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まさかの夜這い?

目が覚めた。


朝が来た訳では無い、眠りについて一時間程であろうか。


蜘蛛糸警報装置が何かに反応したようだ。


アタシは慎重に床に降りて振動感知を行う。


どうやら、扉の前に人が居るようだ。


この振動は知っている。


息子夫婦には三人の孫が居る。

長男は十八歳、物作りをするおじいさんを見て育ったからか鍛治屋で泊まり込みの修行中。

長女は十六歳、カリンさんの血なのか魔力が高い事で王都の学院に勉強に行っている。

その為、アタシは二人には会ったことがない。


そして今扉の向こうに居るのは

この世界ではギリギリ子供である十四歳の次男である。


元の世界では中学生程なので勉学に励んで欲しいところだが、毎日店の手伝いをしている。

性格的には、あまり自己主張しない少し引っ込み思案かな。名前はキルギスと言う。


そんなキルギスがドアノブに触れた振動を感知してアタシが目覚めたみたいだ。


この家の子供と言うこともあり、何か伝言とか用事がある可能性もある。


取り合えず蜘蛛糸警報装置を撤去して、扉の封印も解いた。


自分の服装は包帯水着ではなく作業着である。


身だしなみを整えて「何かごようですか?」と声を掛ける。


扉の向こうで息を飲む気配を感じた。


暫く待ったが、反応が無い。だからと言って立ち去った訳ではないのは、振動感知で分かっている。



アタシには、屈辱的な過去がある、そのせいで子供ではいられなくなったのだ。


この世界の男も女もみな体格が良い。

アタシの力ではまったく敵わないのである。捕まったら殆んど抵抗できない。


さすがに殺す気で抵抗すればどうにでもなるけど知り合いだったらそうもいかない。


だが今はあの時とは装備が違う。


あんな辛い思いは二度としたくない。



アタシは内鍵を解除して扉を開く。


キルギス君は扉に体重を掛けていたのか、扉という支えがなくなった為にバランスを崩したようで、アタシに抱き着くように倒れてきた。


その瞬間。アタシはあの魔道具を発動させた。


迫るキルギス君はアタシより頭一つ背が高い。

その両手がアタシの肩を捕らえようとした瞬間。



空を切った。



別にアタシが避けた訳ではない。

キルギス君がつかみ損ねただけである。


そしてそのまま床に顔面を打ち付けていた。


痛そうだが、女が一人で居る部屋を覗こうとしている時点でアウトだ容赦するまい。


アタシは魔道具を止めてから、痛がって手で顔を押さえているキルギス君の腕を縛る。


腕を縛った時に一瞬身動きを止めたので足も縛る。


ここで一息つく。


アタシの受けた屈辱とは、アランさん達『青い閃光』のみんなに代わる代わる高い高いをされたことだ。


アランさんやケニーさんならともかく、キャサリンさんやジェニファーさんにまで軽々とされてしまった。


あんなことで喜ぶのは子供だけだ、大人のアタシには耐えられない。


脱子供を計るために高い高いをされない方法を思い付いた。


それは小さなソリを作った『滑』の魔道具である。


あれを両腕に仕込み発動させることによって、ウナギのように滑る身体になれるのだ。


これでアタシを捕まえることは難しくなっただろう。


アタシは二度と誰にも高い高いはさせない=もう子供ではいられないのである。




と、それはさておき。


キルギス君である。


顔面を強打して痛がっていたが、縛られたことに動揺しているようで身動き一つしない。


アタシは部屋に置かれた椅子を持ってきて目の前に座る。


家族とは違う女の色香に惑わされた罪深き哀れな子羊よ、懺悔しなさい。


さぁ尋問タイムである。




いきなりだけど訂正。


キルギス君は、もて余す欲情をぶつける為にアタシに夜這いを仕掛けてきた訳ではなかった。


どうせアタシのボディーは出るとこも引っ込んでいるとこも無いお子様ボディーですよ。


話しを聞きながらも内心はイジけている。


要は、いつまで家に居るんださっさと出て行けって言いに来たらしい。


どうやらキルギス君はおばあちゃんっ子のようで、日中二人で仲良く何かをしているのが許せなかったと。


開口一番に「僕のおばあちゃんを盗るな」と、この一言を聞いてアタシは包帯を解いてあげた。


まぁ後は良くある話で、小さい頃から両親は雑貨屋にいて、兄はおじいちゃんと何かをつくっていて相手にしてくれない。

姉はおばあちゃんと魔術の練習。それでも一緒に遊んでくれていたから文句はなかった。

その姉が学院に行き、大好きなおばあちゃんを独り占めしていた所にアタシが現れて、朝から晩まで何かしている。

その間、まったく構って貰えない。

旅人だし二、三日で居なくなるならと思っていたら、五日経ってもまだ居るし、とうとう我慢の限界に来たと。


だから文句を言おうと部屋の前まできて、ドアノブを掴んだ所で今が夜だと気がつき声を掛ける事を躊躇していたら、

逆に声を掛けられて動揺している間に、ドアが開いてあの通りの顛末だとさ。



収納袋モドキのこともあるので最長二日で、この家から出ることをキルギス君に約束した。


それまで年下の女に包帯で捕縛された事を根に持って不貞腐れながら話しをしていたキルギス君は、それを聞いて機嫌が直ったらしく。


とたんに元気になった。


そして「約束だからな!」と言い残して部屋から出ていった。


アタシは身体が大きくとも子供なんだなと思いながら、扉を締めて休むことにした。




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