1-14 お客様
やっとの事で休憩所に辿りついた俺達は、全員へたりこんだ。ここはギルドが設置してくれたものなので、比較的安全なものだ。
入り口を閉鎖する事も可能だ。ただし、閉鎖していいのは魔物が襲ってきた時だけだ。他の冒険者も来るからな。というわけで比較的ダメージの少ない俺が見張りに立っている。
「あー、もう駄目。あかんわ~」
「いやー、へばったぜー」
特に消耗の激しい2人は大の字になって息をついていた。ジーンも座り込んでいる。線の細いジーンが一番行軍は辛い。俺も彼女に配慮してやりたかったが、魔物達がそうはさせてくれなかった。
シーフと戦士がへばりまくりなので、俺がまず見張りに立ったというわけだ。クラウスが復活するまで俺は休めない。次の見張りがジーンなので、戦闘力が不足する。
まあ俺は比較的楽をしてきたけどね。クラウスがまず敵と戦い、俺が横合いから仕留めるのだ。雑魚ばかりなので俺は片付け仕事の感じで楽だが、いちいち敵を止めねばならないクラウスは回数が多いだけでかなり疲れてしまう。
「なあ、4人パーティじゃ厳しいな。やっぱり商売の方がよくない? 魔力の補充に来たり、魔石を取りに来たりとかはしたいんだけどな。ほら、俺達もそのうちにさ」
みんなもちょっと考える風だった。そう、俺達は各々今の組で結婚する予定なのだ。そうなったら子供だって生まれるだろう。俺はずっとそう思って来た。
最近は、すっかり記憶も定着して、自分の人生がシャルのものであったかのように感じている。総一郎としての記憶が本当に記憶だけのように感じたりするのだ。
やはり、俺はシャルなのだ。総一郎がどうして死んだのかさえ思い出せないが、今はシャルとして生きている。そしてジーンと一緒に生きていくつもりなのだ。
「それはあるんだよなあ。どの道いつかは引退せざるを得ないんだし。だが、金はしっかり稼いでおかないと、いきなり商売で稼げるのか?」
クラウスはひょいっと起き上がると、そう言った。こいつの言う事も、もっともな事なのだ。この前は、あんな事があったので望外に稼げて装備を更新できたから今は楽できているが、本来は程度のよくない装備のままで、今頃はまだ洞窟ゾーンにいる頃なのだ。この平原ゾーンの方が桁違いに稼げる。今の俺達にはまだきついけどな。
「ああ、それもあるし、ランクは上げておいたほうがいいと思う。この間からFランクのくせにって風当たりが強い事、強い事。それと何かあっても跳ね返せる力がほしい。最初のうちは自分達の力で厄介ごとは跳ね除けないといけないんだ」
「そうねー。力はつけないとねー。シーフと戦士がもう1人ずつ欲しい気分だわ」
やっと起き上がったジェンカも根を上げた。獲物を探すというより、攻撃に備えっぱなしの行軍なのだ。
シーフの負担が一番きついかもしれない。優秀なシーフであるジェンカだから、まだ務まっているのだ。俺達はまだまだひよっこで、こちらが狩られる側なのだ。
「他のパーティと組むってやり方もあるわよ。この平原地帯ならそれでもペイできるし」
思慮深いジーンはそう言ったが、俺は口を挟んだ。
「確かにそれも一つの手だが、組む相手にもよるな。俺達は割と安全マージンを取っているが、強引な討伐を主張する連中も多い。だから損耗も多いんだ。俺達だけなら、きついけれど比較的安全に仕事ができる」
「そうだよなあ。でも俺達はガキの頃から気心の知れた関係だが、なかなかそれに合わせてくれる人材は見つからないと思うぜ」
クラウスの言う通りだ。この問題は難しいな。ほどよいクランを見つけて転がり込むのも一案ではあるが、それでも俺達だけでやっているようなわけにはいかない。
商売を目指しているのなら、少々の危険を犯してでも稼ぎにいく連中とつるむのは考え物なのだ。素材とかが入用ならば、こちらが買い取る側に回るのも一つの手だ。
「まあ、とりあえずはEランクパーティを目指そうぜ。装備に頼るきらいはあるが、俺達全員充分にEランクの資格はあると思う」
俺とジェンカは、がんばればDランクに上がれる状態のはずだ。だが、スキルの性能だけでランクは上がらない。経験と安定した討伐の成績が必要なのだ。
通常は、すぐにポイポイとランクが上がったりはしない。地球の資格試験と一緒だ。だから早めに全員Eランクに上げておきたいのだ。
この新人4人パーティであれば、3人がEに上がれればEランクパーティと認められるだろう。常時平原で活動していられれば充分その資格があるのだ。逆に洞窟から抜け出せないと上がらないだろう。
