食堂で仕事のお話なんてナンセンスやろ。……え?仕事の話しかすることないって?それは、まあ、そう。
ヨトゥンヘイム邸、一階大食堂。 重厚な二重扉を抜けた瞬間、蒸気パイプが吐き出す湿った熱気と、煮込み料理の匂いが鼻腔を突いた。
「……シュガーライク、あんた足フラフラやん。はよ座り」
私は、ミヤハに肩を貸されている補佐官を上座のベンチへ促した。 ベンチの下には排熱パイプが通り、床には牛革と絨毯が層を成している。極寒の地でこれほど贅沢に熱源を管理しているのは、兵士の英気を養うための「先行投資」やろう。
「アレクサンドル様……。……感謝します。この食料があれば、最悪の事態は免れます」
運ばれてきたシチューを胃に流し込み、シュガーライクはようやく人心地ついた表情を見せた。だが、彼の眼鏡の奥に宿る「事務官としての悩み」は消えてへん。
「それで、食料配分の件やけど。あんたの構想を聞かせてもおか」
「……ええ。まずは困窮層への無償配布を検討しています。供給が追い付くまでの緊急措置です」
シュガーライクの言葉に、私はデザートのカフェラテを啜りながら首を横に振った。
「甘いな。無償配布は『毒』やで、シュガーライク」
「……毒、ですか? 人道的救済を否定されると?」
「人道で腹は膨れん。無償でもらったもんは、感謝されるどころか、次がない時に『恨み』に変わる。それに、安易な配布は国内農家の生産意欲を根こそぎ奪うわ。商売の基本やろ」
シュガーライクが沈黙する。正論で殴られた時の、あの「仕事眼鏡」特有の不快そうな、それでいて知的好奇心に溢れた沈黙や。
「では、どうしろと」
「労働力で買わせるんや。 困窮層には、インフラ整備や新事業の労働を条件に食料を出す。彼らに必要なのは『施し』やなくて『自立するための役割』や。……領地の金が外部に逃げ続ける仕組みを、ここで断ち切るんやで」
私は手帳を取り出し、領地のキャッシュフローの歪みを指し示した。 戦争の賠償金で食料を買い、それを領民が食いつぶす。この循環の中に「生産」がない限り、この領地はいつか必ず破滅する。
「……労働力での返済。確かに一理あります。ですが、大規模な投資をする余力は、今のヨトゥンヘイムにはありませんよ。工業化を進めるにも、フロスト様が次の戦争で勝つのを待つしかない」
シュガーライクは諦めたように溜息をついた。だが、私は不敵に笑い、窓の外に広がる白銀の世界を見据えた。
「何言うてんねん。設備投資ゼロ、在庫リスクなし、原価タダ。 そんな最強の商品が、この領地には山ほど転がっとるやないか。私がなんのためにここにやってきたか思い出して?」
「………………氷か!」
そういうこと。てことで、信用も得たことやし。氷を売るための方法をさっそく考えましょうか。
次回はメインテーマの『氷』に触れて行きます。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




