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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾


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8/12

白銀の大地とミーミルアイス~上裸の男達を添えて~

 私ら三人は、関係者以外立ち入り禁止の張り紙がされた針葉樹の森を奥に進み、吹き付けるブリザードを越えた先にやってきとった。


「……あかん。これ、冗談抜きで人が長時間居てええ場所ちゃうわ」


 視察のために馬車を降りた瞬間、私は自分の肺が凍りついたかと思った。

 視界の先に広がるのは、ヨトゥンヘイム領の最北端に位置する聖湖───『ミーミル湖』。


 風ひとつない湖面は厚さ数メートルにも及ぶ透明な氷に覆われ、朝日を浴びて青白い冷気を立ち昇らせるその場所は、「神の寝台」とも(ささや)かれる隔絶(かくぜつ)された白銀の世界。


 ただでさえ寒い公爵領の、最も寒い場所と噂されるだけあって、あらゆる生物を拒絶するように全てが氷に支配されとった。


 この立地の悪さと、未開拓の需要も相まって、長らく『氷』は神が作る神聖なものとして世界に認知され続けてきた。


 誰もが氷と身近に接していながら、それらを脅威としてばかり捉える一方で、食するという方向に考える人間はおらんかったんや。


 まあ、それもそのはず。こんなクソ寒い場所で氷なんか食ったら普通に死ぬからな。

 これだけ寒い地域やからこそ、『氷が売れる』なんて発想には微塵もならんようやった。



 氷は熱い場所で売れる。けど、それを知っているのは熱い世界を知ってる人々だけ。

 これだけの情報でも銭の匂いがしてきそうやけど、さらに好材料なのがこの土地でとれる氷の品質にある。


「ここが、我が領地が世界に誇る氷の産地です。ここで切り出される氷は不純物が一切なく、『神鏡氷(ミーミルアイス)』と呼ばれ、王族の晩餐会以外には門外不出とされています」


 隣でシュガーライクが、寒さで紫色の唇を震わせながら解説してくれる。

 あんた、そんなに寒いならもうちょっと厚着してくれば良かったのに。


 私なんて五枚着込んでもまだ寒いで……?


「……にしてもミーミルアイス、か。ええ名前やん。でも『門外不出』なんて、商売人から言わせりゃ『在庫の持ち腐れ』でしかないんやけど……どこで作っとるんや?」


「あちらに人が立ってますよ?」


 ミヤハが震えるシュガーライクにニヤニヤしながら、湖上を指さし、私たちの視線はその方向に自然と動いた。


「ん……? なんやあれ、露出狂のオフ会か?」


 マイナス三十度の世界で、湯気を立てながら筋骨隆々の背中をさらけ出す男たちが視界に入った。

 ……あかん。見てるだけでこっちの視神経が凍傷になりそうや。寒さで頭がイカれてもうたんか、それとも筋肉が天然の断熱材になっとるんか。


 見た目でヤバいと分かる熊みたいな大男たちは湖の上で、上半身裸に毛皮のベストだけを羽織って、楽しそうに巨大なノコギリを引いとった。


「アレ……ですの?」


「はい。彼らこそ、代々製氷・管理を任されてきた職人集団、通称『アイスマン』と呼ばれる者たちです」


 歩きながら誇らしげに紹介するシュガーライク。


 やがて男達の野太い声が、鮮明に聞こえてくる。


 視界に入るだけでも五~六人。全員熊のような体毛に覆われて、氷を切り分けて運び入れとった。


「よいしょー! よいしょー!」


 氷を切り出すたびに、真っ白な飛沫が舞い、鋭い金属音が静寂な湖畔に響く。

 始めは元気でええやん。

 ……とか、適当なこと思っとったけど、よう見たら凄い場所で作業しとることに気づいて私らは絶句した。


 凍ってるとはいえ、焚火をしながら湖の上で氷を切り出しとったからや。

 ……待て待て。あいつら、足元が滑ったら一巻の終わりやって分かってんのか?

 湖に落ちたら一瞬でフリーズドライや。


 せやのに呑気に掛け声なんか出しながら、火を焚いて作業しとる。


 危機管理能力はどこに行ってしまったんや?


