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1-21 デート、それはカーチェイスなり

「ねえ、こんな風にデートだなんて久し振りね」

「ああ、ここのところバタバタしすぎていたしな。あの頃は丘の上のお花畑とか、森の小川とかそんなところが多かったなあ。ここは凄い都会だぜ」


 地球の町並みとは異なるし、あそこまでの雑踏は無いものの、ここは王都。大都会には違いない。何しろ、俺達の村なんて本当に田舎だ。


 宿屋も酒場も村に一軒。それ以上あっても共倒れになるのが関の山だから増えないし。増えないからサービスも向上しないという現実。お店も食品店がかろうじて2軒。服の仕立てと修理の店がかろうじて一軒あるだけだ。


 だが、我が村の名誉にかけて言っておこう。そんな物があるだけマシだ。近隣の小村など店など何も無いので『大都会』の我がオンサ村にやってくる。


 第一、ああいうのは村と言わずに『集落』と呼ぶのが正しい。一番小さな集落は5軒しか家が無い。そんな集落が周辺に50はあったんじゃないだろうか。


 うちの村はあの辺りでは唯一ギリギリ人口が4桁に足していたのだ。最も一家の人数が多いので、軒数にすればたいした事は無いのだ。よって、余分な食い扶持は成長したら家は出ていかねばならないというわけだ。大体は農家だものな。


 それらを合わせて2000人くらいの村人を、纏めて管理する代官が1人ポツンと村にいた。代官屋敷とは名ばかりの普通の民家にいた。近隣を治めている領主のバルトン男爵家に勤めているお爺さんだ。


 バルトン男爵はなかなかの傑物で、長年家に勤めた人がきつい仕事が務まらないような歳になると、こういう仕事を与えてあげたりする。領民からもかなり慕われている人物だ。


 俺も馬で巡回しているのを何回か見た事があるが、太っていなくて精悍な顔付きでいい男っぷりだった。俺達も一度お菓子をもらった事がある。子供心に凄く嬉しかったのを覚えているな。


 お祭の時には一気に人口が増える。たった一晩の出来事だけれども。その僅かな景気で少しは村の経済は潤うのだ。


 村から送り出される冒険者は成功すれば家族に仕送りも出来るので、何がしかは援助をしてくれる。ジーンのように、スタッフや収納袋を持たせてもらえる事もあるのだ。


 あれのおかげで命拾いした。あれを譲ってくれた冒険者さんには必ず御土産を買っていこう。あの収納袋にたっぷりと詰めて!


 医療は遅れており、教会の神父様の回復魔法が頼りだ。対価は現物が多かったので、ジーン達孤児も、食べ物や衣料には困った事がなかった。純然たる寄付もあったし。また助け合いという気持ちももちろんある。


 ジーンはそんな環境で過ごしたせいなのか、回復魔法が得意なので神父様も村の人達も村に残ってほしかったらしいが、彼女の決意は固かった。


 村を出る時に、俺達も補助金をもらえたので、なんとか無事に王都へ行けていいスタートダッシュが切れたのだ。冒険者ギルドにも、村に帰った引退した冒険者さん(Cランクだった!)の推薦状があったので、なんなく登録できた。


 そんな風に御世話になったので、『俺達はやったぜ~』という感じで、故郷に凱旋したい気持ちはあるのだ。王都に成功の礎を築いて、村から出てきた若者を暖かく迎えてやったりしてみたい。実際に、そんな大商会もあるのだ。


 あるいは村へ寄付をして村の暮らしをよくできる施策を補助金付きで提案してみようとか。俺達は、4人でいつもそんな夢のような話をしてきたが、俺のスキルなら夢ではないかもしれない。


