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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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紅い夢Ⅰ

これまでの簡単なあらすじ。


ヴァナヘイムに導入した冷風大鞴は大ヒットを記録。特許料による莫大な富と、王家御用達の称号を手に入れたサーシャ。しかし、肝心の造船用木材の取引は、ニマーヌ王妃の「銀楼果」への執着によって足踏み状態が続いていた。順風満帆に見える商売。その裏側で、サーシャの張りつめた精神は静かに限界を迎えようとしていた───。


煌々と紅い月の光が差し込む不思議な夜。

月に一度の宴に、死者の一人は眠りを覚ます。

苦痛、不安、その押し付けられ係、後始末係。


───男の俺が、目を醒ました。


「今月もずいぶんとまぁ、お溜めになられたものだ。なんだ、この膨大な量の負の感情は? 恐怖に不安……随分とストレスフルな生活をしている。ハッキリ言ってキャパオーバーだぜ、こいつは。具合いはそこそこだが……随分と精神が参ってやがる」


サーシャの記憶を探る。……なるほど、フロスト不在と、頼れる人間がいないことが重なったことによる不安か。冷たい恐怖が全身に張り付くような、常時バンジージャンプをしているような。

常に緊張感が体から抜けないのはそういうことらしい。


「ミヤハ、お茶」


「アレックス……あなたのメイドではないのですが?」


そうは言いつつ、従順に働くレディースメイド。こいつも自分の主の体が心配らしい。喩え俺がサーシャの別人格であっても体は同じ。この顔と、この声が彼女を突き動かすのだろう。


「いつも通り、眠剤多めに入れろ。男でも抱けば治りそうなものだが───。生憎とフロストはいねえからな。このままじゃ、手頃な所に手が出ちまいそうだ」


「サーシャ様の体で男の体に触れるなんて、気色の悪いことを言わないで」


「おいおい。俺が男の体に興味持つとでも? いるじゃねえか。手頃な女が」


ティーカップを置いて、俺は化粧台から香水を取り出す。サーシャが密かに改良を重ねているバニラの香りの入ったガラス瓶。蓋を開けて、ハンカチに二滴垂らす。ミヤハの下へそれを持って行き、彼女の首筋にハンカチを押しあてた。


「なっ……何を⁉」


「じっとしてろ。……これでいい」


ミヤハの首筋から甘い匂いがしてくる。ミルクとバニラの混ざった匂いが、サーシャの弱った精神を安定させていく。


「落ち着く……良い匂いだ」


ミヤハの手を引き腰に手を回す。手繰り寄せたかぐわしい女の匂い。貧相な女だがメリハリはある。柔い肌の感触が服の上からでも伝わってくる程度には、こいつも成長したらしい。


ミヤハを抱きしめたまま瞳を閉じる。サーシャが今欲しているのは人肌の温もり。夢と復讐を薪に進む暴走機関車にも、メンテナンスが必要だというだけの話だった。


「……サーシャ様がこれを求めていると?」


()()()()()が、なんて言ってやるなよ。主様(サーシャ)がお可哀そうだ」


強く、ミヤハの体を抱きしめる。

灰色の髪を掴み、背中を抱き寄せ、首筋に鼻をつける。

あまりに生々しい汗とバニラの匂いがした。


「言って下さればこれぐらい……」


ミヤハの肩に顎を乗せたまま、首を横に振る。


「そんなことがあの女にできるはずがない。自己管理を他人に委ねないのがあの女だ。ましてや頼るなど───笑止千万。それでも四六時中お傍に仕えるメイドか? オマエは」


「……サーシャ様は不安なの?」


そんな素振りは欠片として見せてはいない、と(のたま)うサーシャの親友による証言。相変わらず、人に感情を悟らせないのが上手な女だ。


「さてはミヤハちゃんは、おバカ様でいらっしゃいますか? 」


「なっ……!」


ミヤハが怒りに任せて俺の体を引き離そうとする。冷静に見えて沸騰しやすいのは、今に始まったことではない。離してやるつもりもなかった。


「……婚約者が戦争に行って不安じゃない女がどこにいる。ずっとこの二ヵ月苦しんでいるのさ。手紙の返事も未だに返ってこないしな」


サーシャは何通も手紙をヨトゥンヘイム領に送っている。だが、返答は未だに一度もない。サーシャが不安になるには十分な燃料だ。


「シュガーライク様はお返事くださいましたけど……」


ミヤハがボソッと言ったその一言で、さらに内なるサーシャのどす黒い感情が、内側を通して俺にフィードバックされる。サーシャは眠っているはず……何か感じ取ったのか?


───ともかく。


「……ふざけんな。せっかく精神が落ち着いて来たってのに。その話は聞かなかったことにするから、そういう大事な開示は本人の前でやってくれ。俺のセラピーがいくらあっても、これじゃあ足りゃしない」


それから数分───あるいは数十分。赤い月を背に、ミヤハを抱きしめ続けた。

アイツがフロストにしたいことを俺が肩代わりする。これで安定するんだから、燃費が良いんだか悪いんだか。


「サーシャ様が満足したら離れなさい。私欲に抱かれる筋合いはないので」


「分かってる。俺も彼氏持ちに手を出すほど暇じゃない」


死に体の俺に、そもそもそんな時間は残されちゃいない。


「……そうです。これはあくまでサーシャ様のため。そこのところ、お忘れなく」


「ああ。これは一夜の夏の夢。今の男に不誠実だ、なんてお門違いな考えは止めておけ。お前は仕方なく俺に付き合わされてる。それだけなんだからさ」


「……ハァ。最低……」







前書きの有効活用に、「あらすじを入れる」というのをやってみました。

これ便利なので、もしかしたら今後もやるかも知れません。



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