アタシ死んじゃった?
アタシは魔王ことヨミと対峙している。
どうやらみつかってしまったようだ。
この段階になっても、どうやって逃げようかと考えられるところから、ヨミの目を見ただけでは魅了されないらしい。
魅了の能力があると思っているのは、あくまでアタシの妄想だけど。
「やっと対面できたと思ったらお前は僕の予想外の生物であったのだな」
そりゃそうさ怪人蜘蛛女なのだから。
でも見ただけで分かるなんてアタシよりも強力な鑑定スキル持ちなのかな。
「マントだけ飛ばしたり、閃光を放ったり、大きな水音を立てたり、意識を逸らさせてしている間に自身は逃走か。
だが同胞なら魔王からは逃げられないと知らなかった訳では無いよな」
そうだよね。生き残れるパターンは逃げるのではなく戦って、負けて瀕死の状況に陥って、奇跡的に助かるパターンしかないよね。
だから狙って逃げるなんて出来ない。
結局アタシもダメだった。
「色々と楽しませて貰ったお礼に、選択肢を与えよう。
恐れることはない、お前を拘束なんぞしない。同胞なのだからな。
ドラゴンを倒すときに協力してくれたり、たまに話し相手になってくれればそれで良い」
へぇ意外と条件は緩いんだね。
お友達として付き合うのなら良さそうだけど。
最終的に戦う相手がドラゴンはダメだ。魔王もダメだけど。
まったく歯向かえる気がしない。
「さぁ選びたまえ。僕と一緒に歩むか。それとも死か」
無罪放免は無いのですか?
選択肢を増やしてくれることを強く望む!
……ダメなのね。
アタシもまだ死にたくないし。ヨミさんの友達ってポジションにしてもらえないかな。
そう言おうとしたが、何故か声が出ない。
あれ?アタシどうしたのかしら。
ヨミさんから逃げるように身体が勝手に動く。
「そうか。久し振りに同胞に出会えて嬉しかったのだが、逃げる選択をしたお前は死を選ぶのか」
ええっ!?そんなアタシまだ死にたくないし。
どうなっているの?
「同胞のよしみだせめて苦痛が無いようにしてやろう」
ヨミさんの左手から巨大な火の玉が現れる。
その火の玉はアタシの身長より大きい。
あんなのが当たったら一瞬で消滅しちゃう。
巨大な火の玉に慌ててしまったのか、気が思うように集まらない。
これでは最速の一歩も踏み出せない。
「さらば同胞よ」
その言葉と共に、背後に巨大な火の玉が迫る。
ああ。アタシのこの世界での役割は、魔王の復活に出くわした強めの冒険者だったのね。
魔王の強さを際立たせる為の噛ませ犬の役割。
アタシの屍を越えて、真の主人公が魔王を倒すストーリーだったのだね。
サヨナラ異世界。
色々楽しかったよ。
この世界で出会ったみんな、個別にお礼を言っている時間はないからまとめて元気でね。
ありがとう!
そしてアタシの意識は途絶えた。
その後、この世界がどうなったのかアタシは知らない。
だってアタシは死んでしまったのだから。
ってあれ?思考が続いている?
アタシは真っ暗な場所で宙に浮いている。
右を見ても左を見ても上も下も真っ暗だ何も見えない。
アタシの姿も当然見えない。
もしかしてここでまさかの神様が現れて有りがちな土下座パターンに繋がるのか?
暫く待っていたが、何も現れない。
神様なら忙しいよね。
すぐに現れる事はないか。
空中に浮いたまま長い時間待った。多分一日は経過したと思う。
まぁ一日くらいはね。
更に待った。
途中で眠くなって寝てしまったりしたけど神様は現れない。
いい加減、お腹が空いてきたぞ。
あれ?魂って何か食べるのかしら?
喉も乾いてきたし。
腰も痛くなってきたし。
思わず腰をトントンと叩いていたら何かに触れた。
久し振りに触れた物を確める為に掴んでみた。
これは糸?
なんで糸があるの?
あっ!すべての事が繋がった。
ここはアタシが作った縦穴の中だ。
と言うことはアレは等身大アタシ人形が体験したことだったのね。
心を接続していたから、アタシが眠っている間は夢として見ることが出来たのか。
『自立行動』だけではアタシの『逃げる』と言う意志が伝わらないと思って『心接続』と書いていたのだが、なるほど納得である。
でもあまりにも死がリアルすぎる。
本当に死んだような気がしたもの。
場合によってはショックで心臓が止まり死んでしまいかねない。
これは封印だよね。
アタシは糸をたどり、天井に張り付いた。
ハリボテを動かそうとしたがベタベタ糸が張り付いた後、しっかり硬化したようでびくともしない。
アタシは糸を出して張り巡らせる。
これで足場が出来た。
ここが運命の分岐点となるのは確実だ。
魔王がまだ近くに居る可能性がある。
そんな時に魔法でも使おうなら、すぐに見つかり等身大アタシ人形と同じ運命をたどるしかないだろう。
アタシの体内時計が正確なら間違いなく三日は経っている。
等身大アタシ人形がアタシ自身では無いとばれていなければ、流石にもう居ないだろう。
でもバレていたならば、三日と言うのは微妙だ居るか居ないか分からない場所に三日程度なら居られる。でもそれで断念する筈だ。
そして居ると確信しているのなら、もっと早い段階でこのクレーターごと吹き飛ばしてしまえばいいのだから。
アタシは潜伏スキルを解除しないでもう一日待つことにした。
待つ間は、魔王を考察したり、同じ轍を踏まないように逃げる手段を考えたりしていたので退屈はしなかった。
そしてアタシの体内時計を信じて翌日の昼頃に穴から出た。




