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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
序章:氷売りの令嬢

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ゴミを金に変え、過労死寸前の眼鏡を救う───子爵令嬢の「裏」工作

公爵邸の応接室。暖炉では薪がパチパチとはぜ、上質な針葉樹の香りが室内を満たしている。だが、対面の椅子に浅く腰掛ける男——王宮物流局の次長、ザイゼンは、暖炉の熱とは無関係にガタガタと震えていた。


「……それで、ザイゼン様。南部倉庫の状況、大変心痛めておりますわ」


私はサファイアの瞳をわざとらしく潤ませ、白銀の扇子で口元を隠しながら、極上の「悲劇のヒロイン」を演じてみせる。


「いやはや……アレクサンドル様にそう言って頂けると、心の重荷が取れるというもの……」


ザイゼンが脂汗で浮き上がったカツラを、ハンカチで必死に押さえる。こんな極北の地にやってきたのは、藁をもすがる思いやったに違いない。



(……せやけど、随分やらかしたもんやな。去年産の小麦を死蔵させて腐らせたなんてバレたら、それこそ絞首台行きは免れん。……せやけど、その粉飾決算と背任の隠蔽、このオジサンの罪を私なら秘匿できる。この人もそれが分かってここまで足を運んできたんやろう。ご苦労なことや)


「それにしても、お上も酷いことをなさいますわね。この大事な時期に、突然の人事異動なんて」


「お、お耳が早い。……左様でございます。あの御方の親戚が責任者に座りましてから、現場は大混乱。このままでは、来月の定期監査で……」


ザイゼンはそこまで言って、口元を覆った。


「一族郎党、処断されるのは目に見えています。……どうか、御慈悲を」


泣きそうな顔で訴えるザイゼン。無能な上司の尻拭いをさせられ、挙句に全責任を押し付けられようとしている中間管理職の悲哀……。


同情せんでもないけど、商売人に情なんていう端金は存在せん。

弱ってる時こそ、骨の髄までしゃぶるのが私の流儀や。


「まぁ、お気の毒に。……でしたら適正価格よりは安くなりますが、処分に困っている小麦を、我が領の『ボイラー燃料』として引き取っても構いませんわよ?」


「ね、燃料……!? 小麦を、ですか?」


「ええ。あくまで『エネルギー資源』として、私の名義で運びなさい。王都の法律では食料品には莫大な『通行税(マージン)』がかかるけど、エネルギー資源なら非課税でしょう?」


炭鉱を抱える国営ギルドを保護するため、エネルギー資源には税がかからん。その穴を突いた商品偽装や。


「運行表に『ヨトゥンヘイムへの燃料輸送』と記せば、監査官も怪しみませんわ。ヨトゥンヘイムは石炭の産出量で言えば大陸随一。ここが燃料を運んでいることに、不自然な点など一つもございません」


(ザイゼンにとって、今一番怖いのは『証拠が残ること』。つまり、『証拠が消える』と耳元で囁かれるのが、何よりの救いになるわけや)


「契約書はこちらになりますわ」


提示した契約書は表には出ないもの。ザイゼンと彼の一族が出した膨大な負債を、肩代わりするという内容やった。


実際には私が小麦を買い取ってるだけなんやけど、彼らからしてみればもはや食べられない小麦を引き受けると言うことは、負債を肩代わりしてもらったことに等しいということ。首の皮一枚繋がった代わりにそこにバイカル印の首輪をつけるというわけやった。そして後は、その首輪がどれぐらいきつく締めるかという話し合いになる。


「……輸送費はこちら持ち、となると……」


提示した契約書を読み、ザイゼンが躊躇を見せた。

小麦を買い叩かれた上に、輸送費まで負担すれば、ザイゼン一家はエリートから中流階級へ転落する。……人間少し楽になれば欲がでるもの。それを掬い上げて利用するのは……商人の専売特許や。


「でしたらご提案がありますわ。……もし、これから王宮の動静を逐次流して下さるのであれば。輸送費もこちらで持つ用意がございますわ」


つまり、私専属の間諜(スパイ)になれという命令や。彼にとっては、たったそれだけで今の生活が維持できる。……地獄に仏。選択肢のないザイゼンは、面白いように私の手の中で踊った。


「小麦を『燃料』として引き取ってもらい、私のミスは『燃料輸送の成功』として処理される……。なるほど、今すぐ契約を。南部第4・第9倉庫の小麦、すべてヨトゥンヘイムへ送り出します。間諜の件もお任せ下さい。貴女様に我らザイゼン家は忠誠を誓いましょう」


ザイゼンが、憑りつかれたような顔でペンを走らせる。

相手を追い詰めすぎず、生かさず殺さず、長期的に搾り取る……。我ながら、実にエグい契約書が作れたわ。


最高級の小麦を定価より安い値段で手に入れた上、払った金もいずれザイゼンから回収できる。実質ロハで食糧を手に入れたようなもんや。



おまけに、物流の動きが分かれば、王宮が次に打ってくる手も丸わかりになる。

……フロストにいい土産ができたな。


「……ありがとうございます。これで、領民たちも温かく冬を越せますわ」


哄笑しそうになる口元を引き締め、私は慈愛に満ちた聖女の微笑みを浮かべて、ザイゼンの震える手を優しく握った。



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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