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チュートリアルで死ねと言われた ——最適化された檻から、デバッグを。  作者: 忘却セミコロン


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9/20

やっと、役に立てると思ったのに

屋台でお腹いっぱい食べた後、カナデがうつらうつらとし始めたので、とりあえず広場から1番近い宿を取った。


必要なものは明日買いに行けばいい。


中心街にあるだけあって、宿の設備はとても綺麗だ。


お湯の出るシャワーやトイレが完備されている。





石畳とランプの街並みに似つかわしくない、無機質なシャワーの音。


その違和感に、背筋がわずかに粟立つ。





——でも今は、考えないようにした。





ベッドからは規則正しい寝息が聞こえ、カナデの胸が呼吸に合わせてわずかに上下している。


律は舟を漕ぐカナデの身体を優しく洗って泥を落とし、ボロボロの衣服の代わりに自分の着ていたTシャツを着せてやった。


満足そうにわずかに口角の上がった寝顔に、愛しさが込み上げ目の奥がじんわりと熱くなる。





助けを求めるように、硬質な重みを失った左手首に触れた。





(叔父さん、心配してるかな…)





あまりにも、密度の濃い一日だった。





中世ヨーロッパのような美しすぎる情景を、窓からぼんやりながめた。





*****




今朝、高専に通う律の下に本人限定受取郵便が届いた。


寮の玄関で受け取った律は、宛先を見て驚く。





差出人:国立ゲノム医療研究センター

内容:遺伝子検査プロジェクト参加依頼





(…ゲノム…遺伝子検査…!尊叔父さんの仕事関係だ!!!)





もしかして、叔父さんの仕事に協力できるのだろうか。





口頭ではなく正規ルートでの依頼に、律は胸が高鳴る。


(今まではアンケートフォーム作るくらいの、軽いバイトみたいなお手伝いしかさせてもらえなかったけど!)





高揚した律は寮の部屋に駆け上がり、封を開けた。


そこには、1週間ほどかかること、その間の各種保証と協力費を後日振り込むこと、持ち物は特に必要無いこと、できるだけ早めに来院して欲しい旨が書かれていた。


(ちゃんとした仕事みたい!!!)





幸い、学校は春休み中だ。

律はシャツとパーカーにスニーカーというラフな格好に携帯と財布だけポケットに入れて急いで寮を出た。


(とにかく早く詳細が知りたい!)





家族を失ってからずっとお世話になってきた叔父の尊。

もしかしたら、初めて役に立てるかもしれない。


——やっと。





嬉しさで口元が緩み、律は自然と早足になっていた。





*****




国立ゲノム医療研究センター。


病院のような低層で広い建物はガラス張りで、空をそのまま切り取ったように青く反射していた。





自動ドアが音もなく開き、白すぎる空間が広がる。人の気配が薄い。


足音だけがやけに大きく響く。





(どうしよう…何だか怖い…)


どくどくと早鐘を打つ心臓を抑えると、不意に声がかかった。


「遺伝子検査プロジェクトの参加者の方ですか。」

突然、まるで研究者のような白衣を着ている女性が声をかけてきた。


「あっ…はい!天野律です。」


「ではこちらにどうぞ。」





まるでAIのように感情の見えない女性に居心地の悪さを覚えながら、後ろについて院内を歩く。





「第1シーケンス」


「検体処理室」


窓のないドアの標識は見慣れないものばかりだ。





院内が乾燥しているからか、それとも緊張からか


——喉が焼けるように乾く。





(どうしよう…叔父さんに相談してから来ればよかった)


早とちりして浮かれていた。ちゃんと尊に確認すべきだった。左手首の腕時計を握りしめ、乱れそうになる呼吸を整える。





そして「被験者室No.19」と表記された部屋に着いた。


「どうぞお入りください」


「あ、…はい」


促され室内に入る。





キャビネットが一つあるだけの、広い個室の病室といった感じだ。テレビはないが、トイレと浴室がある。ほんのりとアロマの香りがする。


もしかして、1週間ここで過ごすのだろうか。





「あの…泊まる用意はしてきていないのですが…」

律が不安そうに尋ねると女性はうっすら笑った。


「あぁ、大丈夫です。早い方は数時間で終わりますので。何か飲み物をお持ちしますので、しばらくお待ちください。」


そう言い残し、退室していった。





女性が出ていってすぐ、律は尊に電話したが繋がらず、SNSチャットでメッセージを送った。


『ゲノム医療センターに呼ばれて来ちゃったんだけど、叔父さんの仕事関係?』





仕事中なのか、画面は静かなままだ。

(叔父さん…早く気づいて…)


言い知れない不安が襲ってくる。





コツコツと女性が戻ってきてドアを開ける。

不安げな面持ちの律を見て…一拍遅れて、にこりと笑った。


「ちゃんと説明するので、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。これでも飲んで落ち着いてください。」





音もなく置かれたティーカップから、ほのかに湯気が上がっていた。





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