師匠と弟子
翌日、なぜかアタシは雑貨屋にいた。
なぜって程でもないが「夕飯を食べてから行け」と始まり「今から宿を取るのは大変だろうから泊まっていきなさい」と。
まるで計画的犯罪が起こるような流れであったが、特に殺人事件は起こらずに朝を迎えた。
昨夜は、カリンさんの自慢の魔道具を見せてもらっていた。
お気に入りは風の魔道具で、いわゆる扇風機である。
室内を緩く循環する風は、確かに気持ちが良い。
コントロールが難しいを逆手にとり。
ランダムに流れる風がファジーな感じになっていると言う元の世界でも便利に使われそうな魔道具である。
そんな魔道具であるが、どれもこれも字が歪んでいた。
ブラン砦の魔道具屋さんと同じである。
歪んでいるとは、文字のバランスが悪くて、まるで元の世界の小学生の低学年が頑張って書いたような字なのである。
その事を疑問に思って聞いてみると、王都の学院でしっかり学んだ図柄だと言う。
図柄も書き順があり、間違えると魔道具とはならなくなるし、読みや意味が分からないと同様に魔道具にならないと言うことであった。
それを聞いてアタシは仮説をたててみた。
この魔術の祖はアタシの様に元の世界から来た異邦人なのではないのかと。
それが普通の小学生の低学年だったとしたら難しい文字を知らないだろうし、確か「氷」は三年生になってから覚えるはずだ。
だから可能性としたら三年生未満かもしれないが『火』の魔道具の様に『飛』と言う画数の多い難しい文字も混ざっているから絶対とは言えないけど。
そもそも家庭によっては、小学生になる前に漢字を全て覚えさせたりしていることもあるから、ほんとうに当てにならないや。
魔道具屋で買った『水』の魔道具とアタシの作った魔道具では水の出る量がまったく違う。
描画の違いによって効果に差があるのなら字体によっても違いがあるのかもしれない。
あれこれ考えているアタシを見て「マッキーさんは旅の途中でしたね。ずいぶん疲れた顔をしているわね。おばあさんの話しに付き合わせて、ごめんなさいね」
と、休むことを促された。
言葉に甘えて客室に案内してもらうことにした。
客室の扉には中鍵が着いていたけど念のため、蜘蛛糸で開けられない様に細工した。
アタシは初めて得た魔石だからと売らずにいた爪先程度のゴブリンの魔石に力の言葉を書いた。
結果、店売り品を一とすれば。
毛筆体 四
丸文字 四
明朝体 二.五
ゴシック体 二.五
その他書体 二.五
アタシの自筆 二
図柄修正 一.五
図柄そのまま 一
達筆? 発動せず
結果に頭を抱えた。
毛筆体は力強い文字だから出力が上がったと理解しよう。
だが同じ出力が出るのが丸文字だと。
元の世界でアタシの産まれた頃に流行っていた丸文字の何がこの世界の魔術の琴線に触れたのだろう。
それにだ。アタシの字も汚いと言うことが分かったよ。悲しいね。こんなことで指摘されるなんて。
アタシは明日の為に、紙にメモをとっておいた。
そこまでやってから、蜘蛛糸警報装置の上で眠り、先程起きたところである。
カリンさん達と朝御飯を食べて、昨日の続きをお願いした。
魔術の図柄は魔道具を作る魔術師の財産である。
おそるおそる、歪んでいることを指摘してアタシは図柄修正文字で書いた『水』の魔道具を見せた。
ちなみに『氷』の魔道具の登録した図柄はアタシの自筆文字である。
そこから解析されれば、他の図柄も効果があがるはずだから、見せても問題ないだろう。
魔道具の文字を見たカリンさんは「バランスが少し変だね。発動するかしらね」と疑問視していた。
アタシからすれば逆なのだが、長年使っていた図柄だけに疑問が残るのだろう。
カリンさんにもゴブリンの魔石に『水』を描画してもらい、コップを二つ準備して発動してもらった。
結果は昨夜の実験通りアタシの魔石の方が五割増し多く水を出した。
この事にカリンさんは愕然としていた。
その後フォローとして、合成魔石を使えば差は無いに等しいからあまり意味がないと伝えると、納得はしてくれた。
水は必要な量だけ出せれは良いのだからね。
その後、魔道具を作る魔術師としての血が騒いだのだろう、カリンさんは高齢とは思えないくらいに熱心にアタシの図柄に関する解説を聞いてきた。
と言っても、バランスの取り方だけである。
『><』に『|』を引いただけ程度で『水』と読ませるのがそもそも間違いである。
カリンさんは何度も紙に書き、その度にアタシに確認する。
修正文字での矯正は出来たが、アタシの話しを聞いて、もっと上があることに気がついたらしく。
色々な『水』を描いてきた。その攻勢にアタシが根負けしてしまい。結局アタシの自筆文字を披露してしまった。
習字の練習法に『永』という漢字を書き続ける物がある。
これは『永字八法』と呼ばれていて字を書くときに必要となる八つの技法が含まれている文字だからだ。
習字初心者は『水』から文字のバランスを覚えたりすることもある。
そんなアタシの書いた『水』の字を見て、まるで芸術品みたいだと。
誉めてくれるのは嬉しいけど、アタシの書いた字は魔術からすると汚文字であると評価されているのだ。ただむなしいだけである。
それからカリンさんはアタシの事を師匠と呼び始めた。
十二歳の−−精神年齢でいってもアラフォーのアタシに推定還暦の弟子が出来た瞬間であった。




