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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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ナニワの令嬢とスタンダードなお兄さんはひとまず祝杯を挙げるようです。

「スプリングフェス準優勝おめでとう。ということで一杯」


乾杯。兄さんがワイングラスを小さく鳴らす。わざわざ準優勝と蒸し返してくるあたり、性根が悪い。自分の予言が的中したことが、相当嬉しかったらしい。


「はいはい、乾杯。互いに景気がええのは何よりやわ」


私は目の前に置かれた赤いカレーをスプーンで掬う。真っ赤に泡立つソース。口に含むと、暴力的な辛さが鼻に抜けた。


「僕はサーシャほど儲けてはいないさ。原価率の低い商品を取り扱うと、どうしても手元に残るお金は少なくてね。薄利多売の毎日さ」


アリステアは端正な手つきでナンをちぎる。兄の取り扱う商品は、香辛料と武器。どちらも元値が張る代物だ。利益が出ていない、という言葉は、このスパイスの香りと同じくらい嘘くさい。


「薄利多売の人間が戦争なんて起こせるかいな。……辛っ」


「いやいや、金がないから戦争を起こすんだ。戦争は儲かる」


兄さんは平然と、激辛のカレーを飲み込む。その顔には汗一つ浮かんでいない。


「僕はミズガルズ王国が大嫌いだ。人間の数が減って儲けが出るなら、ヤリだろ?」


「兄さん、まだバイカル家の物流ギルドを奪われたこと恨んでるんやな」


私がそういうと、兄さんがナンをカレーにディップしたまま手を止めた。


「……当たり前さ。まだ一年も経っていない。あのギルドは僕ら家族が積み上げてきた資産だ。土地を奪われ、一家離散。恨まない方がおかしい」


ちぎったナンの断面を見つめる兄さんの目が、一瞬だけ鋭くなった。


「でも、パパもママも残された小さい領地で楽しそうにやってるで?」


たまに届く手紙を見ても、二人は仲良くやっている。王家を恨むような思考回路にはならん人達や。器が違う。


「残されたのは小さな街一つだろ。笑わせる。男爵以下の領地だ。かつてミズガルズの覇権を握った絶大な力の面影は、もはや我が家にない」


バイカル家当主として、お家を繁栄させる役目を担っている兄さんにとって、当代でこのようなことになったのは、末代までの恥とでも思ってるらしい。


……この人改めて思うけど、私に当たらんの、さては結構偉いな?


「王家が介入できない規格化を進めて、そのルールの下でしか動けないようにしたい。兄さんがしたいのはそういうことやろ?」


「その通り。規格は一度決まって流通すれば、世界を統一する。王の命令であっても、修正には大きな力がいる。今のミズガルズ王家にその力はない」


兄さんもまた、既存のルールで王家の横暴を止めようとしている。やり方や立場は違っても、私達兄妹の向いている方向は同じようやった。


「今回のヨトゥンヘイム領との戦争で、仮にミズガルズ王家が勝てば、再び力を取り戻すで?」


それも、アンタが仕掛けた戦争や。アリステアがドワーフの国を焚きつけなければ、王家が今回の凶行に走ることもなかった。この戦争は兄さんが引き起こしたと言っても過言ではない。


「ふふふっ。サーシャは、僕が困ると言いたいわけだ」


「困らへんのか?」


「困る困らない以前に、心配していない。ヨトゥンヘイム領は絶対に負けない。あの軍神フロストがいる限りはね」


アリステアに断言され、私は思わず冷たいラッシーに手を伸ばした。安堵。敵であっても、同じ視座に立つ人間が彼を認めている。その事実に、胃の奥がじんわりと温まった。


「彼のこと、随分高く買ってるんやな」


「当たり前だ。人間という集団は、最後は戦争が強い方が勝つ。あの人は戦争が強いだけじゃない。戦争が『上手い』んだ」


「戦争が上手い……? 圧勝する、とかそういうこと?」


「いや、戦争を完璧に業務化できている点だ。マニュアル化、と言い換えてもいい。兵士を減らさない点も評価できるが、僕が見ているのはもっとマクロな話だ」


兄さんは、皿の上に散ったスパイスの粒を一つ、ナンの先で避けた。


「フロストさんは長期間の戦争をしない。短期スパンで戦い、戦略を持って勝利を収める。決められた予算で人員を育成し、作戦を練り、実行する。彼は初めて戦争をパッケージ化した人間だ」


兄さんの言葉は、どこか軽い。まるで戦争をデータでしか管理したことがないような言い草や。けど話を聞けば、兄さんがフロストを好む理由は分かった。兄さんの言うことが本当なら、フロストが行っているのは「戦争の規格化」そのものや。


己の信念や家族を守るために戦う───そんな思想を嘲笑うような、計画的な殺戮。武器商人の兄は、どうしようもなくその合理性に惚れ込んでしまったらしい。


「なら話がおかしくないか? アンタ、負ける方に武器を流してることになるで。フロストが勝ったら、アンタも一緒に殺される。ドワーフの新兵器のせいで、たくさん人が死んでる。フロストは絶対にアンタを許さんで」


「その心配は及ばない。フロストさんの良いところはそこなんだよ、サーシャ」


「……?」


アリステアは食事の手を止め、フロストが過去に戦ってきた戦場のデータをまとめた資料を提示した。資料によれば、フロストは相手を倒すことはあっても、同盟国や組織にまで攻撃を広げたことは一度もない。


感情で起こる戦いを、フロストは利害で完璧にこなしている。大義名分や敵討ちで敵を殺したことは、これまでの記録で一度たりともない。あくまでビジネスとして、彼は戦争をやっていた。資料が示すフロストは、そんな人間やった。





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