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1-15 招かれざる客

「マジかよ!」

「クラウス、他のみんなを守れ!」


 クラウスは移動中には使わない、ミスリルを表面に張り巡らせた鉄の大盾を構えた。これでも回り込まれたらお終いだが、無いよりはマシだ。


 クラウスはミスリルの大剣を持ちつつ大盾を地面に押しつけつつ構えた。ジェンカはクラウスのミスリル長剣を手にして、自分のミスリル・ショートソードを女の子の1人に渡した。


「ショートソード使える?」

「は、はい。私が」


 泣きそうになった薄い青い目をした茶髪の子がけなげに構えた。上級の武器を渡してもらえたのだ。やらないなんて言えない。やらねば死ぬだけだ。金髪の子はスタッフを構える。


「気をつけてください。私は魔法を使えますが、そいつの毛は魔法を弾くんです」

「なんだと!」


 ま、マズイな。魔法剣が通じないかもしれない。そうなると、この図体の奴を相手に肉弾戦かよ! オリハルコンだけが頼りだ。本来ならクラウスと2人がかりだが、そうするとかなりの被害が想定される。


「火魔法は割と通りますが、それでもそいつが強力すぎてなかなか。素早いですし。私は氷魔法なので相性がよくないの」


 それはありがたい。秘密兵器が通用するかもしれないが、ここでは使えない。下へおびき寄せるか。


「クラウス、俺はこいつを7階へ連れていく。秘密兵器があるからそいつを使う。ここでは使えないんだ。その間に5階層まで撤退してくれ。魔法使いを含んだ頭数はある。お前らだけで行けるよな?」


「あ、ああ。それは大丈夫だが、お前は!?」

「大丈夫。クラウス、俺は総一郎でもあるんだぜ?」


「シャル!」

「心配するな。こいつには、俺達の昇格のための生贄になってもらおうぜ。ジーン、行く前におまえの支援魔法を頼む。それと魔法使い! こいつを外に追い出すのに魔法を食らわせてくれ。効かなくてもいい。きっかけを作ってくれるだけでいい」


 戦闘用の魔力は限りがあるからな。使える物はなんでも使うぜ!

「わかったわ。スロウ、ファスト、リジェネレート」


 ジーンもこんな時に、ぐだぐだ言ったりする子じゃない。相手の速度を落とし、俺の速度を上げて、持続回復の魔法を唱えてくれた。


 支援魔法が以前よりもかなり強くなっていてありがたい。あの杖はなかなかの物だぜ。ジーンには重ねがけの技術を習得させないといけないな。技術がないと、前の効果を打ち消してしまって無駄になる。


「ではいきます。アイスランス!」

 猛スピードで大型の氷の槍が10本ほど突き進んだ。


 これは! よし、こいつをうちのパーティに勧誘しよう。今回は相手が悪かっただけだ。能力だけならDランクでもおかしくない。ちゃんと仲間を置いて逃げのびる決断もできている。俺より優秀かもしれない。


 大きく弾かれて仰け反った奴を、俺は炎を纏わせたオリハルコンを突き出して追い散らす。苦手の炎を食らってそいつは後ろに大きく下がった。


「おい、今のうちに行け」

「シャル、無事でいてね」

 悲鳴に近いジーンの言葉を受け取って勇気百倍だぜ。


「シャル、5階層に上がったところの休憩所で待つ」

「あいよー!」


 そう言って、やつの足元に炎の魔法剣をジャブで繰り出していく。しばらく睨み合う体勢。ありがたいな、これで時間が稼げる。もっとも時間をかけ過ぎると支援が切れて俺がピンチになってしまうが。こいつをこの階層には置いておけない。脇を抜けられたらお終いだ。


 俺は奴の足元に火の魔法剣をぶち込んだ。時間回復もあるので魔力の出し惜しみはしない。こいつを足止めするのが最優先事項なのだ。それに「火」が弱点であるなら、魔法に頼らなくてもなんとかなるのだから。


「うがあああ」

 大猿にも似たそいつは吼えた。充分にヘイトを溜められた事だろう。


 もう、こいつは遠く離れて視界から姿を消したクラウス達を追ってはいかない。目の前の憎いこの俺を倒したいのだ。特に猿の魔物はしつこいらしいので、今日ばかりは助かる。頃合だな。


「はああー!」

 俺は気合を込めて、中魔法剣を何発も食らわせて怯ませると、脇を抜いて走った。


 ヤツは四つんばいになって追ってくる。図体があれだ。普通ならすぐ追いつかれてしまうが、支援効果は凄い。距離を保てている。だが、そのうち切れるだろう。支援は、この瞬間に一番欲しかったものだ。


 俺は長いスロープを駆け抜け、まるで三角跳びのようにスピードを殺さずにコーナーを駆け抜けた。俺にこんなにパワーあったんだなと妙に感心した。


 そして、平原で少しスロープから離れたところで、炎の剣で牽制しながら止まる。奴は俺の周りを横歩きに回り始めた。俺は剣を片手に構え、左手にある物を持って待ち構える。タイミングをミスったらお陀仏だ。来る!


