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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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アリステアはデザートを保留にするようです

「兄さんの言う通りや。私はこの件に片が付き次第、ミズガルズ王家にとある約定を持ち掛けようと思っとる」


私はそう言うと、運ばれてきたデザート――南国の果実をふんだんに使った冷たいソルベを一口、スプーンで掬った。 鮮やかな琥珀色の果肉。口の中で弾ける甘みは、これから切り出す猛毒のプロローグにはちょうどえかった。


───兄さんは黙って、自分の前に置かれたミルクプリンに銀の匙を入れた。


私はカバンから、暫定敗者の王子に署名させるつもりで作成した『大憲章マグナ・カルタ』を取り出し、冷たいテーブルの上に滑らせる。


「これは?」


「兄さんは、私が新たな秩序スタンダードになることを嫌った。圧倒的な武力をバックに好き放題言われるのは、たとえ利益があっても、気分が良くない。……そうやろ?」


「そうだな。面白くない、と言った方が正しい。ルールは自分に沿って作りたい。誰かを縛るためのものであっても、自分が縛られるために存在してほしくはない。それが人間の本性だ」


兄さんはミルクプリンの端を、正確になぞり、削るようにして口に運ぶ。中心にはピンと尖ったプリンのトゲが出来上がった。


「実際問題、個人がルールを作る今の世の中は、迅速でも公平性に欠ける。……だからこそ、物事の裁定に時間を費やす『枠組み』を作るべきやと私は考えた。専制政治は巻き込まれたら一たまりもない。私たちはそれを身に沁みて理解した一族やろ」


「公平性か。昔の貴族合議制にでも回帰すると?」


兄さんの思考は、私のソルベが溶けるよりも速く本質を射抜いた。


ここでいう公平性とは、万民に対しての”平等”を言ってるんやない。あくまで見かけ上の公平性、私達に有利なフィールドとは何かの再確認を私と兄はしているに過ぎへんかった。


「貴族に力があるうちは、そうするべきやと思う。でも、私たちが目指すべきはそこやない。有利な物事の決め方――それは、金儲けの得意な人間が支配するやり方や」


「商人が政治を治めると?」


兄は私の考えが読めたのか、顎に手をついて思考を開始した。


「そういうこと。商人の立てた代表が、代わりに政を治める。『商人寡頭制』や。代表は商人の決めたルールを議会で議題にあげ、多数決で採決を下す」


「代表の数は? 過半数を抱き込める程度の人数じゃ話にならない。独裁者の名前が『王』から『商人』に変わるだけだ」


兄さんは私からの未知の提案に、脳内をフル回転させる。自然と兄さんの指先は陶器の皿を叩いていた。

そして一つの仮定がうむその未来を演算し終える。


「妹よ。きっと商人が政治を司る社会において、政治とは『公共の福祉』ではなく『巨大な利権の分配』に成り下がりはしないか? 金のない人間、つまり生産に直結しない貧困層や、短期的な利益を生まない文化や学問は、切り捨てるべきコストとして処理されるだろう」


兄さんの指摘は、まさに核心を突いていた。兄さんの行動原理はあくまで『普通(スタンダード)』その基準となる人々を大切にしている。私が横の繋がりや他の商人を大切にするのと同じように、兄さんは不特定多数の見えない、いるはずの『一般人』を大切にしていた。


そんな兄さんは話を続ける。


「金儲けが得意な人間は、邪魔なものを排除する。税率は商人にのみ有利な形に歪められ、逆らう者の資産は合法的な『制裁』で削り取られる。王の専制が情と理屈の混ざった悪意だとするなら、商人たちのそれは、数字で割り切れる冷酷な悪意だ。……どちらが民衆にとって出口のない地獄か、考えるまでもない」


