1-28 非常事態
翌日、意気込んでダンジョンに向かったが、なんと入場制限にあってしまった。ダンジョン前には冒険者が犇いていて、ざわついていた。一体、何の騒ぎだろう。
「ねえ、何があったの?」
俺は隣にいた冒険者に聞いてみた。
「いや、なんでも6階層の入り口にBランクの魔物が張り付いていて、とんでもない事になっているらしい。もう低ランクパーティが6つも全滅した。10の低ランクパーティが大ダメージを負い、まだ6階層より下のところに昨日から100パーティ以上が取り残されている」
なんだ、そりゃあ。まるで意味がわからない。
「今、Bランクのいるパーティは出払ってしまっていてな。彼らは深層に行くので何日も帰ってこない。彼らが帰り道に討伐してくれるまでは入場制限をという事らしい。1体ならCランクパーティを大量に投入して、国軍兵士も参加しての作戦も考えられるが、2体あるいは3体いるとの情報が入っている。待つしかないな」
それはキツイ。彼らは基本日帰りだ。弁当くらいしか持っていっていない。何日もかかったら飢え死にしてしまう。魔物の肉は食えないからな。
「これ、どうするんだろうな」
「さあ、俺達が行っていなくてよかったな」
だが、俺がいれば食料や水の供給くらいは出来たのだ。そのうちにはBランクが来てなんとかしてくれるだろうしな。まあ、何を言おうが俺はここにいるんだ。仕方が無い。
「ここにいても仕方がない。ギルドで鍛錬でもしないか?」
「賛成。あたしは弓を習いたいし、アイカも新しい武器に慣れたいよね」
「ええ、やっぱり手に馴染むところまでいっておけば困りませんしね」
「私も新しいスタッフに慣れないと。やっぱりオリハルコンの大きめサイズなので重めです」
「じゃあ、俺もアイカとの連携を試すかな。あと、オリハルコンの槍を俺も扱えるようにしたいわ。ギルマスは忙しいだろうから、クラウス、俺と練習用の槍で稽古しないか? 運がいいと誰かが付き合ってくれるかもしれん。どうせ、みんな暇だしな」
俺達は歩いてすぐのギルドへと向かい、修練場に行こうとしたらアリシアさんに呼び止められた。彼女はその大きな胸をツンっと突き出し、こう言った。
「あなた達もちょっと来てちょうだい」
「え、何かあったんですか?」
「ギルマスが下で足止めを食っている冒険者の救出作戦を提案しているわ。ギルマス本人が出るそうよ」
俺達は顔を見合わせた。
「そっか。ギルマスは元Sランクなんだよな」
「これでもう大丈夫だな」
「何を言っているの、あなた達。ギルマスが引退して一体何年経っていると思うの。10年よ、10年。そりゃあ、昔は鳴らしたものだけれど、もう55歳なんだからね。衰えもするわ。45歳で限界まで頑張って引退したんだから、今きつくないわけがないでしょう」
そ、そうか。それはキツイよな。かなりのおじさんなんだった。今でも見かけは凄い迫力があるんで、そんな事は考えた事もなかったわ。
「ギルマスも、今はもうバラクテスの相手も務まらないと言っているわ。ギルマスもかつては、バラクテスなど一刀の元に切り捨てたものだけれど、それも今から20年前の全盛だった頃の話だから」
え、もしかして、それは俺よりも弱いって事?
