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心の闇

世界の王は少しためらった様であったが、見ただけで禍々しさを感じる黒いモヤを掌に浮かび上がらせる。


「これは儂がこの地に来て新たに獲得した力の一部だ、おのれの心の闇と戦い見事耐えきって見せろ」


黒いモヤはその色を濃くしていき野球ボール大の塊となった。禍々しく艶やかなボール。


それをアタシに投げつけた。


つい反射的に手で掴もうとしたが、それは音もなく手に吸い込まれていった。


あれっ、それだけ?


それだけであったので、これが世界の王の力に耐える事なのかと思い顔を上げた瞬間。

何かが身体の中で爆発した全身に痛みが走る。

アタシは苦痛にのたうち回っていたと思う。


痛みの中で世界の王が

「思わず勢いでやってしまったが。小娘の願いは何だったのか聞いてからにすれば良かったかもしれない。でもこれは……」

この試練は勢いなのか。今更そんな事を言わないで欲しい。あともう何を言っているのか分からない。

アタシは全身に走る痛みに耐えながら、そう言おうとするが声が出せない。

痛みは三回に分けて襲ってきた。初めの二回はすぐに引いたが三回目は強烈である。初めから三回目の強さで来ていたら一瞬の内に気を失っていただろう。

痛みに歯を食いしばって耐えていると脳裏に黒い閃光が走る。

それが次第に広がり閃光で脳裏が埋め尽くされた瞬間。


アタシは目が覚めた。


テレビがニュースを流す

「芸能人のKさんがAさんと殴りあいの喧嘩になりそうになったみたいです」

それを聞いて脱力してしまった。

この言い方だと、KさんとAさんは殴りあいどころか、喧嘩もしていないのじゃないかな。

「リアリティーを追求した僕達のドラマ見てください」

ああ、やっぱり番宣か。

日本って本当に平和だなぁ。

だってコボルトもゴブリンもオークも居ない、裸の変な生き物も居ない。

ってアタシってば何処と比べているのだ。

考えてみるが霞が掛かった感じでよく思い出せない。

夢?手元を見ると携帯がある。無くしてしまったはずの折り畳みの携帯だ。

あれ?なんで携帯があるのかな。でもそんな考えはすぐに消え、そして唐突に思い出した。

今日はアタシの誕生日だ。

社会人になって友達とは縁が遠くなってしまったがクリスマスと正月と今日だけは違う。


毎年『メリクリ』と『あけおめ』と『誕生日おめでとう』ってメールが届くからだ。

子供ではないしお互い仕事が忙しいから誕生日会を開くことは無いが恒例行事ではある。

とうぜんアタシからも『メリクリ』『あけおめ』『誕生日おめでとう』メールをしている。

この携帯は年に数日仕事をしてくれれば良い。それだけの為に維持しているのである。

その他の日?着信どころか迷惑メールも届いたことがないよ。

家電は怪しげな勧誘の電話ばかりだから滅多に出ない。留守番電話機能付きの電話機に買い換えたいところだけど高いから買う決心がつかない。

しかも役に立ったことなど数年無いのだから尚更である。


今日は日曜日、明日は仕事に行かなくちゃならないから早目に休みたいところだけど。

メールが来たらすぐに返信しなければいけないから。もう少し待とう。


壁に掛けてある時計を見る。長針と短針が天辺で重なりあっている。

楽しみに待っていた夢と希望が詰まった一日が弾けること無く霧散した。


まるで壊れてしまったかのように朝から静かな携帯電話。


実際は朝からどころではなく。

昨年の『あけおめ』メールが届いた以来アタシからの送信以外の履歴はない。

あ。送信した直後にデーモンなんとかってメールが届くけど。

それって迷惑メールだよね。


そんな携帯電話を見ていたら普段は感じないのに急速に高まる苛立ち。

鳴らない携帯電話なんていらない。

アタシは携帯電話を床に叩きつけそうになったがなんとか堪えた。

ざわつく心に苛まれながらも手縫いのクッション袋に入れて仕事の鞄に放り込んだ。

その瞬間鞄の中で何かが光ったような気がしたけどそんな事はよくあることだ。

その度に携帯を見直したりしたけど何の着信もなく、ただアタシの心を刷り削るだけであった。


でも今日は違う。


もしかしたら『おめでとう』メールが一日遅れで届いたのかもしれない。


アタシはたった今放り込んだ携帯電話を取り出そうとて鞄を開けた。


しかしなかった。


鞄の中身を全て出しても無い、鞄を引っくり返して揺さぶって叩いてみても手縫いのクッション袋ごと無い。

鞄に放り込んだつもりで実は跳ねて入っていなかったかもしれないと思い

鞄の周りの床も開けていないのに戸棚の中も探した。

だがまるで手品か何かの様に消え失せてしまっていた。

アタシは友達との繋がりを無くしてしまった。

ついさっきまで有ったと言うのに。アタシの心に闇という悪魔が襲いかかる。


デシャブ?

必須アイテムである携帯電話を無くす。こんな重要な物を無くすような事はしたことがないのに一度経験しているような気がする。

この時は一度寝て朝また探せばきっと見つかると思って寝てしまった覚えがある。

でも見つからなかった。


だから寝てはいけない、探せ、探せ、探し尽くせ。



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