表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/99

フロスト様は戦友を放ってはおけないようです

王と王女と過ごした一週間はあっという間に経過した。

潮風に混じって、獣の血の匂いが漂うヴァナヘイムの広場。クーデターの終わりは、勝者による「清算」の時間でもあった。


「……ひどい有様やな」


 私はフロストの執事たちが用意した日傘の下、扇子をパタパタと仰ぎながら、広場に整列させられた敗残兵の群れを眺めていた。


壇上では、クーデターを主導した軍上層部の連中が、すでに「縛り首」となって晒されている。彼らに弁明の余地はない。


兄のアリステアに唆されたとはいえ、主君を裏切り、国を乗っ取ろうとした代償は、命で償うのがこの世界の道理や。


どんな誘惑があろうと、最後に剣を抜いたのは己自身。冷たいようやけど、自己責任っちゅーやつやな。


せやけど、問題はその背後に並ぶ、数千人もの一般兵たち。彼らは少し事情が異なっていた。


「(王よ、どうか……! 彼らはただ、上官の命令に従っただけにございます! 若い者たちにまで罪を問えば、この国の未来が枯れてしまいます!)」


エルフの女王ニマーヌ様が、普段の流暢なエルフ語ではなく、拙い獣人語でキャスパリーグ王に必死の訴えを続けている。王は腕を組み、もふもふの髭を震わせて唸っていた。

「(……分かっておる、ニマーヌ。だぎゃな、一度裏切った刃をそのまま国に置くわけにはいかんのだに。民の怒りを鎮めるには、相応の『血』が必要なのだ……)」


王の言葉は重い。情けで反乱軍を許せば、それは次の反乱への「先行投資」になってしまう。一族郎党皆殺しにしないだけ、キャスパリーグ王は優しい王様や。


人間の国(ミズガルズ)なら、何も悪いことしてなくても、婚約破棄した挙句に相手の領地とギルドを根こそぎ奪うくらいのことは平気でやりよるからな。主犯の処刑だけで留めるなんて、寛大すぎるわ。


「(どうかお慈悲を!)」


 絞首台に立つ息子のために平伏する家族たち。絞首台横に積みあがった死体を見れば、今はどれだけ額に血を流しても後悔はないといった様子だった。


───その重苦しい空気を、一筋のバリトンボイスが切り裂く。


「───死ぬすぐらいなら、俺の部下にしても構わんだろうか」


 軍服の返り血すら拭わず、泰然と王の前に立ったのは、極北のアイスキング――フロスト・フォン・ヨトゥンヘイム。その背後には、最新の連射式クロスボウを構えた三十人の精鋭たちが、広場全体を威圧するように控えている。


「(……フロスト卿? 何か言っとるんか?)」


 人間の言葉を解さないキャスパリーグ王が首を傾げる。


「こいつらはいい目をしている。死を覚悟しながら、まだ牙を折っていない。……処刑するには惜しい戦友だ。俺の配下として、ヨトゥンヘイムで引き取らせてもらいたい! 二度と貴方達の国に剣を向けないよう、俺が責任を持って管理すると約束しよう!」


フロストは笑顔で、とんでもないことを言い放った。私は手に持っていた飲みかけの果実酒を吹き出しそうになる。


「……ちょっ、フロスト様!? アンタ、正気か!?」

 

日傘の下から飛び出し、彼の隣に詰め寄る。


「数千人の捕虜やで!? 維持費だけでヨトゥンヘイムのキャッシュフローが爆死するわ! そもそも反乱軍を丸ごと抱え込むなんて、リスクヘッジもクソもない大博打やぞ!」


「ハハッ。サーシャ、俺の言葉をそのまま翻訳してくれるかい? 『こいつらは全部俺のものだ。手出し無用。金は払う。だから全部俺に寄越せ』……オーケイ?」


「ノットオーケイ。考え直さへんか? フロスト」


「戦争は俺の領分だ。好きにさせてもらう」


「うぅ、手痛い出費やなぁ……」


フロストに笑顔で肩を掴まれたら、もう私に彼を止める術はない。散々内政で私のワガママに付き合わせてる分、戦後処理は彼の領分。たとえ数千人の「もふもふの領民」が増えようと、領主様のご意向として処理するしかないわ。私は渋々、フロストの言葉をキャスパリーグ王へ、極めて「柔らかい」表現で通訳した。


 翻訳を聞くフロストの目は、間違いなく本気やった。彼はかつての自分と同じように、「戦場しか知らない」者たちを見捨てることができへんのや。きっとそうやって集められた多国籍軍こそが、彼の喜びなんや。なら、私も躊躇はせえへん。


新しい家族の受け入れ、許可したろやないか。

隣で立ち尽くす兵士たちが、フロストを「……悪魔が、俺たちを?」と、救いを見出した目で見上げている。この男のカリスマ性は、すでに獣人たちの心を掴み始めていた。


「(……卿、本気か? 捕虜一人につき、国への『免罪符』として相応の金を積んでもらわねば、儂も示しがつかんのだに)」


 キャスパリーグ王が、値踏みするようにフロストを見た。


「王はなんと?」


フロストの視線が私へ向けられる。


「……許してあげてもええけど、お金を払えって言うてはります」


王に提示された額は、一人頭、ミズガルズ金貨で十枚。


「一人頭、金貨十枚(三十万円)か。……合計で金貨六万枚(十八億円)といったところか。ヨトゥンヘイム領の名において、必ず支払うと約束すると伝えてくれ」


「金貨六万枚かぁ……しゃあないな」


私の脳内そろばんが、ガコンッ、と鈍い音を立てて停止した。マリーン・ヴェイルで血反吐吐いて稼いだ利益が、一瞬で負債に変わりそうやけど。こうでもないとフロストに、私が付き合わせてばっかりになるからな。仕方ないわ。


「……フロスト。高い買い物やで。リスクも凄まじいし……ちゃんと面倒見るんやで?」


「もちろん。彼らなら、毛皮もあるし寒いところでもきっと安心さ」


こうして、獣人六千名がヨトゥンヘイムの軍門に降ることとなり、ヨトゥンヘイム領には更なる食費が加算されていくのだった。



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