 俺は避けるのではなくしゃがんで待ち構えた。俺に到達する寸前、それは絶妙なタイミングで成功した。落とし穴だ。


俺に到達する寸前に直径5mのでかい落とし穴を、『収納』により掘ったのだ。やれるとは思ったが冷や汗ものだった。早く無限収納の収納袋が欲しいぜ。


 だが、敵もさるものだった。いや猿だけどな。なんと落ちながら空中で体勢を立て直すと、伸ばした片手で淵に捕まりやがった。


 いかん、片手の力だけで飛び上がるぞ。俺は一瞬のうちに間合いを詰めて、莫大な魔力を込めた炎の剣でそいつの手首を叩っ斬った。


 その太さは実に40cmにも達した! オリハルコンの剣と俺のスキルでなければ一瞬には切り落とせなかっただろう。


 奴は悲鳴を上げながら、垂直に落ちていった。叫び声にドップラー効果がかかるほどに深く掘ってやったのだ。生きていたとしても片方の手首を切ってやったので、這い上がりにくいだろうな。


しばらくして鈍い音がしてお猿の列車の終点をお知らせした。だがまだ凄い唸り声を上げている。頑丈な野郎だ。しかし、それはかなり弱々しいものだった。


 このまま生き埋めにしてやってもいいのだが、ここはしっかりと仕留めておこう。俺は情け容赦なくある物を出した。それは20L入りのガソリン缶だ。


 1L容量のガソリン缶を買い、それを20Lの缶に詰め替えておいたものだ。それを20缶、つまりドラム缶2本分ほど剣で穴だらけにした上で穴の中に放り込んだ。


 そして、念のために大量のオキシドールと酸素缶をぶち込んでやった。俺は本当に魔物相手では慈悲の欠片もない男だ。


「あばよ、エテ公」

 そして、無情の炎の剣を暗黒の底目掛けて思いっきりぶち込んだ。


 そしてハッと気がついて回れ右をして駆け出した。次の瞬間、炎の柱が穴から吹き上げて壮大な眺めとなった。


 あたりを焼け焦がす噴出炎が眩い。危ない危ない。素材はもったいなかったが、さすがに無理だったしな。


 そして戻ろうとした俺の耳に、何かが聞こえたような気がした。軽く振り向いたが何も聞こえない。気のせいかと思ったが、頭の中で何かが俺に告げた。


 そして後ろに向き直って見たものは。真っ黒焦げの大猿が穴から這い上がってきた姿だった。再び大地に立ち、激しく燃えながらも魂をも凍らせるような咆哮をあげた。


「こいつ、本当はCランクプラスじゃあないの!?」

 だが、やはりこいつはCランクだ。Cランクプラスはもっと強い。


 そして俺はとっておきを食らわせた。思いっきり、それを風魔法剣の要領で投げつけてから今度は自分の足元を掘った。奴が入ってこれないサイズの穴を。そして轟く爆発音。地響きがここまで届いた。


 穴に落ちる寸前に俺は見た。奴がその燃える手で俺のプレゼントを確かに受け取ってくれたのを。そう、それは硝安だった。40kg入りの硝酸アンモニウムをくれてやったのだ。


 ネットで買った物に燃料油を少量混ぜた物を、40個ほど詰め合わせにしておいたものだ。物騒な物が売っているもんだぜ。テロリストも使っている奴だ。


 爆弾パックを風魔法剣に看做して高速で投げつけると、捻じ込んでおいた雷管用爆薬に向かって、刃の部分に火魔法の魔法剣を纏わせたナイフで風魔法を併用した投擲でぶち込んだ。


 魔法は目視で狙ったところへ命中する。でかい癇癪玉みたいなもんだな。取り扱い要注意の代物だ。良い子は絶対に真似しちゃいけないよ。


 おお、足がいてえ。まだリジェネレートが効いているので、しばらくすると痛みは引いた。俺は少しずつ収納袋から自分のいる穴に土を戻し、その加減で上に上がっていった。


 そーっと、本当にそーっと穴から顔を出してみた。奴は倒れていた。胸に巨大な大穴を開けて仰向けに。目は大きく見開いたまま、その光は失われていた。


 俺は剣を構え、そっとそいつに近寄ると収納袋に入れた。無事に収まった。つまり死んだという事だ。この袋は生きているものは収納できない。


「ふう~、手ごわかったなあ。Cランクでこれかよ。Bランクの魔物って、どれだけ強いんだろうなあ。やっぱり冒険者は早めに廃業しなくっちゃ。命がいくつあっても足りないぜ」


 早く戻らないとジーンに心配をかけてしまうが、疲れたし足は痛いし。俺はもう諦めて、ある物を出した。それは軽自動車の4WD車だった。


 しかも本格仕様のタイプだ。今回、鉄などの材料持込で、今やっと作れたのだ。材料が心配だったので、軽にしておいた。今度大きいのを作ってみよう。


 何故だかは知らないが魔物を倒すと魔力とかが上がるような気がする。あと1km以上も歩きたくない。ほんの15分か20分なんだけどね。


 俺は久し振りに運転する車に懐かしく思いながら平原を走らせた。もちろん、あたりは警戒している。魔物と間違えて攻撃されかねないからだ。今はシーフが一緒にいてくれていない。


 車だとあっという間に着いてしまった。時速40kmくらいだが、2分とかからなかった。俺は平原からの出口で車を降りると、みんなのいるところへ歩いていった。


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