失敗は簡単に生死に関わる
今、黒い獣と対峙している。
アタシは黒い獣を食う気はないが、黒い獣はアタシを食う気まんまんである。
そりゃぁ『にゃ』とか言われれば、興味だって沸くよね。たから助けたけどさ。
黒い獣ことミーヤよ。
ドウシテ コウナッタ?
何の王様か知らないが黒豹人のミーヤを置いて森の中を進んでいると。
探知出きる範囲に、ミーヤの反応が感じられる。
どうやら尾行されているようだ。
たぶんミーヤは気づかれていないと思っているだろうが、どんなに森が深かろうがアタシには丸見えである。
野生の豹の生態は詳しくないが、それなりにテリトリーは広いだろう事は想像できる。
同じ場所で狩りを続ければすぐに食べ尽くしてしまうだろうからだ。
それでもテリトリーは決まっているに違いないから、そこから出てしまえば勝手に諦めると思い歩みを進めていた。
だが昼過ぎから暗くなるまで歩き続けたが、まだ着いてくる。
アタシは気づかない振りをしながら、そのまま夜営の準備に取り掛かった。
本当は夜目が利くので、夜間も危なげなく歩く事は出きるのであるが、それを始めると体力の限界まで歩いてしまいそうなので、暗くなったら休むことにしている。
夕飯は血抜き済みのウサギ肉である。ミーヤみたいに生で丸かじりはしたくないので、塩コショウを振り掛けてしっかり焼いて食べた。
夜営の準備をしはじめてから、今までミーヤの位置は動いていない。
ここまでの行動でミーヤも何かしらのレーダーを持っている事が分かる。
アタシはミーヤの位置が変わらないこと確認してから、蜘蛛糸警報装置を設置して眠ることにした。
数時間後、アタシは目を覚ました。
またしても朝ではなく、蜘蛛糸警報装置に反応があった為だ。
目覚めた瞬間に感じた気配に大きく飛び下がった。
そして身構えると、そこにミーヤがいた。
ミーヤは飛び起きたアタシに驚いていたが、身構えるアタシを見て慌てて寝ころがって腹を見せた。
どうやら戦う意思は無いらしい。
「アタシの事は詮索しないと言う約束のはずだが、何故着いてくる。理由によっては食うぞ」
生き物の世界は食うか食われるか弱肉強食の世界である。同族ならまだしも他族に嘗められたら食われるだけだ。
嘗められないように出来る限り強気に行かなければならない。
暫く腹を見せていたミーヤであったが、威嚇したアタシに吊られたのか唐突に立ち上がり、ガーネットの様な緑の瞳を輝かせて不適な笑みを浮かべた。
あれ?アタシ失敗した?
「いくら命の恩人であろうと。我は王である。戦いの意思を見せられたら、応じなければなるまい」
あれ?『ウチ』とか『にゃ』はどこにいった?
もしかして頭に血が登ると口調が変わるタイプなのか。
筋骨隆々のミーヤって、どう見てもタイマン上等ってタイプだよな、不意討ち闇討ちタイプのアタシにとって正面から戦うには一番苦手なタイプだ。
自業自得だが、この期に及んでも食うか食われるかの戦いは避けたい、そう思いアタシが口を開きかけた時に「行くぞ」とミーヤは言って突っ込んできた。
ちょっと待ってって、うわっ速い。
距離なぞ関係無いとばかりに一歩でアタシの目の前に来ていた。
慌てて左に飛ぶと今アタシがいた場所をミーヤの右拳が空を切った。
ミーヤは本気のようだ。
どうやらアタシの一言は王の尊厳を傷付けたようである。
ミーヤの目は左に飛んだアタシを追従してきている。
この程度の速度では不意討ちは出来ない事を理解した。
だからと言って森の中では障害物が多すぎて最速の一歩は踏み出せない。
「今の一撃を避けるか。戦いの殆んどがこれで終わると言うのに。久し振りに手応えのありそうな相手に出逢えて嬉しいぞ。次は避けられるかな」
本気モードのミーヤは戦闘狂のようだ。
しかも今の速さは手加減しているっぽい。
なんて考えていられない。
アタシは逃げの一手である。
先程とは違い大振りを抑えての連撃がいくら逃げても追い掛けてくる。
「どうした。逃げてばかりでは我を食うことなぞ出来ないぞ」
そもそも食うきなんかないし。
そんな事を言われても、ミーヤにとってはスピード重視の威力を押さえた攻撃かもしれないが。
そんなものでも当たったら堪ったものじゃない。
間違いなく吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされる?
吹っ飛ばされれば距離がとれるじゃないか。
いつまでも相手の土俵に上がっているから、逃げ回る事しか出来ないのだからね。
このままでは勝ちが見えない。アタシは逃げ回ることを止めることにした。
生死を賭けた勝負はしたくないが、きっと上手く行く、そう信じる心が一番大事なのだから。




