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「チュートリアルで死ね」と言われたので従ったら、世界のバグが見えました  作者: 忘却セミコロン


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15/22

優しい街と、帰れなくなる理由

コンコン


「あ、はーい」





控えめなノックの音と、それに答える柔らかい声で律は目覚めた。


どうやら考え事をしたまま、いつの間にかテーブルで寝ていたらしい。


窓の外は明るく、外から様々な生活音が聞こえる。





顔を上げると、バサリと毛布が落ちた。





「あ!おねえちゃん、おはよう。…ちょっと待ってね。」


カナデが律に毛布をかけ直して微笑み、パタパタと扉に向かっていった。






コンコン


「はーい。えっと…だれですか?」


カナデがドアを少し開け、外を覗きながら首を傾げた。





「ここの女将です。朝食いかが?」


「わぁ…おいしそう!」


嬉々としてカナデがドアを開け広げ、トレイを持った女将さんを部屋に招き入れた。


女将さんは…タヌキのような耳と尻尾が生えていて、ちょっとふっくらしていた。





寝ぼけていた律が、ハッと我に帰る。

「すみません。朝食は1階の食堂でと言われていたのに…」


「いいんですよ。お疲れだったのでしょう?小さい子がいると大変ですし。今日はゆっくり、こちらで召し上がってください。」


「ありがとう…ございます…」





パンとスープ、肉の腸詰と少しの野菜がのったトレイをテーブルに置き、女将さんは「ごゆっくり」と出ていった。





「おいしそう…」


カナデは今にもよだれを垂らしそうな顔で、食べ物に釘付けだ。


「そうだね、食べようか」


カナデの様子にクスクス笑いながら、律は椅子をひいてあげた。





「おいしい…!」


「こっちのも食べていいよ」


「えっいいの?ありがとう、おねえちゃん」





幸せそうに食べるカナデを見ながら、律は思案する。


(叔父さんが心配してるし、帰る方法を探さないと……)





——でも。





尊が『帰れなくなる』と言っていたのは、きっと『カナデに会うと帰りたくなくなる』からなのだろう。


(叔父さんはこの世界のことを知っていたんだね。)


(チュートリアルはきっとカナデに会ったのがスタートで…この世界について学んでる今がそうなのかな。)


(すごく心配されてるよね。早く帰らないと…でもどうやって帰ればいいんだろう…)


(とりあえず、お金が尽きる前に稼ぐ手段を考えないと…)





取り留めなく考えながら硬いパンをスープに浸して食べると、それを見たカナデが真似して食べていた。


口元に付いているソースを拭いてあげると、カナデは恥ずかしそうに笑った。





(このカナデは……奏じゃないのに)


——どうして、こんなに。





ひどく痛む胸を抑える。





「…おねえちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫。」


心配そうに尋ねるカナデの頭を、無意識で撫でていた。





*****





朝食を終え、カナデと手を繋いで街に出る。

雲ひとつない空は抜けるように青い。





昨日はあまりじっくり見れなかったが、街並みはとても美しい。





建物はパステルカラーで統一感があり、柔らかい雰囲気に包まれている。


石畳は角が取れたように滑らかで、足音さえも優しく吸い込まれていく。


歩道には常に「ちょうどいい木漏れ日」が落ちていて心地良い。


遠くから聞こえる笑い声も、どこからか漂ってくるパンやバニラの甘い香りも、風に溶けていくように穏やかだった。





(……なんだろう、ここ)





胸の奥が、じんわりとほどけていく。


警戒していたはずなのに、気づけば肩の力が抜けていた。





だから律は、どれだけ歩いてもまったく疲れないことに気付いていなかった。





*****


宿の女将さんから聞いた店を周る。


服飾雑貨屋では、ボロボロのカナデの服を一新。


白地に刺繍の入ったチュニックと、黒いズボン、フード付きコートと革靴。そして肩掛けカバンを購入し、追加で買った着替えを鞄に仕舞った。


自分用にも肩掛けカバンや着替え、生活に必要な雑貨やタオルなどを買い足した。





銀貨三枚トゥリ・ツェント・ステーロ銅貨八枚オク・デク・ステーロだよ。」


「では…これで。」


体のいろいろな場所から硬貨を取り出す律に引き攣りながら、店の店主は硬貨を受け取った。

「…まいど。」




一旦宿に戻り荷物を置くと、宿の女将さんとご主人が顔を出す。ご主人の方は普通の人間っぽい。





「良いのが買えたかね?」


「はい。素敵な店を紹介してもらい、ありがとうございました。」


「うちの店のものも、あそこで買ってるんだ。安い割にいいだろう?」


ニッと笑うご主人が得意げだ。





「この後はどうするの?クッキー焼いたんだけど、一緒にお茶にしない?」


優しげな女将さんが誘ってくれる。


「ありがとうございます。でももう少し行きたいところがあって。」


「あら…そうなの。」


「おねえちゃんは、ぼくとギルド行くんだよ!…でも…」


カナデはクッキーの香りが漂うキッチンの方が気になるようだ。


「ふふっ。じゃあ少しだけ。クッキーご馳走になってもいいですか?」


「ええ!喜んで!」


女将さんが嬉しそうにキッチンへ小走りで向かう。


「ありがとな。うちにも娘と息子がいたんだが、2人とも家を出ていて。お前たちを重ねて見てるんだろう。少し付き合ってやってくれ。」


ご主人が苦笑しながら頭を掻いた。





優しい2人はどこか本当の両親のようで、目が離せなかった。





その日。随分長い間忘れていた“ぬくもり”が、律の胸を満たし始めていた。








【Retention rate:29.8%】







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