1-22 やれやれな展開
俺は適当に車を走らせて、あいつを連れまわした。あの野郎め、スタミナ切れって言葉は知らないらしいな。だが城はどんどん近づいてきた。こいつが出た報せはもう回っているのか、城の門前には騎士団が勢揃いだ。
「ふん、お出迎えご苦労さん。そおら、くれてやるぜ」
俺は騎士団の間を縫って走り抜けた。このあたりは幅の無い軽の強みだ。
騎士団も慌てて避ける。新手の魔物かと思ったかもしれないが、攻撃する余裕はなかったようだ。そして後ろで騎士が2人ほどバラクテスの奴にふっとばされた。
「何~、何を間抜けに吹っ飛ばされてるんだよ、お前ら王国騎士団なんだろう?」
窓を開けて叫んだ俺の台詞が聞こえたのか、近くにいた騎士が言った。
「馬鹿野郎、我々は騎士団だぞ。本来は魔物と戦う訓練なんかしておらん!」
「自慢するなよ!」
なんだよ、当てがはずれたな。あいつらに相手させて漁夫の利を得ようと思ったのに。
しかし、騎士に囲まれて奴は動きを止めた。こりゃあいい按配だな。
「ジーン、ここを出るな。またあの武器を使う。サイレントで音を軽減してくれ」
そう言い置いて俺は車外に出た。ある物を抱えて。
「よお色男、この前は世話になったなあ。お前の倒し方は覚えたぜ」
俺は12.7ミリ対物ライフルを構えて立った。薬室に一発、マガジンに5発装填された凶悪な弾丸。
人間を撃てば真っ二つになってしまう、おそるべき凶弾。そして俺は撃った。弾丸に風魔法を乗せて。銃を剣に見立てて魔法剣を使ってみたのだ。
これからは銃剣術ならぬ魔法銃剣術とでも呼ぶか。アサルトライフルに銃剣でも装備すれば、近接戦闘までカバーできるぜ。必殺の凶弾は強烈なソニックブームを巻き起こし、周りの騎士がみんな転げていった。
銃口から放たれた弾丸はそこから弾速を初速の50倍くらいにして突進した。ただでさえ無法な威力の弾丸は最低でもマッハ30を越えただろう。
それは大陸間弾道弾の速度さえも楽に越える。奴の上半身は見事に消失し、血煙さえも残らない。弾丸は衝撃で砕け散ったか大気との摩擦で燃え尽きたのか、それとも魔法で保護された状態で大気圏を突破して大宇宙への旅に向かったか。
グッドジャーニー、マイビュレット~。
「くそったれ!」
俺は一言だけ言い放つと、まだすっころがって呆然としている騎士の胸倉を掴んで言った。
「デライン公爵のところに連れていけ。全部説明してもらうぞ。この国の王家は一体どんな悪さをしているんだ?」
それから騎士団と一緒に城までの九十九折の道を登り、俺とジーンは城の一角で待たされていた。
「ねえ、シャル。私達はどうなってしまうの?」
「落ち着けよ。さっきから丁寧な扱いだろう? 奴らにはそうしなくてはならない理由があるのだから」
すると突然、部屋に入ってきた人物がいた。何気ない格好をしているが、その高貴さは服装などでは隠し切れないな。
流れるような銀の髪、眉目秀麗な顔立ち。だが何よりも、その瞳に宿った不屈の炎。公爵の代わりにここに登場する人物など、はなからわかりきっている。
「はっはっは。たいしたタマだな」
ジーンも何かを感じたようで、少しドキっとしたようだが、俺は抱き寄せて軽くキスをすると言った。
「大丈夫だ、心配しなくていい」
「ヒューヒュー、この色男ー!」
俺は溜め息を吐くと、膝をつき恭順の意を示した。ジーンも慌てて俺に習う。
「お戯れが過ぎますね、国王陛下。私はデライン公爵を呼びつけたつもりだったのですが」
「あっはっはっは。いや、バレていたか。たかだか、一介の冒険者がこの聖アリオン王国の公爵を呼びつけるときたか。いや最高だな、お前」
ジーンがちょっとプルプル震えていた。
「もうっ! シャルったら何やっているのよ~。すみません、国王陛下、すみません」
だが国王ヴィルヘルム13世は悪びれるでもなく、笑顔を崩さなかった。
「これはまた可愛い子を連れているなあ。憎いよ、この色男」
俺は溜め息を吐くと立ち上がり、彼に向かって言った。
「俺は礼を尽くした。連れてきた怪物もきちんと始末した。説明はしていただけるんでしょうね?」
そうでなければ、王自ら出てくるはずがない。
「いや、君はもうかなりの事を知っているんじゃないのかね? だから弟を呼びつけた。私が出てきたからには説明はさせてもらうが、君の事も教えていただきたいものだな。もしかして君は異世界からの転生者か? 色々と報告は受けているよ。最初にバラクテスを倒した武器、あの車とかいう不思議な乗り物、そして今回の強力な武器。何か不思議な飲食物などもあるようだな」
全部バレていたのかよ。なんてこった。
やれやれだぜ。前例って奴があったらしいな。その割にはその痕跡が見当たらないのは、消されているのかな?