彼は目を細め、静かに私を見つめた。私の示す道には、『普通(スタンダード)』な人間は排斥される側に回るのでは? という危惧をしていらっしゃるらしかった。


「お前が作り上げようとしているのは、公平な楽園ではない。金だけが正義を定義する、最も残酷で冷たい『金権政治』の入り口だ」


兄さんは、私の提案する世界をそうバッサリ切り捨てた。


「『金権政治』の何が悪いんや。これはつまるところ、最もフェアな政治になる。兄さんは『損得』という言葉を悪い意味で捉えすぎや」


「本気で言っているのか?」


私は頷き、ソルベの器を端へ寄せた。


「確かに税率は歪み、逆らう人間には制裁が待っているかもしれん。せやけどな、商人にとって最大の敵は『客の不信感』や。商人が富を追い求めれば追い求めるほど、市場を安定させ、平和を維持する必要性に駆られる。彼らにとって、国民は『搾取の対象』ではなく、生かし続けるべき『資産』に変わる」


私は不敵に笑い、マグナ・カルタの一節を指でなぞった。


「モノを買うのは人間や。信頼を失った商人の下に金は集まらへん。つまり、マネーゲームの勝者が、世の中から最も『必要とされている人間』っちゅーことや。その人間が代表となって政を司る。……これこそが、神の見えざる手という名の、正当な民意の代弁者やと思わへん?」


「サーシャ、お前のやっていることは言葉のすり替えだ。信頼が民意であると宣うその口で作ろうとしているのは、弱肉強食の世だ。違うか?」


「弱肉強食というけど、結局、弱者を助けられるのは強者の気まぐれだけや。弱者同士では足の引っ張り合いにしかならん。今の世界に合った政治は、商人が力を握るべき形や」


兄さんはしばらく黙り込み、庶民代表みたいな瞳で私を射抜くように見た。やがて、彼は深く溜息をつき、マグナ・カルタを机の中央へと押し戻した。


「利害の均衡か。お前の理論の脆さは、一つだけだ。『強欲な者が、その均衡を意図的に破壊した時』、お前の議会はどうやってそれを裁く?」


「それは……」


「答える必要はない。お前の目には既に答えがあるんだろう。……だが、その脆さを補強する役目、僕が引き受けてやってもいい」


「兄さんが……?」


「ただし条件がある。その新しい世界の『管理権限』の半分は僕が持つ。商人が勝手な真似をしないよう、僕が商人の『基準(スタンダード)』を決める機関を作ろう。お前の言う商人の世界が本当に機能するのか、それともただの金権地獄への加速装置なのか……特等席で見せてもらう」


私は口元を歪めて笑った。これ以上の承諾はない。


「……結構。兄さんが見てくれるなら安心できる。兄さんが掲げる理想の世界はいつだって『普通』や。庶民目線を忘れへんからな」


「抜かせよ、クソガキ。こいつは他の誰でもない、兄にしかできん務めだ」


兄さんは満足げに残りのミルクプリンを平らげた。


「さて、視座を共有できたなら、後はまとめに入ろうか。今後の計画について、兄さんには仰山頼みたいことがある」


「どうせまた、ドワーフの国を唆せ、なんて言うつもりだろう。お前がヨトゥンヘイム領を守るにはそれしかない」


「バレた?」


クスクスと私は笑う。どうしようもなく、焦っているのが兄にはバレバレやったみたいやな。


「ここにきた時から、そのための前フリぐらいにしか思ってないさ。壮大なお前さんの計画をここで話したも、僕をこの後どうするか決めるためだ。そうだろ? 言うことを聞かなきゃ、生かして返さないぞって顔だ」


兄さんはそう笑ってチラリと個室の外を見た。

きっとその目には、連射式ボウガンを携帯した私の護衛隊が立っているのが見えたことやろう。


「脅しのつもりなんかさらさらないで?」


「分かってる。でも、お前はことと次第に寄っては、実の兄でも容赦なく引き金を引くやつだ。違うか?」


「そんな恐ろしい女に見えるんか?」


「……そのような、覚悟をしてきている目に見えた。勘違いだったらすまないねぇ~!」


兄さんはそう言って、個室のドアを開いた。店内の賑やかな声が個室の中に入ってくる。


「ではサーシャ、また会おう。次は調印式になるかな?」


「せめてヴァナヘイムでもう一回ぐらい会いたいやろ」


「考えておこう。僕も暇じゃないんでね」


そう言うと、兄さんはターバンを整えて店の外へ出て行った。





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ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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