1-23 国王陛下の御用商人
「さて、異世界について何か話しておくれでないかい? 何しろ伝説でしか語られない物語でね」
国王は実に楽しそうな顔で話を始めた。俺達は豪華な国王のプライベートルームにいた。天井が高いぜ。俺の部屋と違って天井が抜けているわけではないが。
「その前に一つ聞かせてくれ。俺の前にも異世界からの転生者はいたわけだよな。そいつらは王国に何か齎さなかったのか? あまり痕跡が見当たらないんだ。それとも何か理由があって王国が隠しているのか?」
国王は何故か驚いた顔をしている。
「ふうん。そんな風に見えるのかい? いや何も隠してはいないが。きっと長い年月の間に風化して消え去ってしまったのだろうね。何千年もの間に」
国王は少し寂しげな表情をした。なんだよ、それは。気が遠くなってくるな。
「じゃあ、じゃあさ。もし俺が異世界の物品を提供できると言ったら買い取ってくれる?」
「なんだと!? そんな事ができるのか!?」
え、えらい食いつきようだ!
「あ、ああ。出来るんだけど、少し落ち着きなよ」
この王様ったら身を乗り出して、テーブルを引っくり返しそうな勢いだ。
「何が欲しい?」
「何があるのかね!」
「じゃあ飲み物や食い物と、便利道具、面白い物、王国に有意義な物とかだったら何がいい?」
「そんなものは、面白い物に決まっておろうが~!」
「やっぱりかー。言うと思ったよ」
案の定、即答だった。さてガラクタを売りつけて、どれだけむしろうかな。宰相が聞いたらまた嘆くんじゃないの?
ほどなくして宰相さんが金を持ってきたのだが、馬鹿国王が言った。
「今から商談をする。もっと金を持って来い」
宰相は俺を睨んでいたが、俺が蜂の字眉毛で肩を竦めてから国王の方を顎でしゃくったら諦めたようだった。国王が生まれた時からの付き合いなのだろう。性格は知り尽くしているのだ。
せめて俺が国にとり有益な事を願っているんだろうな。少なくとも、バラクテスの野郎は2匹片付けたんだから、その分は正当な報酬だ。
国王がわくわくして、こっちを見つめている。やりにくいな。はずすと後の商売に響くぜ。よし、このチョイスで!
俺が取り出したのは『ドローン』
只のラジコンの玩具だ。数千円の奴。さて、いくらの値がつくのでしょうか。
国王陛下様と来た日には、子供のように発狂して遊びまくった。代金は白金貨10枚くれたんだけど。狂っている。これ、もしかして国王様にとっては物凄く端金なの?
ジーンは頭が痛そうにしている。もう気にしたら負けだと思うんだ。俺はパーティメンバーの装備を極限まで強化しようと心に決めた。こうなった以上は何があってもおかしくはない。
面倒なので、ドローンは単3乾電池で動く奴だ。気が引けるので電池は思いっきりサービスして付けた。国王は次々と乾電池を入れ替えながら実に楽しそうにしている。
ぼったくりもいいところなのだが、向こうはそうは思っていないようだった。まあ値段は勝手に本人がつけてくれているんだがな。ジーンの呆れたような視線が痛いぜ。
「他に何かないのか!?」
早くも御代わりの催促がきた!
「えーと、何にしようかな。面白い物だよな。よし、カメラだ」
単3アルカリ電池で動く、しょぼいデジカメを提供してみた。
「ほほう! これは面白い。そら白金貨20枚だ。えーと、こうか? こうか?」
子供のようにはしゃぐ国王は、フラッシュの使い方と動画モードをマスターした。
このままだと帰れそうにないな。1回お暇したいんだが、ぼったくるのは今のうちなんだよな。消耗品なんかはあとでも買ってくれるから、せっかくだから今日は色々売りつけていくか。
だが、扉がバンっと開いてデライン公爵が飛び込んできた。
「兄上、話は聞きましたよ~。ズルイじゃないですか、彼と最初に知り合ったのは私の方なのに。何を買ったんですか、見せてくださいよ」
「わははは。駄目だ、駄目だ。お前も欲しければ彼から買えばいいではないか」
「うぬうー。シャル! 私にも何か面白い物を是非っ」
宰相さんは両手で顔を覆ってしまった。ああ、もう収拾はつかない。今夜は王宮にお泊りコースだな。
それから俺が買い上げてもらった物といえば。ラジコンカー。プラスチックレールの上を走る列車模型。もう諦めて発電機を拠出した。
燃料電池で駆動する発電機だ。延長コードのリールもつけておいた。宰相さんに説明して、安全には充分注意するように言っておいたが、心配だからまた見に来よう。
他には樽に刺さった海賊が飛ぶアレ。ホッピング。一輪車。スケボー。危ないのでヘルメット着用を義務付けたが、一国の国王だの公爵だのが広い部屋の中を玩具広げまくりだ。
艶やかな色彩のヘルメットを被り、一輪車やスケボーを乗り回していた。もう完璧に乗れているし。残念な事にデライン公爵は大きく遅れを取っている。
終いには、まだ少年の王子様が闖入してきた。
「父上、ズルイです。こんな面白い物を大人だけで遊んでいるなんて~」
王女様もやってきて、各種お人形や超可愛いヌイグルミなんかに夢中になっていたが、我が愛しのマイハニーまでもが虜になっていた。いや、君にはいくらでもプレゼントするからね?
王妃様と公爵夫人がやってきて、これがまた収拾がとれなくなった。こっちの需要も請け負ったので、都合受け取った金額は討伐報酬とは別で白金貨で300枚ほどになった。
ありえない。俺とジーンは眩暈がしてきたが、これで向こうはまったく困らないらしい。御飯も地球飯をみんなで試した。
かなり好評だった。王子様がカップ麺に夢中だ。作り方が不思議でしょうがないらしい。100均のクッキングタイマーにも大はしゃぎだ。
「シャル、今日はもう遅いから泊まっていきなさい」
王様はご機嫌通り越してハイになってしまっている。やれやれ、大丈夫なのか、この国は。
ジーンも公爵夫人に気に入られて、あれこれ着せ替え人形のように飾られている。着せ替え人形では飽き足らなくなって、リアル着せ替え遊びがしたくなったらしい。
この人は絶対に、この国のコスプレ文化の先駆けになる人だろう。王子や王女も、もれなく着せ替えられていた。
宰相はもう達観モードに入っているようだ。俺の傍に来ると、そっと耳打ちしていった。
「今日はお近づきの印という事で大盤振る舞いじゃ。だが、そのうちには元は取らせてもらうでの」
さすがだな。かえって安心できるぜ。浪費されてばかりじゃ、こっちが心配になる。
俺とジーンは案内してくれた侍女さんにお礼を言って、もうそのままの格好で布団に潜り込んだ。
この世界の時間は地球と同じらしい。俺の時計は午前2時半を指していた。
「おっと忘れ物」
俺はそう言って、お休みのキスをした。それからバッタリだ。




