1-27 ダンジョン攻略準備
帰り道でジェンカが、両手を頭の後ろに回してボヤいた。
「なんか、あたしの攻撃力だけが見劣りしているような気がするわ~」
「あら、あたしだって完全に後方要員よ?」
ジーンが不思議そうな顔をする。
「あんたは回復支援専門だからいいの。多少は攻撃に使える魔法もあるじゃないの」
「ジェンカ、お前の『感知(究極)』に相応しい武器が何か無いか探してみたいんだけど、それがあるかどうかだなあ」
俺は虫のいい事をずっと考えていたのだ。さすがにギルドにもないとは思うが。それに今回は予算もなかった。レミーの武器は予想外の収穫だったのだ。
「へえ、どんなもの?」
「お前が敵を探知したら、見えない離れたところからそこへぶっ放して、後から回収にいくだけという都合の良すぎる武器だ」
「そんな物がこの世にあるはずはないじゃないの!」
ジェンカが大声で叫んだ。この世界の常識から言ったら、そういう反応だよな。
「この世っていうのが、この世界の事を言うのならそうかもな。だが、俺がかつて生きた世界には、そいつが山ほどあった。いや、それがむしろ主流だった。残念な事に俺には買い物できないがな」
「ええっ、マジで~!?」
買えない事もないんだが。超旧式な地対地ミサイルだか、ネットで売っていたし。
ハンディタイプの歩兵携行用の重火器なんかより、むしろ大型の旧型兵器なんかの方がネットじゃ販売している事が多い。
人間が持ち運べる強力な武器はテロ対策で規制が厳しいんだろう。アメリカでは持つのは合法だが、これも厳しい審査のあるライセンスがいるんじゃなかったかな。
本物の大砲や戦車を個人が持っていいというのは凄いけれど。日本だと実働できる戦車は持てない。実銃と一緒で使用不能にしておかないといけない。
「まあ、その辺はおいおいに考えようぜ。お前の感知は当てにしているぜ。アイカの攻撃力が上がったから、アイカは攻撃に能力を振ってシーフとしては補助に徹するというやり方もある。
お前も遊撃に回ったり、後方の護衛に回ったりと色々やれるんだし。お前は、そのあたりのセンスがピカイチだからな。
とりあえず、次回はお前用の武器をもう少し見繕ってもいいし、クラウスが槍を使えるようならサブウエポンをミスリル長剣にして、お前がオリハルコンの長剣にスイッチしてもいい。
お前はアイカと違って力もあるし、近接も充分にこなせるからな。相手が多ければ前衛に回ってもいい。ただ、その時は防具をそろえないとキツイかもしれない」
ジェンカも考える風で言う。
「そうねー。ちょっと鍛えるかな。さすがにクラウスやシャルみたいな、剣戟専用スキル持ちじゃないから近接特化は考え物だけど」
俺のはかなり特殊スキルだけどね。
「まあ、ジェンカはオールマイティで潰しが効くからな。アイカほどでなくても弓は使えるから、おまえも今度魔法弓を使ってみるか? アイカにもっといいのが見つかったら、今アイカが使っているのをお前に回してもいいし」
「それもいいかな。アイカ、ちょっと弓の手ほどきしてくれる?」
「いいわよ。あたしの見立てだと、一番弓の才がありそうなのがジェンカだわ」
「そうだな、例えばアイカが一時的に戦闘不能になった時とかにアイカの武器をジェンカが使いこなせたりするとカバーする力が違ってくる」
ジェンカは村でも成人していない若者の中では一番弓が上手かった。なんていうか、ただ的に当てるだけでなく、実際の戦果に結びつく上手さなのだ。
そのあたりはセンスだ。動かないただの的に当てるだけなら他に上手い奴もいたけれど、それでは役に立たない。
「これからどうする?」
「そうだな。みんなで明日からのダンジョン行きの準備に行こう。まだ新装備も使いこなしていないから、みんなでまとまっていたほうがいい」
そして、街へ繰り出して買い物に出かけた。メインは食い物だ。普通、新人は収納袋なんか持ってはいないので粗末な食い物しか持っていけないが、俺達は最初からジーンが持っていてくれたので弁当は詰めていけた。まあ、しょっぱなからあのザマだったんだがね。
「ねえ、シャル。ここの屋台の美味しそうよ。シャルの好きなエンベも入っているし」
エンベは香りの強い野菜だ。セロリのように風味が強すぎる事も無く、人気の食材だ。火を通し過ぎずにシャキっと仕上げるのがコツなんだよな。
味見させてもらって美味かったので、まとめて10皿いただいた。うちはまだギルドに白金貨22枚半あるし、手持ちの金貨も充分に残っている。こちらへ来たばかりの頃に較べたら雲泥の差だ。
「こっちの串焼きは、ジーンの好きなブルムスの上等な部位だぜ。なかなか見かけないんだ。か、買い占めよう~」
「お前ら、ズルイぞ。おやっさん、俺達もそれ100串」
「あいよ、兄ちゃん」
「なんだとクラウス。買いすぎだぞ、てめー」
結局アイカとレミーも参戦して、俺達で屋台を閉店させてしまった。
待ちきれなくてブルムス串をツマミ食いしながら、俺達は屋台が立ち並ぶ、通称『冒険者通り』を練り歩いた。ここは家からも近い。
ダンジョンの出入り口から見えるこの通りから漂う香ばしい匂いは、無事に帰還した若い冒険者達を優しく誘うのであった。懐に優しいのも特徴であったのだ。元冒険者の人がやっている屋台も多くあって、伝があって安く仕入れていたりする。
他にも器を持って買いにいくスープやシチューなど。仕入れに仕入れまくった。
「次はどうするの?」
「一応、今のうちに野営の訓練をしておこうと思って。野営関係の物を一式見繕いたいな」
「そういえばアイカ達のポーションは?」
「ああ、そういや持たせてないな。どうする、アイカ達。手持ちが足りなければ貸してやるが、これは持っていて欲しいな」
「そうですね。回復アイテムを戦闘中に借りるのは難しいですから、お金が足りなかったら貸してください」
「まあ、基本はジーンがやってくれるんだが支援魔法で忙しかったり、複数の回復対象者がいて対応が難しかったりするとやっかいだ。ジーンが何らかの原因で戦闘不能な事もあるかもしれないし」
俺達は先に野営の道具を買いに行く事にした。ここは少しダンジョンに近いところにある。
「テントを3張りだな。調理器具はいらないな。ネットからテントも用意できるが、ちょっとなんだし」
外から見えないとこならいいが、あまりこの世界とかけ離れたものを用意するのもよくない。あとランプや腰掛けなんかも買った。
ちょっとした休憩の時にも使えるしな。木の屋外テーブルはなかなか趣がある。細かい物は、いい物を俺がネットで買えるので買わない。
「じゃあ、ポーションでも仕入れに行くとするか」
今の所バラクテスが現れる気配もなく、俺達は仲間内でのんびりと街を練り歩くのだった。




