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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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冷風の特許───冷風大鞴が王家御用達に?


執務室にザァーと響くのは、私の耳にとって何よりも甘美な音色。滝の音───などではなく、袋に詰められた特許料が金庫に降り積もる音だ。


商業ギルドとの交渉から二ヶ月が経ち、ヴァナヘイムの街には大きな変化があった。

暴力的な日差しが石畳を焼く昼下がり。かつての殺伐とした広場には、今やあちこちに「冷風大鞴(れいふうおおふいご)」の姿がある。


獣人はその前で極楽浄土を見たような顔で涼み、小銭を欲しがる子供らは交代でリズムよくペダルを踏んで冷風を送り出す。冷気が「自然の恵み」から「買える日常」に変わった衝撃は、この南国の生活をガラリと変えてしもうてた。


「ヴィーダル、もっと踏んで~」


私はミニクーラーこと、ミニ冷風鞴(れいふうふいご)の上に立つヴィーダルに注文をする。両足にペダルのついた箱から涼しい風が吹くミニ冷風鞴(れいふうふいご)は、この一カ月後発売予定。現在試作品をチョウベーさんから預かってる最中やった。


「ハァ……ハァ……承知しました」


一緒に涼しい部屋におるのに、一人だけペダルを踏んで汗を掻くヴィーダルを眺めながめ、少し笑みが零れる。隣に立つミヤハはその光景を見ながら、眼鏡の縁をクイッと上げた。


「無賃労働とはいえ、彼をこき使い過ぎるのは如何なものかと思います。サーシャ様」


「本人立っての願いや。役に立ちたいって五月蠅いねん。アンタも文句ないな?」


「……はい! もちろんです! ……どうでしょうか、涼まれていらっしゃいますか!」


室温計を見る。ミニ冷風鞴(れいふうふいご)でも、気温はしっかり下がっているのが確認できた。


「ええ感じや。……なぁ、ヴィーダル。ホンマに無理せんでええからな。水分補給とか忘れたらアカンで」


「いえ! 男ですから、このぐらい……!」


───さらに三十分後。


「ハァ……ハァ……」


───さらに一時間後。


「ダァ……ハァ……ダァ……ハァ……!」


私より二回りも大きな背中を丸めて踏ん張る少年が、なんだか健気な大型犬に見えてくる。私はその汗ばんだ髪を、愛犬の毛並みを整えるようにタオルでワシャワシャと無造作に撫で回した。


「馬鹿なんかお前。そうやってぶっ倒れたら私の責任になるやろ。一旦休め」


ペダルを踏む足を止めて、転がるように執務室の床に汗まみれのまま寝転がるヴィーダル。がむしゃらに頑張ったってどうもならんのに。頭を使わんヤツは危なっかしくて、見てられへん。百八十あっても、精神がこれじゃ、男以前にガキにしか見えへんわ。


「ヴィーダルにも給料を出してあげてもよいのでは? 食事も使用人と同じものですし……少し不憫です」


「勝手について来たんや。食料と寝床があるだけ上等やろ。なぁ、ヴィーダル。辛かったらいつでも帰ってええで」


「……いえ、姐さんについてきます……」


息を荒げ、額に輝く汗を掻くヴィーダル。見かねたミヤハが私の金庫からお金を一部取り出して、袋に詰め始めた。


「ミヤハ、余計なことはしたらあかん。本人がいらんって言うてんねん。渡す必要ないやろ」


「意地悪もそこそこにして下さい。せっかく冷風大鞴(れいふうおおふいご)の特許料が入ってきたばかりではないですか。気前よく部下に配るのも、主の器を見せる時とお考え下さいませ」


商業ギルドから受け取った特許料は、確かにかなりの金額や。けど、この金は新しい設備投資と、ヨトゥンヘイム領で今も戦ってる人々に向けての仕送りの金。無駄とは言わんけど、そこに割く余裕はなかった。


「使用人へのボーナスは決まった月に出してるやろ。その金はヨトゥンヘイム領に送るお金やから使ったらアカン。キャスパリーグ王から冷風大鞴(れいふうおおふいご)を『王家御用達』の印を授与されたから。ボーナスの話は、その効果で売り上げが伸びた後や」


キャスパリーグ王からは『王家御用達』の印を授与され、私の扱いも「人質」から「国賓」へと昇格した。


……言うたら聞こえはええけど、実質は「逃がさへんための黄金の鎖」や。身の回りの世話役や警護の数は倍増したけど、それは私を守るためやなくて、冷風大鞴の技術を独占するための徹底した囲い込み。


狸親父にとって、私はもう「フロストの婚約者」やなくて、ヴァナヘイムを潤す「戦略物資」なんやろうな。


おまけに、肝心の氷と木の取引交渉は───


『そっちの仕事はニマーヌに任せておるでな。儂が口出ししたら怒ってしまう』


などと、王にあるまじき発言で逃げられ続けてる。

挙げ句、当のニマーヌ様はと言えば───。


「銀楼果はまだ手に入りんせんか。あれがなければ、次のお話はありんせん」


と、なぜか果実にご執心で、エルフの村の果実(銀楼果)が手に入らなければ、話を聴く気はないと突っぱねられてしまっていた。


「何処まで金を稼いでも、やっぱり必要なのは銀楼果(ぎんろうか)……か。確かに美味いけど……そこまでなん?」


文通を長いことしてる手紙友達やのに、相変わらずニマーヌ様は何を考えているかサッパリ分からない。何か深いお考えがあるような、完全な気分屋のような。掴んでは消える雲のよう方やった。







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ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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