1-20 お隣さん
俺は装備購入のための資金調達として、市場に投入しても問題が無さそうな物品の調達に励んだ。とにかく暇があれば俺は『水と空気』の調達に励んでいた。
泉でも手に入れたりするが、もっぱら雲だ。雲を収納できたらなと思ったら出来てしまった。あまりそういう事を考える人はいないのか、俺だからできるのか良くわからない。
案外と、雲が一種の水や氷なのだと理解できていないのかもしれない。俺はとにかく収納袋に空気を詰めた。中に入れてある食い物が酸化して痛んでしまうのではないかと思っていたが、そうはならなかった。
魔法に詳しいレミーに聞いたら、収納袋という物は空間魔法を施してあるので時間が停止しているようなものだからそうはならないと。むしろ酸化って何? と聞かれてしまった。う、うまく説明できないな。
とにかくローテクで、人から不審に思われずに、それでいてなるべく価値のある物がいいのだ。条件として難しいんだけどな。
まず繊維関係。ここにも絹はある。そして、木綿。麻はあまり普及していないようだ。当然の事ながら化学繊維はアウトだ。せっかく水と空気から作れるのにな。
結局木綿を原料に織り方で差をつけた物や、品質で勝負だ。ゴムは多分マズイんだろうな。どこかにゴムの木が無いだろうか?
サテン生地なんかあればいいのだが、この世界のどこかにもうあるかもしれないな。
色々な物を召喚してみたが、どれもこれもあれだな。
いつか秘密を打ち明けてもいような信頼できる貴族なんかと知り合えたら試してみたいものはあるが。例えば万年筆。タイプライターなんか大発明だろうな。仕組みを調べて、この世界の文字で作れば凄いかもしれない。
実は俺はパソコンやプリンターを持っている。発電機もあるし。DVDも持っているので、そのうちにジーンと一緒に見てもいいな。
エロDVDとか出したら頭をはたかれそうだ。そんな秘密を共有できる貴族とか欲しいぜ。きっと大金を払ってくれるのに違いない。秘密クラブの出来上がりだ。
俺が唸っているとジーンがお茶を入れてくれた。カセットガスコンロやポットを買っておいたのだ。この世界にもいろんなお茶がある。ここでは一般に紅茶だ。つまり、どこかに緑茶があるっていう事だ。
「これ本当に便利ね」
「ガスは取り扱い要注意だけどな」
ジーンもまだガスの怖さを知らない。爆発や中毒の危険はある。でも絶対に便利だ。電気はおおっぴらには使えない。発電関係の設備は屋外でないと使えない。
太陽光発電はもとより、カセットガスの発電機も屋外専用だ。そのうちにプラグインハイブリッドカーを買いたいと思うが、あれはでかい。
ガスで沸かす発電と給湯器を兼ねた機械は大掛かりだ。安全な一軒家になってからしか電気は使えない。快適なエアコンの効いた部屋での、ジーンとの子作り! 絶対に実現してやるぜ。
冷蔵庫には冷えたビール。そうだ、コンドームも買っておかなくちゃ。いや、子作りは結婚してからだから、そんな無粋な物はいらないのか? そういえば避妊薬もあるんだった。
俺はなんだかたまらない気持ちになって、ジーンを背中から抱きしめた。
「なあに、シャル。我慢できなくなっちゃったの?」
「いーや、君をこうしていたいだけさ」
「そう。私もこうしていたいわ、シャル」
俺達がそんなムードたっぷりに過ごしていたら、突然に扉がバンっと開いて入ってきた奴がいた。
「はわわわわ。これは、これは。お邪魔しました~。どうぞ気にせずに続きをー!」
「待て、待て。お前は一体誰だ。何か用があってきたんじゃないのか」
「あ、私、ベリーヌと申します。今日引っ越してきたので、ご挨拶に伺ったのですが」
俺とジーンは顔を見合わせた。
「もしかして、また空き部屋か?」
「さあー? ギルドで紹介していただけましたので」
間違いなく、『また空き部屋になった』な。俺は少し溜め息を吐いて、その闖入者を観察してみた。
身長は普通くらいか。栗色の髪にややオレンジのかったような瞳。目鼻立ちは整っているがジーンとは異なる、どちらかといえば可愛らしいといった容貌。
ちょと古臭い感じのワンピース。大きなあまり御洒落でないボタンで前側を留めている。色合いもお婆ちゃんが着るような地味な暗色系だ。
中身が俺達と変わらないような歳なので、それはさほど年寄り臭くは見えないが、少し子供っぽい感じのする反面、その瞳の奥には理知的な光があるように感じる。色々相反する要素を散りばめた印象を受けるが、悪意のような物は感じられない。
まあ、問題のある人物ではなさそうだ。ちょっと粗忽者のような匂いは漂わせているが。
「今、何か失礼な事を考えていませんでしたか?」
「い、いや、別にそんな事はないよ。なあ、ジーン」
「ええ、そうね」
ジーンは笑いながら同意してくれた。
もう付き合い長いからな。大体、俺の考えている事なんかお見通しだ。あるいは彼女も、この人物に対して似たような印象を受けていたのかもしれない。
「俺はシャル、彼女は俺の恋人でジーン」
「私は今日からギルドに就職したベリーヌ・ランドーラです。よろしくお願いします」
「へえ、ギルドの職員さんだったのか。よろしくな、俺達は冒険者だ。ここにはうちのメンバーのアイカとレミーがいる。仲良くしてやってくれ」
「へえ、よろしくです~」
そして、彼女はまたドタドタと走り去った。突然やってきて、あっという間に去っていった。
「騒々しい奴だったなあ」
「でも悪い人じゃなさそうね」
「まあね」
いいムードなんか、どこかに吹っ飛んでしまったな。今日は休養日だ。昨日はきつかったからな。俺も、もう商品検討はやめにして、商品の研究に出かける事にした。
「ジーン、デートに行かないか? 街の商品を確認したい」
「いいわね。じゃあ着替えてくるわ」
そう言って彼女はカーテンの向こうに消えた。彼女の要望に従い、ネットで買ったものだ。当分、彼女の素敵な肢体を拝むチャンスは無さそうだ。
街で買った素敵なサマードレスで颯爽と歩くジーンと、俺もまた少し気取った感じのシャツとズボンに着替えた。ジーンズ出したいんだよな。あれ絶対に受けると思うんだよ。何より、俺が堂々と穿ける。ジーンなんて絶対に似合うと思うんだ。




