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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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検閲室の真実───ナニワの令嬢は本物の手紙を見破ります

遂に覚醒したヴィーダルは、ヴァナヘイム中央郵便局の検閲室───ブラック・チェンバーと呼ばれる場所からフロストの手紙を盗んできた。しかしなぜか手紙は二通あり、どちらかが偽物ということが発覚するが……。


「お気に召さなければ、私をここで斬り殺してくださって構いません。ですがどうか、この手紙も一緒に読んでいただきたい」


彼は真っ直ぐに私を見据えた。その眼差しには、何処か危ういほどの忠誠心が滲んでいるような気がする。そんな彼が懐から取り出したのは、私が手にしているものと寸分違わぬ、封蝋まで酷似したもう一通の手紙やった。


「どういうことや。なんで手紙が二通ある?」


「そちらにあるのは、おそらく偽物───。恐らくはサーシャ様を欺き、判断を誤らせるために用意されたものです」


「……何やと? どっちが本物か分かるんか」


紙の材質、張られた切手……使われている封蠟……全部一緒や。特に封蠟なんて特別なものを使ってるから、簡単に真似できるような代物やない。どっちも本物と言ったって、私は信じられる。そんな精巧な偽物を作る技術力が、ヴァナヘイムにはあるんか……?


「分かりません。ですが、似たような手紙が複数、あの部屋に保管されていました。仕分けされた箱の中から取ってきただけなので……」


ヴィーダルに促され、二つの手紙を交互に読み込む。筆跡は完璧に一致しとる。フロストが両方書いたと言われても違和感のないレベルや。けど───中身開けたらすぐ分かったわ。


「筆跡模写か……、気持ち悪いな。……普通に騙されるところやったわ」


「どっちが本物か、サーシャ様にはお分かりになるのですか?」


不安げなヴィーダルの問いに、私は鼻で笑って答えた。


片方の手紙には、今自分たちがどれほど圧勝しているかが詳細に、それはもう饒舌に綴られていた。戦況は極めて良好、心配は無用───あまりに「都合のいい」内容や。


けど、もう一方。そこには、「未知の箱が空から飛んできて、鉄の雨が降っている」という、信じ難いほど絶望的な戦況が記されていた。そして最後には、


『手紙はしばらく送れそうにない。こちらの情報が既に敵に流れている可能性がある。サーシャも気を付けてくれ。君にこの手紙が届くことを祈っている。

───フロスト・フォン・ヨトゥンヘイム』


と書き残されている。フロストからの手紙が少なかったのは、機密を少しでも漏らさんようにするためか。


「フロスト様なら圧倒的勝利と書きそうですが……」


ヴィーダルが手紙を覗き込み、困惑したように呟いた。ミヤハも同意見らしく、怪訝な顔で頷く。


「空飛ぶ箱……流石に、こっちが偽物(フェイク)ですね。そんな御伽話、あるはずがない」


ミヤハはあまりに現実離れした内容に、理解が追い付いてないようやった。しかし、私にはわかる。


「あー……残念ながら、フロストが書いた本物は、ミヤハの言うお伽話の方や」


「な、なんでそう言い切れるんでしょうか? 筆跡はどちらも完璧じゃありませんか」


ヴィーダルは不思議そうに訊いてくる。目じゃ確かに分からんかもしれんけど、獣人のやつら、臭いまで偽造する技術はまだなかったらしいな。


「手紙の『臭い』や。天下のフロスト様の臭いなんか、一発で分かるわ。嗅いでみ」


私がそう言って手紙を突き出すと、ミヤハは顔を背け、ヴィーダルは露骨に顔を顰めた。

そこから漂うのは、インクの匂いでは消しきれない、染み付いた「錆」と「血」と「死」の混ざり合った、戦場の臭い。


「そう。フロストは常に死の隣におる男や。そんな男が送ってくる便箋が無臭なわけないやろう。偽物を書いた奴は、筆跡は真似てもヤツの『生活の匂い』までは想像できんかったらしいな。獣人の癖に、鼻を利かさんとは。ぬかったな」


私は、平和ボケしとる偽物の手紙を指先に力を込めてビリビリに引き裂いた。溜まりに溜まった苛立ちをぶつけるように、怨念マシマシで粉微塵にしてやったわ。


「……あ! サーシャ様、それ重要な証拠に……!」


「あ……。……いっけない。───てへっ」


「『てへっ』じゃありません! 相手の偽装工作の癖や狙いを分析できたかもしれないのに! なぜそう感情に任せて粉砕するんですか! 信じられない、ガサツにも程があります!」


ミヤハのガチギレが炸裂した。眼鏡の奥の瞳が本気で据わっとる。流石の私も、ちょっと、いや、だいぶ反省したわ。


「だ、大丈夫や。今の私は冴えとるからな。内容は一言一句、全部暗記しとる」


私は机の引き出しから新品の便箋を取り出すと、ペンを走らせた。頭の中にある偽物の文章を清書し、完成した文章のデキを確認する。


(よし。問題なし)


「……サーシャ様、本当に全部覚えていらっしゃるのですか?」


呆れ顔のミヤハに、私はペンを置いて不敵に笑った。


「これぐらい朝飯前や。……さっ、清書は終わり。今はフロストの『本物の声』を熟読しようか」


私は、死の臭いが染みついた本物の手紙を広げた。そこには、ヨトゥンヘイムの危機と、フロストが伝えようとした「新たな世界の兵器についての情報」が刻まれていた。




高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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