Dランクとなれば指導力も問われる。パーティリーダーとしての責任を果たせるものでないといけないのだ。それには時に仲間を見捨てないといけないような非常の決断も含まれる。『パーティを全滅させない決断ができる事』、それがDランクの条件だ。
「そうだな。この前あの怪物を討伐できたから認めてくれるんじゃねえか? スキル的にいえば、ジェンカとシャルは軽くEだし、俺とジーンもEならいけると思うんだよな」
「決まりだな。帰ったらギルマスに申請してみようぜ。駄目だって言われたら試験でも受けてみるか」
通常、Eランクへの昇格試験を受ける奴なんかいない。Fランクなんて、ただの見習いだ。普通にやっていれば、ある日突然に上げてくれるもんだ。だが、俺達みたいに昨日今日始めたような新米がEランクにスパっと認められる事はない。
みんな、一息つけたようだな。そろそろ俺も休ませてもらうか。
だが、そこへ2人組の女の子が転がり込んできた。金髪と茶髪の可愛い子達だ。
「はあはあ、すいません。水をわけていただけませんか?」
俺は無言で紙コップにペットボトルの水を注いでやった。2人は差し出された水をゴクゴク飲んで息を吐いた。そして、金髪の子が明るいバイオレットの瞳を戦慄かせた。
「あ、ありがとう。いやあ、酷い目に遭いました」
「どうしたんだ? お前ら2人だけじゃあるまい」
「う、う。他のメンバーは全滅しちゃいました。いきなりCランクの魔物が出てきて」
少女は涙ながらに語った。
それを聞いて俺は眉を顰めた。この当たりはまだ初心者階層なのだ。通常は出てもDまでだが、それも滅多には出ないはずだ。大体は10階を越えるくらいでCに出会う。Cランクの冒険者がいないパーティはそこまではいかないのが通常だ。
「お前ら、ランクは?」
「Fランクです。兄達はEランクでした。私達を逃がすために犠牲になってくれたんです。他のみんなも同じ村の出身でした」
俺達全員、顔を見合わせた。思わず身につまされてしまった。この前の一件が頭を過ぎる。
「なあ、今日はもう引き返さねえ?」
クラウスはややげんなりとした表情で提案してきた。
「あ、ああ。俺もそう思った」
「あたじもー」
「私も」
女性陣も同意してくれたので、2人組にも言ってやった。
「俺達もう帰るから一緒に行こうぜ」
こいつらの兄貴とかはもう助けてやれないが、こいつらは連れて帰ってやろう。人数多いほうが楽に帰れそうだし。
「おい、これでも食え」
俺はエネルギーバーを剥いて渡してやり、女の子に尋ねた。
「なあ、ちなみにCランクってどんな奴だった?」
「それは全長5mほどで、とても硬かったです」
「硬質系の魔物か?」
「いえ、毛むくじゃらなのですが、それがとても硬くて剣が通らないのです。兄は大剣を使っていたのですが、跳ね返されてしまって。多分魔法を通して毛を強化しているのではないでしょうか」
「うわあ」
みんな、かなり嫌な顔をした。俺もだ。それはCタイプの中でもかなり性質のよくないタイプだった。この前のアレほどじゃないがな。多分、アレに次ぐくらいに性質がよくない。
「なあ。ちなみに7階層のどこで遭遇した?」
「その、割とすぐそこだったんです」
少女の片割れが不安そうにそちらを見た。
「マジか。おい、すぐ出発しようぜ。人数も増えたし、平原で陣を張ってもいい。ここは危険かもしれん」
みんな、俺の言葉を訊くまでも無く荷物を持って急いで立ち上がった。通常階層を越えて魔物が上がってくる事はないのだが、こいつは本来このあたりにいないはずのCランクだ。こっちに上がりこんでこない保障はない。
階層間が人間サイズの階段にでもなっているのは別だが、スロープがあるだけなのだから。平原地帯は何故かスロープも大きい。大きな魔物でも上がってこれるはずだ。洞窟層までの1kmを戻れば、まず安全は確保できる。
「おい、お前達も早く」
だが、一人の少女は恐怖をその瞳に浮べたまま起き上がれなかった。
「もう駄目、あいつが来た」
俺は思わず振り向いたが、そいつは一気に迫ってきた。Cランクの魔物は素早い。
高ランクの魔物は戦闘力が桁違いなので、飛行魔物を別にすれば、素早さ特化というのはあまりいないそうだが、Cランクにはとんでもない速さを持つ者がいる。
バラクテスほどではなくても、こいつも相当に速い。一瞬にして入り口を塞がれてしまった。
こ、こいつはヤバイ!




