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刻まれたもの — 見なければ、まだ戻れる気がした —  作者: 忘却セミコロン


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36/37

ありがとうの先


海の見える高台に、最近リノベーションした古民家がある。




「高度30、風速2.1。K-04、散布シークエンス開始——」


無骨なタフネス・タブレットを操作しながら尊が呟く。


空には、六つのローターを持つ数機のドローンが、美しい幾何学模様を描きながら編隊(スウォーム)飛行していた。




「……尊くん。自動化してるなら、そんなに張り付いてなくてもいいのに」


「栞さん。最後は目で見なきゃ、土の機嫌は分かんないんですよ。」


尊はそう言って、泥のついた長靴で地面を踏んだ。




尊と栞は律が戻った後、新しい仕事を始めていた。

尊が栞を、ここに誘ったのだ。




農薬の散布、土壌の栄養解析、そして収穫。


尊が設計したシステムによって、荒れ果てた斜面は見違えるように整えられていた。




「深見から連絡が来たけど、完全にゲノムセンターに移籍するって。」


「あー。あの人なら、そうしますよね。」




ああ見えて責任感の強い深見は、『AI含め、今後は自分がしっかり管理する』と断言していた。


出向では限界があったのだろう。




「律ちゃんは?」


「律はまだ墓参りです」


「そう。昨日卒業式だったからね。」




お墓のある方を見て、二人は穏やかに笑った。




*****




律は家の少し先、海が一望できる開けた場所に立っていた。




そこには、新しく建てられた小さな墓石がある。


中に収めたのは、両親の結婚指輪と、あの絵本だけ。




「学校、ちゃんと終わったよ」




道すがら摘んできた花を手向け、律は墓石に微笑む。




「ついていくの、本当に…本当に…すごく、すごーく、大変だった!」


ふふっと、照れくさそうに律は笑った。




(でも、いつも叔父さんが支えてくれた)




「……それでね。昨日、ちゃんと家族になったの。」


一枚の書類を取り出して、そっと見せる。




「だから……安心してね……」




頬から伝う涙を、風が優しく撫でていく。




「……帰してくれて……ありがとう、奏。」




律はしゃがんで、墓石を撫でる。




——大好きだよ——




律の声も、柔らかな海の音に溶けていった。




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