まあ、俺が消される事はないんだろうがな。俺はしがみついて不安そうにしているジーンの頬を撫でてやり、これ以上無く嬉しそうな様子の王様をうんざりした表情で眺めていた。
「あのバラクテスは、君も想像がついているように、我が王家に懲罰を下すために現れたのだ。その奴が我が弟を見つけたのだ。それはあいつも狂喜したことだろうよ。もう少しで弟が殺されてしまったところだった。君には感謝しているよ」
王は身支度を整えて、その執務室に俺達を招待してくれた。
「ヤバイのを知っていて、何故ダンジョンに彼を送った。あんな青瓢箪を」
「青瓢箪だからさ。あれも狙われておるのだからな。軟弱なままでは生き残れぬ」
「しかし、もうちょっと護衛とかを付けておいた方がいいのでは」
「以前はそうしておったのだがな。それだと、あれは甘えてしまって鍛錬にならなくてな。まあ、元々そういう事には不向きな性格だし、末っ子だったので両親も甘やかしてしまってな」
鍛錬って、あんた。冒険者を雇って、隅っこで座っていただけでしょ!
「あいつは、まっすぐに公爵を狙った。つまり血だな。王家はかつてダンジョンと何か、血の盟約を結んだ。そして裏切ったんだ。その盟約を一方的に反故にしたのだ! ダンジョンとは一体何だ。何故この国は聖王国なんて呼ばれているんだ!」
だが、国王は不思議な笑みを浮べていただけで答えてくれなかった。
「国家機密か。それならそれでいい。確かに俺はあなたが言う通り、異世界からの転生者だ。そこの知識から言えば、俺達、正確に言えば、この俺は奴らにマークされている。クローンといってな、あのバラクテスは元の原型から再現されているんだ。しかも、その前の殺された奴の経験とか記憶も持ち合わせてやがる。あんたらのせいだぜ。どうしてくれるんだ」
俺はちょっと国王を睨みつけた。もう言葉遣いが乱暴になるのを止められない。ジーンがハラハラしながら見守っているが、国王は気にした素振りもみせない。
「ほう。また、それは不思議な話だな。そうだな。じゃあ、こうしよう。あいつが出たら、君のところに行くのだろう? 殺しておいてくれたまえ。君には国家公認バラクテス・ハンターの資格を上げようじゃないか。1匹ごとに白金貨50枚上げよう。それでどうだい? 君が殺されずにいれば、バラクテスが現れる度に奴は君のところに行くから、その間うちは安泰だよ。あっはっは」
ぬう~。そういう了見かよ。でも、白金貨50枚は大きいな。しかし、ジーンが危ないと困るなあ。なんとか考えるか。
「じゃあ」
そう言って俺は手を出した。
「?」
国王は不思議そうな顔をしたが、俺は容赦しなかった。
「今回1匹片付けたんだから、白金貨50枚ください!」
「ははは。わかった、わかった。おい宰相、金をもってこい。私の部屋までだ」
「ははあ」
傍に控えていた宰相と言われた眼光の鋭い爺さんが、俺にその鋭利な光を向けつつ下がっていった。おっかない奴だな。あの爺さんは敵に回したくはないぜ。むろん、この国王も。