「……あんな命がけで切り出しとるんか。……『労働力として困窮層を雇う』なんて言うたけど、これ素人がやったら初日で遺体安置所が満員御礼になるんちゃうか……?」


 私は、自分が提案した「労働と食料の交換」の重みを、この極寒の景色の中で再確認する。ここに連れてくるのも難しいし、ココで働かせるのは更に危険な匂いがした。


「こ、……凍った遺体は沈むので。い、……遺体安置所が埋まることは、……な、……ないかと。一度落ちれば、つ、……掴む場所も限られますから」


 さらっと、シュガーライクは震える唇で恐ろしい事を言うせいで、それを聞いたミヤハが顔を青くさせてまう。


「氷漬けは……嫌ですよ、サーシャ様」


「当たり前や」


 でも、だからこそ。これだけ命をかけてるもんを、王族だけが使うなんて無駄過ぎてヘドがでる。


「おい、アンタら! ちょっと手ぇ止めてや!」


 私が毛玉のような防寒着のまま氷原へ踏み出すと、アイスマンの親方らしき、顔中髭だらけの男がノコギリを止めた。


「……あんたが、噂のバイカル子爵令嬢か」


「なんや噂って?」


 王都じゃ酷い噂が絶えんらしいから、その噂がこんな僻地まで轟いたんか?


「……ウチの家族があんたのおかげで食料が買えたと言っていた。感謝……している」


 アイスマンの親方が大きな頭を下げると、他のアイスマンも一斉に私に礼をしてきた。


「あ、……あぁ! そっちかいな⁉ ……はぁー、まあ……良かったやん。───今日はここの『氷』の視察に来たんやけど。話は通っとる?」


「ああ……問題ない。ココでは話も難しいだろう。近くに小屋がある。案内しよう」


 アイスマンたちに囲まれて、風除けになって貰いながら私達一行は近くにある小屋まで案内された。簡素な木造建築かと思ったけど、中は結構温かい。ずっと暖炉が燃えてるからかもしれんけど、煤臭さと雪の匂いが混じった空気でちょっと息苦しい……長居は無用やろう。


「ココにきたってことは、新しくまた氷が必要になったということだな?」


 アイスマンの親方は私たちが部屋に入ったのを確認して、長い髭を撫でながら鋭い眼光を飛ばした。私がどんな人間か、野性的な目で秤にかけとるみたいや。


「せや。氷を王国南部の熱い地域に売りに行く。そこで利益が出たらさらに国外にも、輸出を検討中や」


「…………。……は?」


 聞いていたアイスマンたちの視線が、一斉に私に集中した。親方は耳を疑ったように、巨大な指で耳の穴を掃除しよる始末。どうやら完全に理解していない様子やった。


「お嬢、これは神聖な氷だ。平民が口にするなんざ罰が当たる。……それに、俺たち貧乏人がわざわざ氷に金を払うわけねえ。そうだろ、お前たち」


 背後のアイスマンたちも「んだんだ」と、頑固そうな相槌を打ちよった。こいつら、職人としては一流やけど、マーケティングに関しては石器時代レベルやな。


「ココにおったら、そら氷が貴重品なんて思わんやろう。せやけど、世界には氷が欲しくても手に入らん国が世界中にあるんや」


「……(にわ)かには信じがたいな。氷がない世界だと? そこは全て泥濘(ぬかるみ)なのか?」


「いいや、そもそも雪が全くない国だって多くある。土が常に乾いてるんや。あの暖炉の灰みたいな、サラサラの砂漠っちゅー大地だってある」


「……?」


 雪国生まれ雪国育ちのアイスマンたちにとって、砂漠というのはもはや空想上の産物に他ならんのやろう。


 何とかして砂漠の中で氷を手に入れた時の喜びを彼らにも理解してもらいたい……そう考えた時、私はピーンと一つの妙案を閃いた。


「あっ、この顔はお嬢様が何か企んでる顔ですよ。真剣過ぎて眼つきが怖くなるので、みなさんから『サーシャ様怖っ』、と言われる名物の氷の瞳です!」


 ミヤハはそんな嘘をアイスマンたちに吹聴(ふいちょう)する。誰もそんなことを言っていた憶えはないし、噂も聞いたことがない。


 それに迎合してシュガーライクも「また何か企んでますね……」としたり顔で言うから始末におえん。私の悪い印象は、全部身内から作られてるような気がしてならんかった。


 それを払拭するためにも、アイスマンたちには私のことを善良な人間だと思って貰う必要がある。そのためには何をするか? 


 もちろん、慰労(いろう)も兼ねて氷の良さを理解してもらえばええんや。


「全員、邸の一階にある『ケロサウナ』を使おう。そこでアッツアツになって、氷の良さが分かるデザートを振る舞ったる」


「……公爵邸のサウナ? ずいぶんと久しぶりだな……」


「ええやん。そこでたっぷり汗かいて、脳みそドロドロになったところで……私が『神の食べ物』を教えたるからな!」


 私が考えとるのは氷を使ったデザート、アイスクリームや。

 サウナで火照った体にアイスクリームをぶち込んで、氷の素晴らしさを理解させたるわ。


主人公が関西出身なので、「ちんちん(熱々)」って表現を使おうかと思ったのですがやめました。



それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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