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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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猫を被っていた王様と赤裸々な王妃───ナニワの令嬢は正直な王妃様が好きなようです。

「ふぅ……生き返るわ。やっぱり南国の湿気は、ナニワの商人の天敵やな」


シャワーを浴び、こびりついた汗と疲れを洗い流した私は、新調した涼やかなブルーのサマードレスに身を包み、再び王宮の客間へと足を向けた。


首筋には、ヨトゥンヘイムの冷気で冷やした香油をひと塗り。商談の場に戻る準備は万端や。


───せやけど、客間の重厚な扉を開けた瞬間私の目に入ったのは、期待していた「三者会談」の続きやなかった。


「……まだやっとんのか」


室内に立ち込めるのはインクと羊皮紙の匂い。もうかれこれ二時間以上席を外しとったのに、まだまとまらんらしい。


「ですから王よ。重さや長さの単位を我がバイカル家の分銅に統一すれば、ヴァナヘイムの木材は余計な検銭(けんぜん)なしにオリエントまで届くようになる。これは『文明』の進歩なのです」


「ふむ……規格、であるか。アリステア殿の言うことは難しい。金を正しゅう測るために、金を使うのでは本末転倒でねえか?」


もふもふの髭を揺らし、熱心に質問を投げかけるキャスパリーグ王。……その横に、私の座る椅子はなかった。


「あ、あの……王様、ただいま戻りました。同席してもよろしいでしょうか」


私が控えめに声をかけると、キャスパリーグ王はちらりとこちらを一瞥した。その金色の瞳には、先ほどまで私に見せていた「救国の英雄の婚約者」への敬意は、微塵も残ってへん。


「……あぁ、バイカルの娘か。すまにゃいが、今はアリステア殿と『国の根幹』に関わる話をしていみゃーす。……しばらく席を外しててくれ。アリステア殿もよろしいな」


ピシャリと言い放たれた言葉に、私の笑顔がピシリと凍りつく。 ……なるほど。フロストがヨトゥンヘイムの防衛のために席を外した途端、これか。今の私は、ヨトゥンヘイム公爵夫人でもなければ、大公の妻でもない。ただの「没落しかけたバイカル家の娘」にすぎん。


フロストという巨大な資産というバック盾がない私を、この老獪な猫王は「交渉のテーブルに座る価値なし」と判断しおったんや。


「王よ。サーシャは僕の『妹』ではありますが、この商談においては部外者です。……あちらで王妃様とお茶でも楽しんでくるといい」


兄貴は私に顔すら向けへん。ずっと資料とキャスパリーグ王を交互にみて、私のことなど眼中にない様子やった。


(……クソ兄貴。いつか絶対に、コンテナに詰めてミーミル湖に沈めたる……!)


私は怒りで震える拳を扇子で隠し、優雅にカーテシーを決めてみせた。


「……過分な配慮痛み入ります。では、私はニマーヌ様と交渉をさせていただきます。失礼しますわ」


追い出されるように向かったのは、王宮のさらに奥。エルフの女王、ニマーヌ様が涼を取るための離宮やった。



「……あぁ、サーシャ様。よくぞ来てくださいました。この暑さには、もう……我慢の限界でありんす」


薄衣を纏い、氷枕を抱えてソファに横たわるニマーヌ様。その額にはうっすらと汗が浮かび、エルフ特有の透き通るような肌が赤らんどる。室内にはアリステアが持ち込んだ氷が籠に入って置かれてるけど、高温多湿は氷にとって最悪の敵。


除湿せえへんと、一生この天然サウナから抜け出すことは叶わんやろうな。


「ニマーヌ様。お加減はいかがですか?」


「……アリステア殿が届けてくださる氷は、まことに素晴らしいものでありんす。けれど……足りんせん。圧倒的に足りぬのでありんす」


ニマーヌ様は、力なく扇子を動かしながら嘆息した。聞けば、王宮内の冷却だけでなく、クーデターで傷ついた兵士たちの治療や、高級食材の保管、さらには熱病に苦しむ民衆への配布……。アリステアが独占的に供給している氷の量では、ヴァナヘイム全体の「冷気への渇望」を潤すには、到底及ばへんらしい。


「アリステア殿は『物流の最適化』を優先し、決まった量しか運びませぬ。……この国の夏は、それでは乗り越えられぬのでありんすよ」


(……なるほどチャンスやな。兄さんはさっき氷の販路は私に任せるって言ってたし、ここを乗っ取れば、ええってことやな?)


「ニマーヌ様。……それなら、私にお任せいただけませんか?」


私はニマーヌ様の隣に膝をつき、力強くその手を握った。


「兄さんが運ぶ氷が足りへんと言うなら、その倍……いえ、十倍の氷を私がヨトゥンヘイムから運んで見せますわ。それで必ずココをもっと快適にしてみせます」


ニマーヌ様の瞳に、希望の光が宿る。


「……アリステア殿の分まで、お主が? ……けども、契約はあの方と……」


「あぁ、王宮の掃除(バニラの掃除)の件ですね。そちらもお任せ下さい。それとここへ足を運ぶ前に、ニマーヌ様にはこちらをご用意しました。どうぞ」


私はミヤハに合図を送り、用意しておいた「秘密兵器」を運ばせた。銀のトレイに乗った、ガラスの器。その中には、ヴァナヘイム特産のトロピカルフルーツをふんだんに使い、ミーミル湖の極上氷で仕上げた───特製フラッペが冷気と共に現れた。


「……まぁ、これは?」


「ヨトゥンヘイムの新名物、『ミーミル・フラッペ』にございます。……毒見はよろしいのですか?」


「妾と主の仲でありんす。今さら妾を殺したところで、主にはなんの利益もありんせんでしょう?」


ニマーヌ様は好奇心のままに、銀のスプーンでフラッペを口に運ぶ。


その瞬間。 「…………っ!!」 彼女の大きな瞳が見開かれ、肩が震えた。


キーンとくる冷たさと、果実の甘みが、熱に浮かされた彼女の意識を鮮烈に覚醒させる。


「……あぁ、たまらん!……全身の血管を、心地よい冬の嵐が駆け抜けていくようでありんす」


詩的な方や。


「よかった……! このフラッペを、マリーン・ヴェイルから直送します。……そして、王妃様。もしこの味をお気に召していただけたなら、ぜひ、我がノヴァーリス商会に『ヴァナヘイム王宮御用達』の称号を戴けませんか?」


私が不敵に笑うと、ニマーヌ様はうっとりとフラッペを見つめ、それから私を真っ直ぐに見据えた。ここで「御用達」の看板を手に入れれば、ヴァナヘイムでの私の信用は、兄貴を遥かに凌駕する。もはや子爵令嬢やなんて、誰も馬鹿にできへんようになる。


ニマーヌ様が下した私への評価は───。



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ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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