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アタシの名は

見付からないまま朝日が昇った。

世界はどんどん明るくなっていくのに、アタシの心は暗く闇に包まれていく。

携帯電話を無くしたくらいでなんだと人は思うかもしれないが。

アタシにとっては友達との最後の繋がり。

番号を何処にもメモしていなかったからだ。

親兄弟爺婆は既に居ない。天涯孤独の身、寂しさを紛らす唯一の心の支え。

アタシはもう何の為に生きているのか分からない。

デジャブのアタシは睡眠を取っていたので朝探して見つからなかったから帰って来てからまた探そうと仕事に向かっていた。

冷静な判断だと思うが、今のアタシは徹夜で探していたせいで、マトモな思考が出来ていない。


絶望と言う悪魔がアタシの心に再び侵入して来ようとする。

そう言えば友達からの返信が来なくなった頃からデーモンなんとかと言う迷惑メールが着始めたような気がする。


デーモン=悪魔。

アタシは知らない内に悪魔に取り付かれていたのかもしれない。

昨年、唯一『あけおめ』メールを送ってくれた友達以外は全員デーモンなんとかと言うメールが直後に届いた。その友達もも四月の『誕生日おめでとう』メールを送信した直後にデーモンなんとかが届いた。

アタシに取り付いた悪魔が友達全員を掌握したのかもしれない。

まさかアタシが送ったメールに乗って悪魔が友達全員を殺したとか?

アタシが悪魔の手先となり友達を全員殺した?

アタシが友達を殺した?

もしそうであるなら、アタシは人殺しである。

友達が生きているのか死んでしまっているのか調べる術がない。

シュレーティンガーの猫である。

あれ?デシャブを感じる。

こんな残酷な話しを誰かとしたっけ?


アタシは乱れる思考をかき集めてパソコンで同じ目にあっている人が居ないか検索した。


それは簡単にHitした。

その瞬間衝撃を受けた。


『MAILER−DAEMON 殆どの場合は宛先名入力間違い』


アタシは携帯を無くす以前に友達を無くしていたようだ。


悪魔に取り付かれる前はメールはちゃんと届いていたはずだから入力間違いなどあり得ない。


アタシには友達が居ない事を理解した。否、理解させられた。

人との繋がりの無い世界で生きていくのは辛いことだ。


悪魔は本性を現した

「闇に身を預ければ楽になるぞ。日の本を独りで生きていくのは辛いだろう。闇は何もかも均しく包むものだ。何者も拒絶はしない。裏切る事もない。支配もない。闇に優劣等ないからだ。闇魔の世界は良いぞ、ただそこに均しく有るだけだから」


いつしかアタシはその場に座り込んでいた。

もう全てがどうでもよくなる。

心が重たい。もう何もする気にもならない。


アタシに取り付いた悪魔は、次の標的をアタシに定めたようだ。

闇魔という色の絵の具に心が塗りつぶされていく。

全てが塗りつぶされたらアタシは悪魔に魂を奪われるのだろうか。


それでも良い気がする。

だってたった一人で生きていくのは辛いから。

さようならアタシ。今度生まれ変わったら、友達をいっぱい作ろうね。そしていっぱい笑おうね。

あと少しで塗りつぶされそうとした時。


生まれ変わったら?


唐突に思い出した。今のアタシは元の世界のアタシでは無いことを。

その瞬間にこの世界で出逢った人達が脳裏に浮かんだ。

アランさん、ケニーさん、キャサリンさん、ジェニファーさん、

宿屋の親父、マリアンヌさん、エリーさん、ジェンターさん、カリンさん、

モーリスさん、ピエールさん、名前は知らないけど受付さん達、ダンさん、冒険者のみんな、アタシを指名してくれた砦の人達。

闇魔に染まった心のまだ白い部分に繋がる一本の紡がれた糸。


紡がれている糸の先を見ると、ほつれ広がり、みんな笑顔につながっている。

アタシが元の世界では出来なかった繋がり。

この世界で紡ぎあわせた人と人との繋がりの糸であった。


それは蜘蛛の糸のように細い、本当に細い糸。

簡単に切れてしまいそうに見える。

実際、紡ぐ事が出来なかった元の世界で繋げていた糸は簡単に切れてしまった。


でもこの世界で紡がれた糸は切れないでいてくれる。

まるでアタシを応援してくれているかのように。

そうだアタシは独りでは無い。

座り込んでしまっていた身体に力がこもる。アタシは立ち上がる事が出来た。

そして姿は見えないが心を塗り潰そうとしている悪魔に向かって語りかけた。

「アタシは、勇者でも英雄でもない、当然光の使者でもない。ただの蜘蛛女だ」

悪魔からの返事はない。

だが気にせず続ける。

思いは強く激しく高まっていく。


「闇魔の世界の反対だから光。そう光魔の世界でも闇魔の世界でもアタシには関係ないけど、

アタシの紡ぐ糸を切ろうとするなら戦う。

アタシの名は『糸紡真紀』己の細い糸を真に紡ぎ太い糸にして、幸せを繋ぐ糸になれと両親に命名された者だ!」


だからどうしたと言われたら何とも言い返せないのだが、高ぶった気持ちの想いを乗せてそのまま見えない悪魔にぶつけたつもりだ。


でも何も考えなくそんな恥ずかしい事をした訳ではない。

そもそも自分の心の中で戦うってどうすればいいのよ。

刃物なんざ振り回したら傷着くのはアタシだし、気を使う?アタシの心の中を更地にするつもりかっての。

だから月並みだけどアタシの意思をぶつけることにしたのよ。

悪魔や霊は昔から弱い心に取り付くものと相場が決まっている。

だから強い心を持って強い意思を相手にぶつけたの。

だから内容に意味は無くても良いはず。

ダメだったらまた別の事を考えよう。


その瞬間、心の世界が脈動しはじめた。

脈動に合わせて金切り音が聞こえてくる。まるで悪魔の悲鳴のようだ。

闇魔に染められていた心から何かがはがれ落ちていく。

はがれた何かは色を失い消えていく。

全てがはがれ落ちた時、アタシの心にあった重みが無くなった。

心が軽い。青空に浮かぶ雲のようだ。


良かった。うまくいったみたいだ。

アタシは心の闇との戦いに勝利したと確信した。



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