるようにしておいた。
「シャル、爆発は収まったわ。あいつも入り口から離れた!」
アイカから報告がきた。俺は窓の隙間から叫んだ。
「土壁と盾魔法を解いてくれ! ジーン、アイカ、行くよ」
壁の残骸は残っていたが、信頼できる日本製の4WD車は苦もなく乗り越えた。
鉄の塊が唸りを上げ、パワーバンドに放り込まれた4000ccのエンジンの咆哮に残された人々は唖然としていた。
ジーンの支援魔法を受けてありえないような加速を持って進む2トンを越える鋼鉄の塊はダンジョン洞窟を突き進んだ。
「アイカ、ヤツはどうだ?」
「入り口にはいない。近くにもいないみたい? あれ、おかしいな。どこにいったのかな」
なんだと? そいつはちょっと気にかかるな。
「他のBランク魔物も爆発を警戒して散ったみたい」
それは思わぬ効果だったな。そして、俺達は直に出口に辿りついた。平原からの入り口だ。確かにヤツはいないようだな。
「アイカ、ヤツは一体どこだ?」
擬態とか保護色とかだとヤバイ。俺は手には12.7ミリ対物ライフルを持っている。少しずつ外に出てみる。
「シャル、後ろー!」
アイカが悲痛に叫ぶ。なんとヤツは洞窟から平原に出る洞窟の上で、じっと待っていたのだ。とんでもなく気配を殺して。その目は苦痛を与えた相手に対する憎しみと呪詛に満ちていた。
「野郎」
悪魔か、こいつは。そこにいられると20ミリ砲の伏せ撃ちで狙えないんだ! 知っていてやっているとしか思えない狡猾さだ。そして、ブレスを吐こうとしている。俺のジーンに向かって!




