覚醒のヴィーダル───ナニワの令嬢も完全復活ですが、不穏な空気も漂います!
アレックスとの会話を終えて、新しい恋を始める前に撃沈したヴィーダル!
新たな決意と共に、彼はとある行動に移った……。
一方そのころサーシャは、私室で完璧な目覚めを果たす。
果実の情報を何とかして集めなければ~というところに、扉を叩く音が響いた。
私がいつもの持病から目を醒ましたのは、二日経った朝のことやった。
「……ん、……なんやこれ。頭が、信じられんくらい軽いな?」
シーツを跳ね除けて上体を起こすと、いつもなら頭の奥にこびり付いているはずの、あのドロリとした重たい澱が綺麗さっぱり消えとった。
まるで、誰かが一晩かけて脳みそを丁寧に洗浄してくれたような……あるいは、頑固な肩コリが霧散したような爽快感や~。
自分の内側にある「ゴミ箱」が空になった感覚っていうんですか~?
不思議と商売のアイデアとか数字の計算が、普段の三割増しで頭の中にスルスルと流れてくるような~、鼻の通りが良いというか~、酸素が頭の中に入ってきてるって感じ?
「とにかくヴァナヘイム最高や~! 」
「よかったですね。ヴァナヘイムの空気が肌に合っておられるのかと」
着替えの準備を整えていたミヤハが、落ち着いた、それでいてどこか安堵した表情で私を見た。今日と明日は暇を出してるから、うんと羽を伸ばしてきてもらおう。ここ数日は、寝たきりの私の世話で付きっ切りやったみたいやしな。
「悪い知らせとかはないか?」
「ええ、特には。一度お兄様がお見えになられましたが、サーシャ様の状態を伝えると、『また後日、顔を出すとしよう。ハハッ』と仰って、帰って行かれました」
「兄さんが……? なんの用とか聞いてる?」
「……いえ。直接お話すると、アリステア様は仰っていました」
「ほっか。……ほな、こっちから使いを出そか。美味しいお店とか知ってる?」
「でしたら、この獣人の国名物のカレー屋さんがありますよ。それにケバブ屋さんも」
「ほほう……カレーにケバブ……スパイシーな料理ばっかりやな。ココって果物だけやなくて、香辛料も有名やっけ?」
「いえ、オリエントからの輸入品と聞いています。確かアリステア様の海運業の中でも、香辛料は武具と並び、最も太い利益の源泉だとか」
「アンタ、一体どこでそんな情報を……?」
「アリステア様の執事から。同期なので、腐れ縁というやつです。……サーシャ様の邪推するような間柄ではないので、ご安心を。使用人同士、情報交換という名の『交渉』は日常茶飯事ですので」
「私の情報も材料に使ってるんか? ……まぁ、あんたならええわ。そんで……? 兄さんは香辛料でそんなに儲けてるんか?」
「ええ。東の地域はドワーフの国を含め、良質な香辛料の産出国が多いのは、サーシャ様もご存知ですね?」
「せやな」
「アリステア様はオリエントに散らばる香辛料を束ねる商人と太いパイプを持っていらっしゃいます。サーシャ様が氷でノヴァーリス・ホールディングスを作ったように、あの方もまた香辛料の巨大カルテルを作っているようですね」
「なるほどな……」
私は指先で机を叩き、兄の思考をトレースする。香辛料は、石炭や木材と違って、ほんの数グラムが金貨一枚に化ける超高価値商品や。
「せやから『規格化』か。僅かなグラム数の誤差が、取引のたびに莫大な損失を生む。……誰かが世界共通の『普通』を作らんと、摩擦で大損するってことか……なーるほど。 会いに行く前に、面白い話が聞けたわ」
私が不敵な笑みを浮かべ、次の打ち手を脳内で組み立て始めた、その時。
荒々しく扉を叩く音が部屋に響いた。
「朝から何ごとですか」
ミヤハが不機嫌そうに扉の前に立ち、誰が来たかを確認する。
「私です。ヴィーダルです!」
ミヤハが面倒くさそうに鍵を開けて彼を招き入れると、部屋に転がり込むように入ってきたのは、肩を激しく上下させたヴィーダルだった。
その海の色の髪は夜露に濡れて乱れ、かつての子供のような瞳には、今や鋭く硬い、鉄のような光が宿っている。
「……あんた雰囲気変わった?」
「私はこの二日で、貴女様の犬になることを決心しました。これはその証明です」
「な、何や証明って……えらい重苦しい変態宣言やな……」
彼はそのまま床に膝をついた。その手には一通の封筒が固く握られている。押されている封蝋とその家紋に、私の心臓は歓喜に打ち震えた。
「……まさか!」
「ヨトゥンヘイム領からの……! フロスト・フォン・ヨトゥンヘイム様からの手紙をお持ちしま───」
私はヴィーダルの言葉を聞き終わる前に封筒を奪い取り、手元のレターナイフで一気に開封した。中にあったのは、ミミズが這ったような、お世辞にも綺麗とは言えん汚い字───間違いなく、フロスト本人の直筆や!
「でかしたヴィーダル!」
私は汗まみれの犬をガシガシと撫でた。よくできた忠犬や。ここ数日で何があったかは知らんけど、こんなに立派な犬になって帰ってくるとは。心なしかちょっと大きくなったか? 気のせいかしら。
「どこからこんなモノを……?」
ミヤハが、興奮する私の代わりにその出所を問うた。
「ヴァナヘイム中央郵便局の……検閲室と呼ばれる場所です。夜間に忍び込み、手に入れて参りました!」
ヴィーダルの言葉に、私とミヤハは同時に絶句した。中央郵便局の検閲室。それは国家の通信を裏で支配する聖域であり、侵入が見つかれば即座に処刑されても文句は言えん場所と小耳に挟んだ知識を思い返す。
ヴィーダル君、それ普通に重犯罪やけど……ダイジョブそ?
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