「ふふ。村の事を考えているのね」

「あはは。わかっちゃう? ジーンには敵わないな」


 同じ所で生まれ育ち、同じ風景を見て育った。気持ちの通い合う相方。あの村でなくても、この都会でも気持ちは通う。そんな感慨に浸っていた、まさにその時。


 何かが遠くで響いた。遠くというか、そう遠くはないな。

「なんだあ?」

「何かしらね」


 何やら喧騒が激しい。そして、あっという間にそいつは俺達の前に参上した。

「バ、バラクテス~!」

「えーっ」


 俺達は大きく下がった。こいつは、逃げる奴には向かってこない。はずだったのだが。

「なんで、こっちに来るんだよー」


 俺は慌てたが、例の車を出した。強引にジーンを引っ張り込んで急発進して、屋台街をぶっ壊して突き抜ける。


「ジーン、支援!」

「スロウ、ファスト」

 そして不毛な追いかけっこが始まった。


「ねえ」

「何? 今、運転で忙しいんだけど」


「これは一体なあに?」

「自動車」


「自動車?」

「そう」


「これってきっと出しちゃいけないって言ってた物の一つだよね?」

「そんな事を言っている場合かよ、命あっての物種だあ!」


「だ、だよねー」

「ジーン。あいつ、まだついてきてる?」

「うん」


「ねえジーン、一個お願い」

「なあに」

「シートベルトつけてくれない?」

「シートベルト?」


「これ」

 俺は自分の物を摘まんで見せた。


「横の壁に収納されているから、引っ張れば出てくる。ああ、いきなり引っ張ると固まってしまうからゆっくりと引き出して。大丈夫だよ、少し待てば引き出せるようになるから」


「えーと、どうやって?」

 引っ張ったベルトを持ったジーンが途方に暮れていたので、ちょっと直線に入った隙に俺はそれを素早くはめ込んだ。ふう、ここですげえカーブ。間に合ったぜ。


「俺は思ったんだよ」

「何を?」


「こいつで君とこうやってドライブしたいってさ!」

「よかったね。叶ったよ、その願い」


「嬉しくもなんともあるかあ~」

「だ、だよねー」


「こういうのは、ドライブではなくカーチェイスというんだあ!」

 魔物と軽4のカーチェイス。なんだか締まらないぜ。周りの風景は、しっかりファンタジー世界だけどな。


 俺は強引なハンドル捌きで、またもや屋台の端を引っ掛けながら、無理矢理に切り抜けた。後で弁償が大変だぜ。このバラクテスは絶対に仕留める。お前の体で払ってもらおうか!


「どうするかな」

「どうしようか」


「実は決めてあるんだ」

「とても聞きたくない気がするわ」


 彼女は、その可愛らしい耳を塞ぎながら顔を顰める。可愛いなあ。その耳たぶを甘噛みしてみたい気分だぜ。


「このまま城に行く」

「え! それはマズくない?」


「この魔物、王家に執着するのは何か王家に原因があるんだ。向こうも承知の上のお話さ。だから尻拭いさせた俺達に白金貨50枚掴ませて証拠隠滅したんだ。だいぶ人死にも出ちゃったしなあ」


「あははははは。もう、何がなんだかわからない」

 ちょっとジーンが現実逃避しがちなんで、ハッキリと言っておく。


「あの騎士団の任務の一つは、このバラクテスを『抹殺し続ける事』なんだ。何故こうも突発的に沸いて城を目指すのか。これは絶対に王家が何かやらかしているのさ。このバラクテス、過去の戦闘記録も埋め込まれたクローン魔物だ。だから俺達を追ってくるんだ」


「ええっ、どういう事? クローンって何?」

「クローンについての説明は割愛する。あのバラクテスは王家を抹殺するためにダンジョンが作り出してるんだ。何故だかは知らん。俺達はそれを邪魔したから、今ポップアップしたあいつには俺の抹殺指令が組み込まれている。王家が怠慢であれの対策を怠っているから、今俺達が追われているんだよ!」 


 ジーンはちょっと混乱したようだが、すぐ頭を切り替えたようだ。この子のこういうところ大好きなんだぜ。


「えー、それでどうするの?」

「当然、責任の源に全て押し付ける所存だ。モンスタートレインしてやるのさ!」


「モンスタートレイン?」

「あの糞ッタレを、城の騎士団のところに連れていく事を言うのさ」


「そんな事したら怒られるよ~」

「望むところだぜ。それから城の人間に問いただす。だって俺達、あの馬鹿公爵の巻き添えで、あのバラクテスからこの先狙われっぱなしなんだぜー。割に合わない。どうりで白金貨50枚をポンと出すはずだ。俺達は半ば強制的にガーディアンに仕立て上げられたのかも。その原因を作ったのは現国王だ。俺達には説明を受ける権利はある!」


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