「自覚が出来たようね。あなたは一瞬でバラクテスの上半身を塵に変えたと聞いたわ。倒せとまでは言わないからBランクチームが来るまでの時間を稼いでちょうだい。それと食料を運んでほしいの。これは緊急時におけるエマンジェーシーコードの発令です」
あっちゃあ。エマンジェーシーコード、それは緊急招集だ。非常事態が起きた時、ギルマスがその権限で冒険者を招集するのだ。ただし、危険を伴うので基本的にはDランク以上のパーティにのみ適用される。これを拒否すると冒険者ギルドを除名される。
「やってくれるのなら、あなたのメンバーは全員無条件でDランクへ昇格させてあげる。いやならわかっているわね」
「イエスマム! アイマム!」
「なあに、それ?」
アリシアさんはその魅力的なトパーズのような瞳を不思議そうな色に彩った。
「女性上官への服従の挨拶でありまーす」
「よろしい」
俺はみんなに謝っておいた。
「というわけで俺達は行かなくてはならなくなった。すまん、性急なランク上げがマズイ結果になったな。一応みんなで行ってもらうが、入り口から戦えるのならヒット&アウェイで俺が出る。場合によってはクラウスには援護してもらう。もっぱら俺の救出要員で! アイカとレミーは中から攻撃、ジェンカも魔法弓を借りてくれ。ジーンはもっぱら俺への支援と回復だ。アイカはオリハルコンの矢は使い切るくらいのつもりでいてくれ。俺も出来れば飛び道具で戦いたいところだ」
全員厳しい顔付きだったが、頷いてくれた。
「場所が悪いよな。大平原だから、外に出たら逃げ場が無い」
「でも本当に大丈夫かしら。Bランクが複数いるんですよね」
アイカもまだ未使用の武器に自信が持てないようだった。
俺は今この瞬間にも準備を着々と進めていった。買い物、買い物、買い物三昧だ~。あっという間に魔力が切れたが、どうっていう事はない。これから行くのは魔素溢れるダンジョンなのだから。
「お前達、よく来てくれた。こっちへ来い」
ギルマスに呼ばれていった場所にはそれなりの強者が揃っていた。50名の冒険者。2/3はCランクのベテランだろう。みんな、それなりの装備を持っている。
「おい、ギルマス。そんなガキどもを連れていくつもりなのか? 相手はBランクだぞ」
「わかっておる。だが、そこのシャルはもうバラクテスを3体にグラムも全てソロで倒している男だ。後のメンバーはそのサポートだ。彼らもそれなりにはやれる」
男達は一斉にこちらを見た。男にそんなに見つめられてもなあ。
「まあいいだろう。小僧ども、足は引っ張るなよ」
「へーい」
俺達は集まって作戦会議をした。うんこ座りして円陣を組んでいる。まるでコンビニ前に集まってダベっている若者のようだ。
「何よあれ。失礼しちゃうわねー」
ジェンカがちょっとお冠だ。
「仕方が無いよ、本来なシャル以外は呼ばれたりしないメンツだもの」
アイカはちょっと自信がなさげだ。無理も無い。いきなりBランクの相手はキツイよな。この子はまだバラクテスさえ相手にした事がないのだ。
「まあまあ。思ったより人数多くて助かったよ。引っ込んでろっていうのなら任せておくさ。俺達はBランクを倒しにいくわけじゃない。なんとか立ち往生の冒険者を助ける算段をしにいくだけさ。いざとなったら俺に必殺の考えがある」
「え、そうなの?」
レミーが驚いたようだった。
「その時はジーンに手伝ってもらわないといけないんだけど。一緒に来てくれるだけでいいんだ」
「ええ、行くのはかまわないんだけど、あたしにBランクと戦う力は無いわよ?」
ジーンもちょっと困惑している。
「戦わないよ。そこまで思い上がってはいないよ。商売していい思いするまでは死なないよ。ジーンと湯着なしでお風呂に入らずして死ねない」
「もうシャルったら」
そう言いつつも顔を赤らめて満更でもなさそうなジーン。
「何の話をしているのです?」
「こんな時に余裕ですねえ」
俺達と付き合いの浅い新人2人が呆れている。
「相変わらずだなあ」
「だねー」
旧知の2人組は、いつもの事だなという風情だ。
「あたぼうよ。正面きってやりあうのならいざ知らず、概ね逃げ回るだけだからな。運がいいと早い帰りのBランク冒険者が来てくれる。そうしたら救援部隊が援護に回ればなんとか目もあるだろう」
とにもかくも行くしかない状況なのである。事態は待った無しの状態だ。備えや作戦だけは存分に用意しておくことにした。




