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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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黒幕はもふもふでした───ナニワの令嬢、王の剛腕に舌を巻く

獣人の群れが静まり返る。救国の英雄であり、大陸最強の軍事力を持つフロスト。その彼が下した裁定に「NO」を突き返せる亜人は、この国にはおらんかった。


万事が恐ろしいほど手早く、すんなりと経過していく───。


私はその時、隣に立つフロストと玉座のキャスパリーグ王の視線が、少しの間だけ交錯したのを見逃さへんかった。


二人の間に流れる密やかな空気───。


「ふぅん……」


大衆の面前で繰り広げられる、計算し尽くされたパフォーマンス。

分かってしまえば全てが茶番に思えた。


「フロスト……あんた、私に黙って交渉進めてたやろ」


私の問いかけに、彼は「ははっ」と視線を泳がせる。誤魔化しの下手な男。おかげで確信が深まった。




私が台本に気づいたのと時を同じくして───キャスパリーグ王が玉座から身を起こす。もふもふの髭を震わせ、広場全体を震わせる声を張り上げた。


「(フロスト卿! 卿の武勇と度量、感服しただに! ……儂は卿を、ミズガルズ王家に対し『大公』として正式に推薦することを認めるに!)」


地鳴りのような歓声が沸き起こる。民衆が拳を突き上げ、広場が熱狂に包まれる。


───もちろん、茶番。


感服? 胸を打たれた? そんな情緒的な理由で『大公』の推薦が決まるわけがない。


───おそらく一週間前。クーデターが始まった瞬間には、すでにこの「結末」は書き上げられていたに違いない。


そう考えた瞬間、私の発想は更なる飛躍をする。同時に恐ろしいキャスパリーグ王の計画に気づいた。


(不穏分子の一掃。 軍縮の断行。そんで……内政に必要な莫大な支度金。王は三手先を同時に進め、見事にこの国から「膿」を出し切ったんちゃうか?)


私とフロストという予定外がありつつも、キャスパリーグ王は兄を利用して、この国の大掃除を完遂させたということや。信じられんけど、この軍事クーデターで、誰が得をしたかで言えば、キャスパリーグ王しかおらんかった。


「なるほど……ヴァナヘイムの王は、怖い人やな」


そんな感想も束の間。


───パチン、と背後から乾いた音が響く。振り返ると一点の汚れもない白い手袋が目についた。


「おやおや。随分と景気のいい話をしているじゃないか」


最後の功労者───アリステア兄さんが、優雅な足取りで絞首台の階段を上がっていく。


「キャスパリーグ王。フロスト卿が支払うはずの免罪符代、金貨六万枚。……すべて我がアリステア商会が、無担保・無利子で肩代わりさせてもらおう」


広場にどよめきが走った。 金貨六万枚(※約十八億円)。 この男は、明日のパンを買うような気軽さで、その額を口にした。まるで事前に予約しておいた商品を取り寄せるかのように、その口ぶりは滑らかや。


「おぉ! そいつは有難いな!」


フロストがわざとらしく声を上げ、アリステアの提案に乗っかる。裏を知る者が見れば、鼻をつくほど臭い三文芝居を彼はやり終え、清々しい顔をしていた。



恙なく戦後処理を終えた私たちは、王宮へと続く回廊を歩いていた。 銅貨一枚すら失わず、治安と他国との親和、そして内政の基盤を手に入れたキャスパリーグ王。その後ろ姿は、勝利の喜びに震えているようにも見えた。


「兄貴、アンタ……次は何を企んでるんや」


私は、隣を歩く兄の横顔を睨みつける。


「企む? ははん、何のことやら。支払いをしたので言えば、これは兄としての、ささやかな前祝いだと思いたまえ」


兄が鼻を鳴らす。


「軍神フロストとの(えん)は貴重だ。味方に引き入れるチャンスがあるなら、今しかないと思ったまでのこと」


「ほう……戦う前から尻尾巻いて逃げたわけやな?」


「おいおい、煽ったって無駄だぜ。お前は僕と戦う土俵にいない」


兄が不敵に笑う。その肩を、フロストの大きな手がガシッと掴んだ。


「アリステア君。それぐらいにしてもらおうか。あまりサーシャを揶揄わないでもらいたい」


「なに、兄妹の戯れですよ。……どうぞ、彼女を捨てないでやってください。二度捨てられるのは、見るに耐えませんから」


兄の言葉を、フロストの真っ直ぐな瞳が遮る。


「言われるまでもない。彼女は俺が守ると誓った」


威風堂々とした宣言。 私の背中に変な汗が流れる。 隣を見れば、なぜか兄のアリステアまでが顔を赤くし、視線を泳がせていた。


「おぉ、オホ……実に真っ直ぐでカッコいいお人だ。素晴らしい婚約者様だよ。なぁ?」


兄は照れ隠しのように、歩きながらこっちを向いて、小さく拍手をしてくる。人間の醜い部分ばかり見て来た兄さんは、こういう純粋な生き物に耐性がない。さぞ、目に毒やろう。


かといって、私もそういう弄りは好きやない。扇子をパッと閉じ、兄の脇腹を突き刺した。この話題は好きやない。私は多少強引でも、別の話題を探すことにした。


「───そういえば兄さん、ヴァナヘイムに氷を売るのは私です。邪魔しないでくださいね」


「構わんよ。僕の目的はあくまで『普通(スタンダード)』の統一だ」


「兄さんが規格化を目指しているのは分かっています。ただ何を基準(スタンダード)にするかは、私の意見を聞いてからにしてもらいます。よろしいですね」


私が正しく兄の為したいことを把握していることに、珍しく目を見開いた。


「……驚いた。船内を見せただけで、そこまで推理できたのか。いや大変結構。お前との会話はいつも手早く終わるから楽でいい。客間に通され次第、すぐに始めよう」


兄が口角を吊り上げる。いつもは群衆に紛れたらすぐに見分けがつかん顔やのに、笑った時だけ化けの皮が外れ、その恐ろしい本性が露わになった。


(フロストに褒められたら嬉しいけど、こいつからは何も嬉しくない。無駄口を叩くなら、ずっと閉じてればええのに)


私はそんなことを思いながら、王宮の重厚な扉を潜った。




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