「にゃ」と言う生き物
目が覚めた。
今度は普通に朝が来たのでいつもの目覚めである。
目覚めたら何かあるなんて、何処の漫画の主人公ですか。
普通に生活しているのだから何もない朝を迎えるのは当然である。
目覚めの良い朝に、見直し作業をしていると、朝御飯だと呼ばれた。
美味しい朝御飯は一日の元気。しっかり食べて頑張るぞ。
だなんて気合いを入れていたのが悪かったのか、朝御飯が食べられなかった。
今は火急の呼び出しを受けて冒険者ギルドに居る。
ギルドはアタシがジェンターさんの家の場所を聞いた時から探していたらしい。
マクドの街、冒険者ギルド ウィスター支店長は「なんでギルドに来ないんだ」と開口一番に偉そうに怒鳴りつけてきた。
支店長だから偉いのは分かるが、何をそんなに怒っているのだろう。
怒りすぎると血圧が上がりますよとでも言いたいところだが。
通じないだろうし火に油を注ぎかねない。
黙って何事があったのか話しを聞く。
聞かされた内容は、アタシにはどうでもいい事であった。
さる貴族様がアタシの事を調べているそうだ。
さる貴族様とは、誰だか聞いたが、秘密だそうだ。
それでアタシに情報を開示しろと。
高圧的な態度に腹が立ったが、ちゃんと答えましたよ。
自分がギルドに開示している情報はね。
昨日はキルギス君に尋問タイムとかやっていたのに、逆にアタシが尋問タイムされているのは、因果応報ってやつかしら。
そんな思いもあって応じてはいたが「他には無いのか」と質問の意図が分からない内容でしつこく聞いてくるウィスター支店長が煩わしくなり、
「逆にこれ以上、何を聞きたいのですか。具体的に聞いてください」
とキレ気味に言い返してしまった。
これには横でメモを取っている店員さんが驚いていたが、気にしてなんかいられない。
さぁどうなんだとウィスター支店長に詰め寄った。
ウィスター支店長の口から発せられた言葉は、もういい加減に勘弁して欲しいと言う言葉だった。
アタシは書記をしている罪のない店員さんには同情するが、二人にトラウマを植え付けてあげた。
ブラン砦の支店長のように『タローです』と。
こんな意味の無いことで朝御飯を抜きにされたのだから当然の報いである。
アタシは冒険者ギルドを後にした。
まったく無意味な出来事だったかと言うとそうでもなくて、その中で重要な情報を得ることが出来た。
アタシの『タローです』攻撃に根を上げ始めた支店長が「売り込む機会があるのに」と漏らしていたのを耳に出来たからだ。
これはアタシを調べている何者かが、この街に居る事を示しているのではないのか。
そうで無いとしても、少なくとも近い内に関係者が現れることは確実だろう。
この街に居るのも潮時かな。
ギルドから真っ直ぐ雑貨屋に戻り、カリンさんに急用が出来たからと、街を出ることを伝えた。
カリンさんは残念そうな顔をしていたが
「師匠に教えて貰ったことを生かして道具作りに役立てます。ありがとうございました」と神妙に言ってきた。
そんな改まって言われると、図柄を修正しただけなのだから照れると言うか恥ずかしい気持ちになる。
そんな事しかしていないアタシを師匠と言うなら、師匠らしくしようじゃないか。
アタシは宿題と称して袋二つと発動の魔道具を見せてから実演して見せた。
袋から袋に物が移る事にカリンさんは驚いていたが説明している余裕がないと偉そうに言って昨夜書いた紙を一緒に渡した。
「今後も魔道具作りに精進して欲しい」と格好良く決めた積もりで雑貨屋を後にした。
そこまで急ぐ必要は無いと思うけど、遅いよりはましだろうと勢いでマクドの街からさっさと出ることにした。
街を出てそのまま森に入ろうとした時に、ブラン砦の方からくる集団が見えたような気がしたが、見なかった事にして森に入った。
暫く森の中を進んだ後、少し広いところに出たので休憩がてら荷物の整理をすることにした。
すぐに使うことが無い荷物はひとまとめにして『影』の中にしまったので岩山の洞窟を出るときよりも身軽になった。
カリンさんありがとうごさいます。あんな収納袋モドキの魔道具では対価にならないかも知れないけど、影魔法の存在を教えてくれた事に感謝します。
直接言えないのが申し訳ないけど、感謝しています。
マクドの街の方角に頭を下げてから旅を再開した。
森の中は平穏そのままである。
あくまでアタシにとっては平穏なだけなんだけど。
一撃必殺の武器を持つ巨大昆虫が草木に潜み擬態して待ち伏せしている。
気が付かずに前を通れば、たちまち襲われる。
見ただけでは分かりづらいので、対応は後手にならざるを得ない。
従って冒険者は通常前衛に重装備をさせて森に入る。先制を受けることは大前提で後手の対応になるが、待ち伏せ系の生き物は初撃をどうにかすればあとはどうとでもなるからだ。
それでも厄介なのは、蚊やヒルなどの生き物。
こちらは虫除けの薬草を身体に塗るしかないが血に飢えている奴は関係なく寄ってくるので鬱陶しい。
でもアタシには関係無い。
道なき道を突き進む、待ち伏せしている生き物が居れば迂回するし。
常時身体中を気で張り巡らしているので目の前を飛ばれると鬱陶しい事には変わりはないが、刺されたりしないからだ。
ほんとアタシの能力って森に対応している。
そんな森を歩いていたら、中型の動物?それとも人間?の反応を感じた。
以前見かけたラットマンが脳裏をかすめたが、違う生き物のような気がする。
アタシは反応の風下に回り込み慎重に近寄った。
だが反応の生き物の姿が見えない。
不思議に思いながら地面に両手を付いて詳細に調べると。
近くに居ることは確かだがその場所には何もいない。
まさか透明な生き物なのか?
あれ?穴がある。
と言うことはもしかして大型のもぐらなのか。
見てみたい気持ちもあるが、わざわざ相手の土俵に上がるなんて馬鹿らしい。
興味を失い、そのまま立ち去ろうとしたら、声を掛けられた。
「そこに誰か居るのかにゃ。ウチの言っていることが分かるのにゃら、返事をして欲しいにゃ」
『にゃ』だと。
古今東西、何故かファンタジーの世界では共通項になっている語尾に『にゃ』と付く生物はアレしかいない。
この世界に来てから、ここに至るまでそんな生き物の存在する兆候さえなかったと言うのに。
現れてしまうのか。ほんとうに。
俄然興味が沸いてきた。
興味を抑えてアタシは「姿が見えない誰かさん。どうしましたか」と応えてみた。
反応は劇的で聞いてもいないことを捲し立ててきた。
穴の中に居る生き物は、ミーヤと名乗り三日前にもぐらを追いかけていた時に、勢い余って穴に突っ込んでしまったと。
そしてもぐらの穴は落ちたところで、すぐに横穴になるはずなのに、この穴は縦穴が長くて登れなくなったと言うことだ。
「お願いにゃ、助けて欲しいにゃ」と繰り返す生き物に条件を付けて引き上げることを約束した。
頭の中での妄想では、ミケかなクロかなシロかなトラかなサバかなと、いっぱいなマッキーであった。




